LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Cross Talk

日本が目指すべきエネルギー網のあり方は「自律分散協調」

──日本の電力網、さらにはエネルギー網のあり方を巡って激しい議論が行われています。お二人としては、将来のエネルギー網がどうあるべきだと考えられていますか?

清水 ── 技術的な観点からいうと、今後のエネルギー網は個々の要素が自律しながら、お互いに協調が行われ、全体として機能していく自律分散協調型でないとうまくいかないと思っています。私は太陽電池がこれからの時代を作っていくと考えていますが、雨が降っている時には発電できないという泣き所があります。よくエネルギーの地産地消が重要だといわれますが、むしろ日本全国で協調しながら使わないと太陽電池のメリットは活かせません。誰もが電気を作り、誰もが使う、こうした協調が全国レベル、さらには世界レベルで行われる時代を作っていく必要があります。
どう成功モデルを作り、70億人という世界のマーケットに展開していくのか。それが日本の考えなければならない大きな戦略でしょう。

加藤 ── 現在、発送電分離や電力の完全小売り自由化、地域独占の排除といった議論が行われています。今年8月には経済産業省の電力システム改革専門委員会で議論がまとめられ、年末には法律骨格の作成、来年初頭には電気事業法の改正案が国会に提出される予定です。これは、明治に日本の電力システムができて以来の大改革になることでしょう。では、この電力網をどう作るかというと、私は三層構造にすべきだと考えています。

最初のレイヤーは、日本全体の電力網、ナショナルグリッドを、自然再生可能エネルギーも考慮してどう作っていくか。その上のセカンドレイヤーは、従来電力会社の管轄内でどう最適化するか。そして、サードレイヤーは市町村やコミュニティ単位の最適化ということになるでしょう。
 この関係において一番基本になるのは、エネルギーの生産・消費の最小単位である家庭やオフィスです。インターネットの場合、最小単位である個人から始まって社会を変えていきました。スマートグリッドも、コミニュティよりさらに小さな家庭やオフィスの単位で自律分散協調ができるかどうかがカギになるでしょう。
各家庭やオフィスの太陽電池パネルや蓄電池、電気自動車でエネルギーの「自産自消」が成り立つようにし、それでも生じる過不足分はエコポイントを媒介にして相互に融通できるようにします。この発想の原点にあるのは、京都大学 松山隆司教授の「オンデマンド電力ネットワーク」です。一人一人が主体的に電気を生産したり消費することで、自律的に最適化が行われます。そうした自律的なネットワークが積み上がると、コミュニティ単位の最適化も実現され、エネルギーの地産地消になる。コミュニティに過不足が生じたら、やはりエコポイントを媒介してコミュニティ単位で取引を行えばよいでしょう。
もちろん、地熱発電のように地産地消に適した電源もありますし、排熱も遠くに送ることは難しい。こうしたエネルギーの特性を考えつつ、エネルギー網のレイヤーを設計していく必要があります。

──どういうタイムスパンで、電気自動車の普及やスマートグリッドの構築が進んでいくとお考えですか?

清水 ── 電気自動車については、あるポイントで大量生産による低価格化と普及が一気に加速する効果が出てくると思いますが、それを見通すのはなかなか大変です。私は5年くらいで電気自動車が普及するだろうと思って研究を進めていましたが、30年経ってしまいました(笑)。 ただ、今度こそという感触は得ており、5年くらいしたらS字カーブに入れると思っています。いったんそうなれば、インターネットが普及したのと同じくらいのスピードで電気自動車が普及していく可能性はあるでしょう。

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