No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

EV用バッテリーを低コスト化する4つのアプローチ

現在のリチウムイオン2次電池は、満充電に近い状態での航続距離が400kmと、エンジン車に匹敵するレベルにまで進化した。ただし、それでもエンジン車と置き換えるには、まだまだ多くの課題が残されている。これらの課題が解決しなければ、魅力的なEVを作ることはできない。そこでまず、残されている課題と、その解決に向けたアプローチを整理したい(図2)。

[図2] EV用のバッテリーに残されている課題とその対策
作成:伊藤元昭
EV用のバッテリーに残されている課題とその対策

現時点での最大の課題はコストである。エネルギー分野の調査機関であるBloomberg New Energy Financeによると、EV用バッテリーのコストは、2010年には1kWh当たり1000米ドルだった。これが、2016年には273米ドルにまで低減、つまりたった6年で約1/4になったという。EVには、小型車で40kWh、スポーツカーでは100 kWhと、極めて大きな容量のバッテリーを搭載する必要がある。そのため、単純計算すれば、バッテリーだけで12万〜30万円。これにバッテリーの充放電を管理する周辺部品などを含めると、車両価格の約20%がバッテリー関係のコストになると思われる。

エンジン車からEVへの置き換えを考えるのなら、バッテリーコストのさらなる削減が必須になる。現状で、低コスト化へのアプローチは大きく4つある。

1つめは、生産技術の向上によって、量産効果を引き出す方法である。エンジン車からEVへの移行が進めば、当然、バッテリーの生産量が増える。大量の製品をいかに効率よく作るかが、生産技術を開発するエンジニアの腕の見せどころになる。当然、バッテリー・メーカーによる設備投資の増強も必須だ。

2つめは、電池の汎用性を高めることによる応用分野の拡大である。リチウムイオン2次電池は、EVだけではなく、ノート型パソコンなど携帯機器や家庭用太陽光発電システムのバッテリーなどにも使われている。また、スマートハウス向けの蓄電池にも利用可能だ。同じ仕様の電池をより多くの用途に転用できれば、その分、1品種の大量生産が可能になり、量産効果によるコストダウンが期待できる。

3つめは、エネルギー密度の向上による、クルマ1台当たりのバッテリーの容積や重量の削減である。電池のセル1個当たりの容量が大きくなれば、その分電池の搭載数を減らすことができるので、低コスト化できる。また、搭載する電池の数が少なくなれば、バッテリー重量も軽くなり、運動性能の向上にもつながる。また、車内の居住空間を大きくできるというメリットも出てくるだろう。

4つめは、電池のセルに安価な材料を使う技術の確立である。リチウムイオン2次電池には、リチウムやコバルトなど、いわゆるレアメタルが多く使われている。このため、原料費が高いのだ。現状と同等以上の性能を持つ電池を、より安価で調達しやすい材料で構成するための技術開発が必要になる*5

最も劣化しやすい電池の個体がクルマ全体の寿命を決める

コストの次に大きな課題は、バッテリーの劣化である。2次電池は、充放電を繰り返すうちに徐々に容量が減っていき、ある時点を境に、急転直下で容量が激減する。通常、リチウムイオン2次電池は、700〜800回充放電を繰り返すと劣化が加速していく。そして、バッテリーが劣化すると、EVの航続距離は短くなってしまう。

現在のガソリン車は、使っているうちに燃料タンクの容量が小さくなるようなことはない。ところが、EVではそういったことが起きる。これまで、中古車市場が成立し、クルマに資産価値があったのは、きちんとメンテナンスさえしておけば、性能劣化が少なかったからだ。ところが、EVのバッテリーは完全なる消耗品であり、廃車までに何回かバッテリーを交換する必要がある。そして、小型のEVでも、バッテリーを新品に交換すると60万円強と、軽自動車の新車が買えてしまうような費用が掛かる。

EVでは、セルと呼ばれる基本単位の電池を複数個組み合わせて、高電圧、大容量のバッテリーシステムを構成して使っている*6。そして、個々のセル自体の劣化も問題だが、システムレベルで抱えている劣化の問題はより深刻になる。1つひとつのセルには、蓄積できる電力の容量に個体差がある。例え、新品時に差がないように見えても、充放電を繰り返す間に徐々に差が開いてくる。そして、過充電してしまうと、発熱して危険な状態になるため、バッテリーシステム中のセルのうち1個でも満充電になったら、すべてのセルの充電を止めてしまう。つまり、最も劣化が激しいセルの寿命によって、バッテリーシステム全体の寿命が決まってしまうのだ。

この課題を解決する方法は、大きく2つある。1つは、劣化しにくいセルを開発すること。もう1つは、バッテリーの充放電を制御して、すべてのセルが均等に劣化するように仕向けることだ。前者は電極や電解液などの材料開発が重要になり、後者は制御技術の開発が焦点になる。それぞれの具体的な方法は後述したい。

[ 脚注 ]

*5
キャリアをリチウムイオンからナトリウムイオンに変えたナトリウムイオン2次電池を開発することによって、材料の調達コストを削減する試みも進められている。ただし、ナトリウムイオン2次電池は、リチウムイオン2次電池に比べて、電圧が0.3V低い、元素としての質量が重い、エネルギー密度が低いなどの欠点がある。
*6
セル1個の起電力は3.6〜4.1Vにすぎない。電圧を高くした方が給電時の電力損失が少なく、細くて軽いケーブルを利用できる。このため、多くのEVでは、セルを約100個直列につないでバッテリーシステムを構成し、約350Vに昇圧して使っている。
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