No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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日本での動き…注目は北海道

民間宇宙開発は米国で非常に盛んになっているが、日本ではどうだろう。

残念ながら、米国に比べると一歩も二歩も遅れていると言わざるを得ない。しかし動きがないわけではなく、ここで注目したいのは北海道。意外に思われるかもしれないが、この北の大地で、2つのロケット開発プロジェクトが進行中なのだ。

北海道で開発が進められているCAMUIロケット(右)とSNSロケット(左)の写真
[写真] 北海道で開発が進められているCAMUIロケット(右)とSNSロケット(左)

1つ目は、北海道大学と植松電機が開発している「CAMUI」ロケット。固体の燃料(プラスチック)と液体の酸化剤(液体酸素)を使うハイブリッドロケットで、2002年以降、これまでに50機以上の打ち上げ実績がある。まだ宇宙には届いていないものの、大型化を進めており、2012年には推力500kgf*2級のロケットで高度7.4kmの打ち上げにも成功した。

北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)
http://www.hastic.jp/

もう1つは、元ライブドア社長の堀江貴文氏が設立したSNS社のロケット。こちらは燃料(エタノール)も酸化剤(液体酸素)も液体となる液体ロケットで、1号機「はるいちばん」の打ち上げは2011年3月に実施。高度500mの飛行に成功した。このときの推力は100kgf級であったが、最新の5号機「ひなまつり」では500kgf級まで大型化した。

SNS
http://www.snskk.com/

人工衛星を打ち上げるにしても人間を運ぶにしても、まずはロケットがなければ話にならない。堀江氏は「誰でも普通に宇宙に行ける世の中にしたい。いま実現可能な手段の中で、最も安く宇宙に行ける可能性が高いのがロケット。だからロケットを作っている」と語る。有人飛行の前に、まずは2014年中の衛星投入を狙う。

一般に、ロケットの射場は種子島のように、なるべく赤道近くに作るというイメージがあるかもしれないが、これは静止衛星の打ち上げに有利だからだ。だが、地球の自転速度を打ち上げに利用できる静止軌道と違い、観測衛星等で多く利用される極軌道への打ち上げの場合、射場が高緯度にあっても特に不利なことはない。

両者が打ち上げの拠点としている北海道・大樹町は、東方向と南方向が太平洋に開けており、地理的には打ち上げに適していると言える。1,000m滑走路を備えた多目的航空公園がすでにあるなど、自治体が宇宙開発に積極的ということも魅力の1つだ。

北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)は、多目的航空公園の滑走路を延長して、大樹町にスペースポート(宇宙港)を建設するという構想も進める。今後、北海道が日本における民間宇宙開発の一大拠点となるかもしれない。

[ 注釈 ]

*1
弾道飛行に対して、周回飛行というのは、人工衛星のように、地球のまわりをクルクル回り続ける飛び方のことだ。米国の「スペースシャトル」やロシアの「ソユーズ」など、これまで国が開発した有人機は、この周回飛行が可能なもの。周回軌道を指す「オービタル」に対し、弾道軌道は「サブオービタル」と呼ばれ、区別されている。
*2
「kgf」は力の単位の1つ。1kgの物体にかかる重力の強さが1kgfである。

Writer

大塚 実

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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