No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

充電ステーションでの長い充電待ちは、最悪なユーザー体験

また、長い充電時間もEVの本格的な普及を見据えて解決しておかなければならない課題だ。現状のEV向けバッテリーは、最大容量の80%まで充電するのに、急速充電器を使っても約30分かかる。これは、ガソリン車の給油時間に比べると、かなり長い印象だ。航続距離が短い車種の場合には、頻繁に充電する必要が出てくる。充電ステーションが満車状態だったら、そこでの充電待ちは最悪なユーザー体験になることだろう(図3)。

[図3] EVの充電ステーションが満車状態なら、最悪なユーザー体験になる
Photo:Adobe Stock
EVの充電ステーションが満車状態なら、最悪なユーザー体験になる

アメリカのTesla社は、こうした充電時のイライラを解消するために、意識的に大容量のバッテリーを搭載している。航続距離を伸ばして、なるべく充電する頻度を減らす狙いである。充電回数が減れば、劣化の進行を遅らせることもできるので一石二鳥だ。ただし、当然バッテリーは重く、高価になる。こうした対策が取れるのは、同社のクルマが、大出力のモーターを搭載できる高級車だからだ。あらゆるEVに適用できる策ではない。より多くのEVで充電時間を短縮するためには、パワー密度の高い電池の開発が必須になる。

不適切な充放電は危険性もある

さらに、人の命を預かるEV用バッテリーに欠かせない、安全性の向上にも課題がある。スマートフォン用リチウムイオン2次電池の、異常発熱や発火といった話題である。

電極間を液体の電解質でつないだ構造の電池は、使っている間にガスが発生する。リチウムイオン2次電池では、正しく使っても可燃性の炭化水素ガスが発生するのだ。しかも、過充電状態で使うと正極の結晶構造が崩壊し、酸素が発生する。これら可燃性のガスと酸素が、燃えやすい有機溶媒で満たされた密閉された容器中に溜まれば最悪、爆発の危険性もある。

そこで、安全性を抜本的に高めるためには、電極や電解質の材料を安全なものに変更する必要がある。ただし、これは性能とのトレードオフがあるため簡単ではない。このため、対処療法的な対策として、危険な状態に陥らないように、セルの温度や充放電の状態を管理する制御技術を投入している。

システム技術で既存セルの欠点を補完、材料開発で抜本対策

現在、EV用リチウムイオン2次電池では、「低コスト化」「劣化の抑制」「充電時間の短縮」「安全性の向上」といった課題を解決するため、様々な角度から技術開発が進められている。技術開発の切り口は、大きく2つある。

1つは、現状のセルの弱点を補うシステムレベルでの対策である。バッテリーシステムの構成の工夫や充放電の精密制御技術の投入などがこれに当たる。そしてもう1つは、セルを構成する正極、負極、電解質などの材料を変更する、抜本的な対策である。前者については当該技術でリードしているTesla社の技術を中心に、後者については様々な企業や研究機関による取り組みの中から、技術開発の最新動向を紹介したい。

あえてセルを細分化して、低コスト化と劣化の抑制を図る

小容量のセルをたくさん組み合わせることで、「低コスト化」と「劣化の抑制」を図る技術が実用化されている。Tesla社は、「Model S」と「Model X」に、ノートパソコン向けの小容量セルである「18650電池*7」を約7000個搭載し、最大85kWhの大容量を実現した(図4)。自動車専用ではない汎用的セルを採用することで、量産効果による低コスト化に成功しているわけだ。また、採用したセルは豊富な利用実績があり、多くの製品から選別して使うこともできる。このため、信頼性の高いセルを調達しやすい。

[図4] 膨大な数の小容量セルで構成されたTesla社のModel Sのバッテリーシステム
バッテリーシステムの外観(左)と組み込まれたそれぞれのセル(右)

出典:TESLA MOTORS CLUBのホームページ
膨大な数の小容量セルで構成されたTesla社のModel Sのバッテリーシステム

前述したように、バッテリーシステム全体の寿命というのは、最も寿命の短いセルが決めてしまう。また、それぞれのセルの充放電の状況を厳密に管理しなければ、安全性を確保できない。つまり、セルの数が増えるということは、それだけ管理の難易度が高まるのだ。ここに、高度な技術を持つ企業でなければ、こうしたマルチセル構成を採用することはできない理由がある。

バッテリーの劣化抑制や安全性の確保に向けたセル管理に欠かせないのが、バッテリー・マネージメント・システム(Battery Management System:BMS)である。バッテリーシステム全体の電圧と残容量などを検知し、入出力電流、各セルの電圧や温度などを監視しながら、過放電や過充電に対する警告、専用充電器の制御を行う。

バッテリーというのは、高温下や低温下で劣化が速く進行する。Tesla社のバッテリーシステムでは、BMSで厳密に温度を管理しながら、液体を媒体としてセルを冷却・加熱している。こうした温度管理は、ノートパソコン用やスマートフォン用のバッテリーでは例がない。また、多数のセルでバッテリーシステムを構成していることを逆手にとって、充放電時の各セルの負荷を分散させて、劣化を均等化している。一般に、こうしたマルチセルの負荷分散管理技術のことをセルバランス技術と呼んでおり、BMSの重要な機能の1つである。ただし、Tesla社のように7000個ものセルを管理する例は、他では見られない。

[ 脚注 ]

*7
18650電池:直径18mm×長さ65mmの乾電池のような見た目の円筒型リチウムイオン2次電池のこと。容量は2000〜4000mAh(電極材料によって異なる)、作動電圧は3.7Vである。Tesla社が採用しているのは、パナソニック製の18650電池だ。ちなみに、普及価格帯の車種「Model 3」には、直径21mm×長さ70mmの「21700電池」を採用しているが、これは従来の18650電池よりもエネルギー密度を15%高めたもので、2017年に開設したアメリカのネバダ州にあるギガファクトリーで自社生産している。
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