No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

連載01

5Gの性能を左右する半導体とは何か?

Series Report

第3回
5G向け半導体のカギはビームフォーミングとミリ波アンテナ

2019.10.31

文/津田建二

5G向け半導体のカギはビームフォーミングとミリ波アンテナ

これまでの連載では、5Gの産業動向や主要なテクノロジーについて紹介した。テクロノジー的な目新しさはベースバンド回路のデジタル変復調技術よりも、実はミリ波の高周波技術のほうにある。ベースバンド回路のデジタルモデムでQAMデジタル変調をOFDMに乗せる技術は4Gの延長にすぎないが、ミリ波RF回路はこれまでの高周波技術とは大きく異なる。また、それに伴い、半導体チップも大きく変わる。連載第3回では、ミリ波を使った5G通信のテクノロジーに不可欠な半導体チップについて解説する。

5G向け半導体ではミリ波チップがカギ

5Gで先行したのは、アメリカのクアルコム(Qualcomm)だった。これまでの通信方式と5Gとの大きな違いは、電波の波長が10mm以下のいわゆるミリ波(波長10mm~1mmの電磁波で30GHz~300GHzの周波数)の電波を使うことである。ここまで高い周波数の電波を使うことはなかった。4Gでは800MHz、900MHzが主力で、せいぜい1.5GHzまでだった。

スマートフォンをはじめとする携帯電話の基本的な回路ブロックは図1のようになっており、受信する時はアンテナからRF(高周波)回路を経て周波数を下げるIF回路へと送られ、ベースバンド回路で復調しデジタルに変換する。送信するときは、デジタル回路から変調回路を経てアナログに変換してから、周波数を上げるRF回路を経てパワーアンプで信号を増幅・大振幅化してアンテナから信号を乗せた電波として送り出す。これらの回路の全てに半導体チップが使われる。例えば送信用のパワーアンプにはGaN*1という新型半導体が基地局向けに使われるようだ。

[図1]携帯電話の基本的な回路ブロック
図版作成:マカベアキオ
携帯電話の基本的な回路ブロック

2Gから4Gまで、変調・復調回路(モデム*2)は様々な変遷を重ねてきた。2Gは世界中で規格が乱立したが、3GではW-CDMA(符号分割多重接続)とCDMA-2000という2方式に絞られ、4GではOFDM(直交分割周波数多重*3)へとさらに代わった。5GになってもモデムはOFDMのままで、データ送信時の変調技術も4G の延長となるQAM方式を用いる。ただしデータレートは16QAM(直角位相振幅変調*4)から64QAM、あるいは256QAMへと進化することになる。

3G時代はどの携帯電話メーカーもCDMA技術を使わざるを得ず、CDMA技術の基本特許を持っているクアルコムがほぼ独占的に潤った。4Gになると、クアルコムはOFDM技術で最も多くの特許を持っていたものの、基本特許を持っていなかったため、3G時代のような独占的な売り上げを得ることはなくなった。しかし、5Gで大きく変わるRF回路部分でミリ波技術の重要性をどこよりも認識しており、アンテナからRF回路までのチップに関してもいち早く開発していた。

クアルコムは4~5年前から5Gの実験に取り組んできており、NTTドコモやフィンランドのノキア(Nokia)、スウェーデンのエリクソン(Ericsson)など、世界各地の通信オペレータや計測器メーカーと共同で、ミリ波を使って20Gbps以上のデータレートを実現してきた。当初はもちろん基地局を想定した実験だったが、ミリ波で重要になるビームフォーミングやビームトラッキングといった技術についても、スペインのバルセロナで開催されていたMWC(モバイルワールドコングレス)などで実証実験やデモンストレーションを行ってきた。

[図2]モバイルワールドコングレス
世界最大級の携帯電話関連展示会で、画像は会場となったフィラ・デ・バルセロナ(スペイン・バルセロナ)の外観。
撮影:津田建二
モバイルワールドコングレス

[ 脚注 ]

*1
GaN:青色発光ダイオード(LED)の基本的な半導体材料。エネルギーバンドギャップ(電子が自由に動けるための束縛を解くためのエネルギー)が広いため、高温で使えるだけではなく、耐圧が高く壊れにくいという特長を持つ。このためパワー半導体としても使われ始めている。さらにGHz帯の高周波でも有望とみられており、国内では住友電気工業株式会社が5G向けのGaNトランジスタを使ったパワーアンプを開発している。
*2
モデム:Modulation(変調回路)とDemodulation(復調回路)を組み合わせた合成語
*3
OFDM(直交分割周波数多重):位相Qと振幅Iを90度直交させることで、周波数軸に対してサブキャリヤ(搬送波)を密に利用できるため、周波数利用効率が高く、多数のユーザーが同時に利用できる通信方式。
*4
16QAM(直角位相振幅変調):信号振幅Iと直交位相振幅Qの関係を座標(第1~4象限)で表し、1つの象限に2種類のIとQで4ビット分を表せば、4つの象限合計で16通りの組み合わせを表現できる。このようにしてデータレートを増やすことができる。
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