LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Cross Talk

エネルギーネットワークにおけるキラーコンテンツは何か?

──エネルギーに関しても、こうしたキラーコンテンツは存在するのでしょうか?

加藤 ── エネルギーの見える化やスマートメーターの導入だけだと、ユーザーは付いてこないでしょうね。
今の日本は、ほとんどの地域で夏場のピーク電力が不足しています。この切実なニーズからすると、「ネガワット」の考え方が有効でしょう。ネガワットとは、マイナスのワット、つまり使われなかった電力を指します。ピーク時の電気代を高くすることで、ユーザーがピーク時の電力を下げるように促し、さらにそのご褒美として省エネエコポイントを提供するのです。2011年には東京電力管内でKDDIと協力して、前年同月比で15%削減できた人にポイントを付与するサービスを行いましたが、これをもっと汎用的にしたものと考えていただければよいでしょう。
東京電力はこれから3年間でスマートメーターを管轄内の1700万戸に取り付ける予定ですが、それでは今夏に間に合いません。そこでウェブ技術を利用します。例えば、NTTスマイルエナジーは分電盤に取り付ける電力センサーを利用した見える化サービスの「エコめがね」を月額390円で提供しています。こうしたウェブのサービスを利用すれば、スマートメーターが全戸に入らなくても、デマンドレスポンス(需要応答)が可能になるわけです。

──電力消費を抑えた世帯には省エネポイントを提供するということですが、その原資は何でしょうか?

加藤 ── 家電エコポイントや住宅エコポイントは、国がお金を出しましたが、もう国がそうした財政出動を行える状況ではありません。そこで、私たちが進めているのは、電力会社に払ってもらうやり方です。
ユーザー側で使用電力を下げてもらえれば、電力会社の発電設備への投資は軽くなります。出力100万kWクラスの原発を1基作ると3000億円、水力なら2500億円、火力なら1800億円かかります。夏場のピーク電力に合わせて設備投資を行うのは、電力会社の経営にとっても大変に厳しいのです。ならば、ユーザーにインセンティブを支払うことで、投資額を減らそうということです。
節電の仕方によって、年間数十万円分の省エネエコポイントが得られるとなれば、節電するインセンティブも高まりますし、電力会社としても投資を抑えられて助かりますから、すべてが好循環になるでしょう。

清水 ── 私の家では昨年6月に太陽電池パネルを導入したのですが、今年2月までの7ヶ月間に消費電力量の1.7倍を発電しています。夏は発電量が多くて、けっこう余っているんですね。

加藤 ── 省エネをもっとできる方、普通にできる方、少ししかできない方、出来ない方をまとめて、一律に需要を抑えてくれと要望するより、各世帯の貢献に応じてポイントを配布した方がユーザー側のインセンティブは高くなるでしょう。どうしてもクーラーを付けて快適に過ごしたいという人は、ピーク時に高い電気代を払ってもらって、省エネエコポイントに協力してもらえばいい。トータルとして消費電力を減らせればよいのです。

清水 ── エコポイントを経由することで、家庭間で電気を実際に融通し合うのに近い効果が得られるわけですね。それは非常に重要な視点だと思います。蓄電池や電気自動車を持っている家庭ならば、より効果的にピーク時電力を抑えることができそうです。

加藤 ── いわば、電気のプロシューマーですね。エネルギーを生産して、しかもそれを個人間で取引し始めることになります。
東京大学大学院の阿部力也特任教授らはデジタルグリッドでエネルギーを個人間で融通しようとしていますが、まだ技術が開発途上ですし、法律の制約があって現時点ではできません。太陽光発電や蓄電池、電気自動車で生み出した価値を省エネエコポイントに変換し、それを地域内で取引できるようにすれば、同様の社会的効果を上げられることになります。

清水 ── 先ほど加藤先生は、20世紀に発見/発明された原理や技術が普及寸前にまで来ているとおっしゃいました。しかし、日本が技術だけで生きていこうとすると新興国に飲み込まれてしまうことになるでしょう。そうならないためにも、技術をキャッシュに換える知恵、つまりビジネスモデルが必要になると思っています。
これまで日本ではオリジナルの技術を追求してきましたが、今後はむしろビジネスにおけるオリジナリティの方が大事になってくるのでしょうね。

加藤 ── テクノロジーのエンジニアリングと、ソーシャルなエンジニアリングは車の両輪です。社会的な要請を汲み取り、それを具現化するためのマネジメントを行い、テクノロジーの成果を利用していく。スマートグリッドの構築においては、そうした視点が不可欠になるでしょう。

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