No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Visiting Laboratories研究室紹介

人工生命の探求から、人間の本質をあらためて見つめる。

2019.10.31

東京大学 大学院 総合文化研究科 池上研究室

東京大学 大学院 総合文化研究科 池上研究室

複雑系科学の研究者として「生命とは何か」という究極の問いに挑む、東京大学大学院の池上高志教授。アーティストとしても国内外で知られ、音楽家や写真家と共同アートプロジェクトに取り組むなど、その活躍は多岐にわたる。近年では、大阪大学の石黒 浩教授との共同研究として、オペラの舞台にも上がるアンドロイド「オルタ(Alter)」を開発、バージョンアップを重ねている。研究者とアーティストで、自身のスタンスに違いはないとする池上氏が語ったのは「生と死」の問題。研究室が生み出すALife(人工生命)で、それらに立ち向かえるのか。

(インタビュー・文/神吉弘邦 写真/黒滝千里〈アマナ〉)

第 1 部:東京大学 大学院総合文化研究科 教授 池上 高志

池上高志教授

生命と非生命の「境」は?

Telescope Magazine(以下TM) ── 今回の号は「デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代」という特集を組んでいます。池上先生が取り組むアートとエンターテインメントの世界は異なるものと知りつつ、お邪魔したのですが……。

池上 ── エンターテインメントは単に楽しめればいいのに対して、アートは「生死」の問題に迫るわけですから、まるで別物ですよね。優れたアート作品にはすべて「生と死の問題」が絡んできます。自分の本当に大事な人が亡くなりそうだという場面に遭遇したことありますか?

TM ── かなり前なのですが、ありました。

池上 ── そうですか。僕も父を亡くしましたが、その瞬間にすごく思うことがある。そんなこととダイレクトに繋がるのがアートだと思うんです。「生命」を考えるとき、アートであっても研究であっても、そうした問題とは切っても切り離せません。

TM ── 最初に伺いたかったのは、池上先生の中で「アーティストと研究者という立場が、どのように共存しているのか」でした。

池上 ── ひとりの人間が違った人格を2つは持てないように、僕の中で両者のスタンスは変わりません。「生と死」の問題を考えるという意味では、本当に同じなんですよ。

個々に興味深いと感じることがあって、それを計算したり、シミュレーションしたり、何かをつくったりする。そうやって世の中に発表したものを「それはアートだ」と言う人もいるし、「サイエンス的なことはわからない」と反応する人もいる。まぁ、論文を書いて、文字になると「研究」だと多くの人が思うみたいですが。

TM ── 研究にはアートの側面があり、アートには研究の側面があると。

池上 ── ダ・ヴィンチに会いに行けたとして「あなたがやっているのはサイエンスですか? それともアートですか?」と聞いたら、「えっ、どういう意味ですか?」と返されるはずです。最先端にいる人たちは「自分はダ・ヴィンチのように領域を超えた活動ができるだろうか」と思いながらやっていると思います。

TM ── 研究がどんどん細分化していったことで生まれた区別かもしれないですね。この教養学部棟(東大駒場キャンパス)の玄関にある案内板でも「○○学科△△専攻」という文字がズラッと並んでいました。

池上 ── それらは60~70年前に、官僚の皆さんが決めた枠組みです。でも、世の中はどんどん変わっています。対象そのものが、今までの枠に入らない場合があるでしょう。例えば「脳科学」をどういう分野で扱うか?

TM ── 現在の所属とは違うのでしょうが、キャンパスで見かけた看板によると、先生の研究室は、かつて「物性理論研究室」だったんですね。

池上 ── 脳も原子分子からできていますからね。「同じ原子分子から、なぜ、脳みたいなものが出現するか?」を考えるのも面白いかも。同じ原子や分子が“生(せい)”になることもあれば、非生命的な物質の材料になることもある。その境は何か? そう考えることもできる。

東京大学 物性理論研究室

池上 ── もしかしたら「生と死は哲学の問題だから、科学者が考えたって仕方ないんじゃないか?」と言われるかもしれないけど、「人間性」の問題とか、「生死」の問題こそ、技術により答えを出せる問題だと僕は思うんです。哲学書で「この文章の中に、人間性や生死の本質がある』と言われたって、いつまで経っても処理できないじゃないですか。

自分から外在化された技術の中で問われることで、初めて「生と死」の問題について考えを新たにでき、やがて克服できるのだと思います。だからこそ、人工生命というものは重要です。こういう少し変わったかたちで「生命とは何か?」をわかろうとしているんです。

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