No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

第1回
ワクワクする電気自動車を目指して

2018.09.03

文/伊藤元昭

ワクワクする電気自動車を目指して

Cineberg / Shutterstock.com

電気自動車(EV)は、ドライバーから走る楽しみを奪ってしまうのでは……。このように考える人は少なからずいる。長年自動車マニアを魅了し続けてきたエンジン音や吹き上がりの感触など、クルマにあって当たり前だったものが、EVに変わった途端に失われる。確かにその通りだ。しかし、EVにしかない新たな魅力があることにも目を向けたい。かつて、ステイタスシンボルや趣味をも兼ねた移動手段の主役が馬からクルマに変わり、私たちは新たな楽しみを得たのだ。大切なことは、EVだけが持つ魅力や価値を理解し、EVをもっと楽しい存在に変える技術に目を向けることではないだろうか。本連載の第1回はEVならではの魅力を検証したうえで、動力源であるモーターの進化を解説する。第2回はクルマのスロットルなどの役割を担うインバータを中心とした電気回路の進化を、第3回はEV普及の最大の技術的関門である蓄電技術の進化を解説する。

世界各国の政府が、EVの普及を積極的に推し進めるようになってきている。しかも、補助金や税優遇によって普及を後押しするようなゆるやかな促進策ではない。ガソリンや軽油を燃料とするクルマの販売を禁止するといった、極めて強制力の高い方法での普及が図られようとしている。つまり、消費者に選択権はなく、近い将来、クルマはすべてEVになるということだ。

本格的なEV時代がやってくる

ノルウェーとインドの政府は2030年から、中国も時期は未定ながら近い将来には、EVとハイブリッド車(HV)の販売だけを許可する方針を掲げている。これだけでも十分インパクトのある話だが、もっと強硬な手段に出ている国も多い。オランダは、2025年からEVだけしか販売できなくなる。つまり、エンジンを搭載するHVの販売も禁止されるということだ。また、フランスとイギリスの政府も、2040年以降、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止すると発表した。自動車が主要産業であるドイツでさえ、同国の連邦参議院が2030年までにエンジン車の新規登録を中止する方針を表明している。こうした潮流を見据えて、ヨーロッパを中心にEVの普及が加速してきている(図1)。

[図1] 本格的なEV時代が到来しつつある
出典:Polaris/amanaimages
本格的なEV時代が到来しつつある

エンジン車やHVの生産を前提とした裾野が広い産業構造を持つ日本やアメリカの政府は、現時点で、こうした動きに同調していない。しかし、世界の主要市場でエンジン車が販売できなくなることから、近い将来、クルマがエンジン車からEVへと入れ替わる“EVシフト”が起きることは、ほぼ確実な情勢だ。

EVシフトを加速させている最大の要因は、地球温暖化を防ぐことを目的としたCO2排出量の削減である。中国やインドなど、人口が多い新興国の経済成長によって、このままではCO2の排出量が急増すると予想されている。燃費改善やHVの普及といった方法だけでは、増分以上の削減ができない。そこで、CO2を排出しない“ゼロエミッション・ビークル(ZEV)”の普及が不可欠なのだ。

また、EVシフトが、新興国に新たな産業振興のチャンスを生み出している点も、見逃せない要因になっている。EVは内部構造が、エンジン車とは大きく変わり、しかも単純化する。エンジン車の開発・生産では、部品1つひとつの品質と精度の作り込み、さらには部品間の擦り合わせが重要であり、新規参入の障壁が極めて高かった。ところがEVでは、こうした既存企業の強みがご破算になり、新たな技術開発が一斉に始まる。自動車産業に新規参入を目論む企業からすれば、まさに千載一遇のチャンスだ。こうした好機を捕らえ、中国は次世代車の産業振興を国策として、部品レベルからの内製化と輸出拡大を狙っている。

EVシフトが起きるなら、どうにか楽しめないか

EVが普及するための条件として、充電時の利便性向上、低価格化、航続距離の延長などが指摘されている。現在のエンジン車よりも高価になっては購入しづらいし、ちょっと走っただけでバッテリの電力がなくなり、1回の充電に最速でも30分掛かるのではげんなりしてしまう。

確かにこれらは重要なポイントではあるとは思う。しかし、実用性第一の商用車ならばまだしも、一般消費者が購入するクルマでEVシフトを加速するためにはこれだけでは足りない。EVが、楽しく魅力的な乗り物である必要がある。

これまで自動車メーカーは、走る楽しみ、居住性の高さを売りにしたクルマを開発し、それを消費者にアピールしてきた。それが突然、エコだけを売りにしてクルマを販売しようとしても誰も聞く耳を持たないだろう。どうせ各国の政策でEVシフトすることが確実なら、地球にやさしいだけではなく、それが一般消費者を満足させるものであって欲しいものだ。

既に、様々な自動車メーカーからEVが販売されており、アメリカのTesla社の製品のように、長期間の納車待ちが発生しているものもある。しかし、そうした一部の例外を除けば、EVの販売は思いのほか振るわないのが現状だ。その一因として、現状のエンジン車に比べて、「ただエコなだけで、運転してもつまらない魅力のないクルマ」と考えている消費者意識があるのではないだろうか。

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