No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

セルの個体差に目を配り、システムの潜在能力を引き出す

セルバランス技術は、バッテリーの持ちと寿命に大きな影響を及ぼす重要な技術なので、少し詳細に補足しておきたい。この技術は、セルごとの電池容量のばらつきをなくし、バッテリーシステムの潜在能力を最大限まで引き出すことを目的としている(図5)。具体的には、より多くの電力を蓄えているセルを優先的に放電し、蓄積電力の少ないセルを優先して充電する。こうすることで、バッテリーシステム全体に蓄積した電力を余すことなく利用可能になり、充電できる電力も増えるのだ。

[図6] セルバランス技術の仕組み
作成:伊藤元昭
セルバランス技術の仕組み

一般に、セルバランス技術には2つの方法がある。1つは、放電スイッチを使って、電圧の高いセル(蓄積電力が多いセル)から優先的に放電させるパッシブ方式*8。もう1つは、電池セルの充電状態を均衡させるために、隣接する電池セル間で電流をやりとりするアクティブ方式である。バッテリーシステムの潜在能力を余さず使い切るには、これらのうち、アクティブ方式を使う必要がある。

Tesla社が採用しているようなマルチセルのバッテリーシステムと、それを管理する高度なBMSは、集中から分散へとシステム構成を移行させてきた「情報処理」「通信」「電力管理」の技術トレンドに沿ったものだ。こうした考えのもと、分散化のメリットをさらに際立たせるための提案も出てきている。

アメリカのLinear Technology社(現Analog Devices社)とドイツのBMW社は、「SmartMesh」という無線メッシュネットワーク技術を使ったBMSを共同開発した。これにより、信頼性のさらなる向上とコスト削減、さらには航続距離の延長も実現できる可能性があるという。SmartMesh技術では、2.4GHz帯の無線通信を介して、各セル間をつなぐ。セル間をケーブルでつなぐ通常のバッテリーシステムでは、一箇所でも断線すると全体が機能しなくなってしまう。しかし、無線でつなげば、一部の通信経路が切れても、自動的に迂回経路に切り替えてセル間の接続を維持できるようになる。さらに、ケーブルとそれをつなぐコネクタや駆動に用いるトランスなどがなくなり、車体を軽量化できるのもメリットだ。

セルの構成材料の変更で、抜本的な課題解決を目指す

ここからは、セルを構成する正極、負極、電解質に使う材料を変える材料技術開発の動きを紹介したい。一般に、材料技術の開発は、システム技術の開発よりも時間が掛かる。だだし、バッテリーの進歩においてその効果は絶大であり、飛躍的な性能向上が期待できる。

例えば、リチウムイオン2次電池の理論上の究極は、正極材料として空気を、負極材料として金属Liを、電解質として固体を利用したものとされる。この場合の理論的なエネルギー密度は、既存品の10倍以上になるという。つまり、航続距離が400kmの現在のEVが、同じ大きさ・重さのバッテリーで4000km走れるようになるということだ。エンジン車をはるかに上回る性能になる可能性を秘めている。

ざっくりと言えば、リチウムイオン2次電池の容量を決めるエネルギー密度は、正極と負極それぞれに蓄積可能なリチウムイオンの量で決まる。そして、充放電の速さを決めるパワー密度は、電解質中のリチウムイオンの移動速度と電極での電子とリチウムイオンの電導度などに依存している。また、安全性を高めるには、正極と負極の短絡による発火と、電解質への引火をいかに抑制するかにかかっているのだ。こうした指針のもとで、様々な材料が試されている。

正極に3元系材料を採用したことで、安全性と性能が向上

2次電池の正極材には、電圧が高く、充放電効率が高く、電極密度(より多くの電荷を蓄える性質)が高い材料を選ぶ必要がある。リチウムイオン2次電池の場合には、民生用ではコバルト酸リチウム(LiCoO2:LCO)が多く使われていた。ただし、コバルトは産出量が少ないため、高価で安定調達にも不安を抱える。また、リチウムを過度に放出したLCOの結晶構造が不安定で、劣化しやすいなどの問題もあった。

このため、車載用の正極材としては、3元系(主な金属成分を3種類含む)の材料*9が採用されるようになり、LCOよりも構造的、化学的、熱的な安定性が改善された。また、性能も飛躍的に向上したことから、EVの航続距離を400kmにまで延ばせるようになったのだ(図6)。さらに、複数の金属を使うことにより、コバルトの使用量も少なくなっている。

[図6] 2次電池のエネルギー密度の向上
作成:伊藤元昭
2次電池のエネルギー密度の向上

さらなる性能向上に向けて、材料開発は継続的に続いている。例えば、硫化リチウム(Li2S)を正極に使うことで、理論的にエネルギー密度が現在の5倍以上に高まることが知られており、世界中で研究開発競争が行われている。しかし現時点では、充放電中に電池容量が劣化したり、Li2S自身が絶縁体であることから高容量化が難しくなったりといった課題がある。こうした課題をいかにして解決するかが、技術開発の争点になっている。

[ 脚注 ]

*8
パッシブ方式では、充電余力が少ないセルが満充電になった後も、余力が大きいセルを充電できるように、満充電になったセルに流す充電電流を抵抗器で熱に変えて捨ててしまう。放電時には、先に放電を終えたセルが過放電にならないように、バッテリーシステム全体の放電を止める。このため、パッシブ方式でのバッテリーシステム全体の容量は、最も劣化が速く進んだセルに依存するのだ。
*9
具体的には、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(LiNiMnCoO2:NMC)やリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物(LiNiCoAlO2:NCA)などが使われている。ちなみに、Tesla社のクルマに採用されている18650電池や21700電池の正極には、NCAが使われている。
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