No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

シリコン系合金の負極で、リチウムイオンの保持力が10倍に

一方、負極材料には、これまで黒鉛(LiC6)など炭素系の材料が使われることが多かった。ここでは、劣化しにくく、なおかつパワー密度とエネルギー密度の高い材料の探究が精力的に進められている。

東芝は、劣化しにくい材料であるチタン酸リチウム(Li4Ti5O12:LTO)を負極とした電池を実用化した。ただし、負極材料としてはリチウムをイオン化するための電圧が1.5Vと高めであるため、高いエネルギー密度が求められない用途での利用に限られている。同社は、最近、超急速充電が可能でありながら、黒鉛の2倍の容量を持つチタンニオブ系酸化物を負極にしたリチウムイオン2次電池の試作に成功している。これはなんと、6分間で90%の充電ができるという。また、5000回充放電を繰り返しても、ほとんど劣化しない。

さらに、理論的に黒鉛の10倍以上のリチウムイオンを保持できるとされる、シリコン系合金を負極に活用するための技術開発も行われている。シリコン系合金は、エネルギー密度を高められるだけではなく、0.5Vと比較的低い電圧でリチウムをイオン化できるほか、原料が調達しやすいなどのメリットもある。その一方で、充放電を繰り返すと体積が400%に膨らみ、電極の構造が破壊されやすいという欠点があった。こうした大きな体積変化を解消するため、負極材料をナノサイズの粒子にする、多孔質構造にする、複合材にするといった対策が行われている。

EV用バッテリーの決定版、全固体電池

電解質は、今最もホットな技術開発競争が行われている部分である。これまでは、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などリチウム塩を、炭酸エチレン(EC)、炭酸エチルメチル(EMC)のような溶媒に溶かして作っていた。これらの有機溶媒は、発火しやすい揮発性の液体であり、いかにして安全性を高めるかが課題となる。また、電解質に偏りが生じる可能性があり、それが性能の低化や劣化を加速する要因になっていた。さらに、充電時間の短縮に向けてパワー密度を向上させるには、リチウムイオンが移動しやすくする工夫を加える必要がある。

そこで今は、電解質に固体材料を使う「全固体電池」と呼ばれる技術の開発が活発になってきた。自動車メーカーにとって、バッテリーの安全性向上は最優先課題である。全固体電池は、燃えやすい液体がなく、液漏れもない。また正極と負極が固体で隔てられているので、両極の間で短絡が起きる心配もない。さらに高温下や低温下でも安定動作する。まさに安全性向上の抜本的対策にふさわしい技術である。

電解質が固体になることで、バッテリーの性能向上にも絶大な効果が得られる。リチウムイオンが移動する時の抵抗が小さくなると、高電圧での利用が可能になり、電池を薄くできるため何層も積層して大容量化できる。さらに、正極や負極の材料を電解質との化学的な相性をあまり気にせずに変更できるため、電極材料の進化の恩恵を享受しやすいという利点もある。

電気・電子デバイスの歴史の中では、液体や気体、真空などを利用していた材料を固体だけで構成することで、爆発的に性能が向上する例が数多く見られた。半導体しかり、チップ電子部品しかり、液晶パネルしかりである。全固体電池は、2次電池の決定版と呼べるものであり、その実用化はバッテリーの分野が新たなイノベーションの時代に突入することを意味している。

固体電解質には、特徴の異なる様々な材料が候補に挙がっている。Liイオンの伝導率が高く高性能化に適した「硫化物系材料」、不燃性で安全な積層セラミックコンデンサー(MLCC)技術を応用して多層化できる「酸化物材料」、ロール・ツー・ロールでのセル生産が可能で大量生産に向く「樹脂材料」の3つが主要なものだ。それぞれの材料の特徴を見ただけで、わくわくするものばかりである。

EV用バッテリーの決定版、全固体電池

自動車産業がものづくり産業の生命線となっている日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、企業23社が参加する100億円規模の開発プロジェクトを発足させた(図7)。2022年度までに全固体電池の基盤技術を確立し、2030年ごろには電池パックの体積エネルー密度が現在の3倍の600Wh/L、コストが3分の1の1万円/kWh、そしてEVの急速充電時間は3分の1の10分を目指す。この開発プロジェクトには自動車メーカーや電池メーカーだけではなく、材料メーカーや製造装置メーカーも参加している。ただし、全固体電池の開発には、アメリカのベンチャー企業などが世界中の巨大企業から100億円規模の資金を調達し、実用化に向けて動いている。

[図7] NEDOでの全固体電池の開発プロジェクトのロードマップ
既存電極を活用し、電解質の固体化をまず目指し、その後電極材料をより高性能・高信頼なものに変えるシナリオを想定している。図中のLIBは、リチウムイオン2次電池のことを指す。
出典:NEDOのニュースリリース
NEDOでの全固体電池の開発プロジェクトのロードマップ

本格的なEV時代を前に、モーター、インバーター、バッテリーという主要な3つの技術要素が、着実に進化している。こうした一歩進んだ技術を生かして、エンジン車では実現できなかったような魅力を持つEVの登場を期待したい。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK