No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

Cross Talkクロストーク

試合中に選手の横にいるキャディーさんに向けた
メンタル管理マニュアル

植村氏と下地氏の対談は、2020年10月22日にリモートで行われた。
植村 啓太氏,下地 貴明氏

── ツールで選手のメンタルを客観的に知り、その情報を読み解いて適切な対処をする際には、植村さんのようなコーチが必要になるということですね。

植村 ── なるほど。しかし困ったことに、コーチは試合中に選手と話すことができません。そうすると、バッグを担いで、いつも選手の横にいるキャディーさんが、その役割を担うことになりそうですね。キャディーさんが、選手の横でメンタル状態を正確に知って、状況に合わせて選手に響く言葉を投げかけることで、いい状態にもっていくことが大事になるかもしれません。

試合中にキャディーさんが選手の心の状態を常に把握し、どのような状態の時にどのような結果が出たのかを対応付けることができれば、その選手の心の動きの傾向を探ることができると思います。そうした情報を持ち帰ることができれば、私たちコーチが調べて、「次の試合の時には、こうした場面には、このように考えてみよう」とか、「今週は、こんな言葉を口に出しながらプレーしてみよう」といった対策が取れるようになるかもしれません。

下地 ── プロの試合では、キャディーさんはチームの専属なのでしょうか。

植村 ── 選手によってそれぞれですね。一年間ずっと同じキャディーさんを専属契約している選手もいれば、大会別に違うキャディーさんを依頼する選手も、そのコースをよく知る地元のベテランキャディーさんの方がいいという選手もいます。そうなれば毎回、違うキャディーさんになったりします。ただし、トッププロともなればチームで戦いますから、コーチやキャディーさんを専属で抱える傾向があります。

下地 ── キャディーさんが変わる場合には、その選手のメンタル管理マニュアルを引き継げるようにしておく必要があるかもしれませんね。メンタル面の動きを数値化して、行動や結果と対応付けて傾向を知っておけば、そうしたマニュアルを作ることができる可能性がありそうです。チーム専属のキャディーさんがいる場合に合わせたEmpathの使い方もあるだろうし、地元に密着したキャディーさんが活用するための使い方もある気がします。

植村 ── いかに経験や実績が豊富なキャディーさんでも、選手との相性というものがどうしても出てきます。相性のいいキャディーさんとよくないキャディーさんでは、一体何が違うのかといった点も興味深いですね。

ゴルフの世界では、選手とキャディーさんの関係は、どうしても選手優位になりがちです。選手がキャディーさんを選ぶ際には、グリーンの目を読むのがうまいといった技術的な側面を重視することもあります。しかし、多くの場合、言ったことをしっかりとやってくれるとか、余計なことを言わないとか、試合中に一緒にいて楽しませてくれるとか、といった理由で選んでいます。これらは、キャディーさんの言動が試合中の選手の心の動きに少なからず影響することだからだと思います。そうした選手優位での漠然としたキャディーさん選びが、ツールによってメンタル管理の技術を数値化することで、もっと合理的になると思うのです。また、選手とキャディーさんそれぞれの個性の最適な組み合わせなども明確に分かってくるとありがたいですね。

K's Island Golf Academy K's Island Golf Academy

Profile

植村 啓太氏

植村 啓太(うえむら けいた)

K's Island Golf Academy 主宰 ツアープロコーチ

1977年生まれ。16歳からゴルフを始め、ツアープロを志し研修生やアメリカ留学を経験する。怪我によりツアープロの道を断念し、21歳からティーチング活動を始める。その後23歳の若さでツアープロと契約し、ツアープロコーチとしてデビュー。大場美智恵プロや服部道子プロをはじめ、現在まで多くのツアープロのコーチを担当する。2005年には自身が主宰する「K's Island Golf Academy」を東京都世田谷区のオークラランドゴルフでスタート。その後、メンバーシップアカデミーの「K’s Island Golf Academy代官山スタジオ」をオープンし、多くのアマチュアの指導にあたる。また、大阪にあるゴルフ&ボディスタジオ「GOLDIA」で、自身初のプロデュースを手掛ける他、2012年には、海外進出の第一歩となる「K’s Island Golf Academy Publica Malaysia」をマレーシアにオープンした。ゴルフ誌、ゴルフ番組をはじめ、ファッション誌やDVDなど幅広いメディアに出演し、ゴルフの魅力を伝えるとともに、ゴルフスクールの再生やプロデュース、インストラクターの育成にも力を注いでいる。

下地 貴明氏

下地 貴明(しもじ たかあき)

Empath CEO

1981年 香川県生まれ。2006年 早稲田大学教育学部卒業後、システムエンジニア、プロジェクトマネジメントを学び、経済産業省「情報大航海プロジェクト」への参画、「この指とまれ」の改築、運営業務に携わる。2011年にスマートメディカル取締役ICTセルフケア事業部長就任。音声気分解析技術「Empath」の研究・開発を行う。2014年 東京大学保健推進健康本部の受入研究員として、Empathを活用したメンタルヘルスアプリを開発。2017年、スマートメディカルからスピンオフしたEmpathの代表取締役に就任し、Affective Computing領域におけるEmpathのビジネス活用を推進している。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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