No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

第3回
クルマ開発の新たな挑戦分野、電池

2018.10.31

文/伊藤元昭

クルマ開発の新たな挑戦分野、電池

電気自動車(EV)は、もちろん電力で動いている。ガソリン車の燃料タンクに替わり、その電力を蓄える役割を担うのがバッテリー(2次電池)である。EVのバッテリーは車体重量と製造コストの約20%を占め、さらに蓄積できる電力量や充電時間、出力はバッテリーの性能によって大きく変わる。ガソリン車では、燃料タンクの性能が論じられることはまずない。ところがEVでは、バッテリーのスペックが、走りの軽快さや航続距離、日々の使い勝手、安全性、そして価格や寿命にまで大きな影響を与える。このため、各自動車メーカーは、その技術開発に莫大な資金と人材を投入している。EVを魅力的なものにする技術を紹介する本連載、第3回はバッテリーとそれを制御する技術の進化について解説する。

従来のガソリン車にもバッテリーは搭載されている。ただし、それはエンジンの始動補助やエアコンなど電装品の稼働に使うものだ。そこで利用するバッテリーは、低出力だが使い勝手に優れ、安全性が高い鉛蓄電池*1で十分だった。

クルマを走らせる動力源として本格的にバッテリーが使われたのは、1997年にトヨタ自動車が世界で初めて量産したハイブリッド車「プリウス」からだ。ただし、それでもバッテリーだけで動いていたわけではなかった。ハイブリッド車に搭載するバッテリーには、車体を動かせるほどの出力がありながら、安価で安全性に優れるニッケル水素2次電池*2が使われていた。

これに対しEVは、常にバッテリーだけで車体を動かす点で、これまでのクルマと大きく異なる。走行中のいかなるシーンにも、モーターの駆動力だけで対処する必要があるため、より高性能なバッテリーが必須だ(図1)。こうした厳しい要求に応えるバッテリーとして、現在市場投入されているEVに採用されているのがリチウムイオン2次電池*3である。

[図1] すべての動力源をバッテリーに頼るEVには、高性能なバッテリーの搭載が必須
これまでのクルマに搭載されていた鉛蓄電池(左)、EVに搭載される高性能なリチウムイオン2次電池(右)
Photo:Adobe Stock
すべての動力源をバッテリーに頼るEVには、高性能なバッテリーの搭載が必須

EV向けのバッテリーには、長距離のドライブを可能にする持久力と、必要に応じて大きなパワーを瞬時にモーターに送ることができる瞬発力の両方が求められる。電池の性能は、主に2つの指標で表される。航続距離に影響するエネルギー密度(単位はWh/kgまたはWh/l)と、クルマの加速やトルク(回転力)、充電時間などに影響するパワー密度(単位はW/kgまたはW/l)である。リチウムイオン2次電池は、これら両方の指標で、ニッケル水素2次電池に勝る性能を実現する。さらに、長寿命*4で自然放電が少なく、継ぎ足し充電が可能であるといった、クルマの動力源として極めて使い勝手がよい性質を備えている。

[ 脚注 ]

*1
鉛蓄電池: 正極に二酸化鉛、負極に海綿状の鉛、電解質に希硫酸を用いた2次電池のこと。単セルでの公称電圧は2Vである。電極材料の鉛が安価で、短時間で大電流を放出しても長時間で緩やかに放電しても比較的安定して動作するため、車載用2次電池として最も一般的に使われている。
*2
ニッケル水素2次電池: 正極に水酸化ニッケルなどを、負極に水素または水素化合物を、電解質に濃水酸化カリウム水溶液などを用いた2次電池である。負極の水素源として水素吸蔵合金を用いるニッケル金属水素化物電池 (Ni-MH) が実用化し、1990年以降、家電製品やハイブリッド車のバッテリーとして広く利用されるようになった。
*3
リチウムイオン2次電池:正極にリチウムを含む酸化物を、負極に炭素系材料を用い、これらを電解質に浸してセパレータと呼ぶ高分子微孔膜で両極を仕切った構造の2次電池のこと。充電時にはリチウムイオンが正極から負極へ、放電時には負極から正極へ流れて充放電する。リチウムイオン2次電池は、現存する電池の中で作動電圧が最も高く、鉛蓄電池やニッケル水素2次電池よりも高いパワー密度とエネルギー密度を実現できる。
*4
鉛塩電池やニッケル水素2次電池では、充放電の原理に電極での化学変化を利用していた。これに対しリチウムイオン2次電池は、正極にリチウムイオンを含んだ金属を使い、そのリチウムイオンが正極と負極の間を行き来することで充放電する原理を利用している。化学変化を起こさないため、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長持ちする。また、継ぎ足し充電が可能であり、帰宅後に毎日充電するといった利用法や、モーターを発電機代わりにして減速時に電力(回生電力)を回収するような利用法など、様々な活用ができる。
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