連載01
5Gの性能を左右する半導体とは何か?
Series Report
第1回
5Gサービスの実情
2019.8.30
アメリカと韓国で5Gの商用サービスが始まった。日本は周回遅れ、と言う向きはあるが、これは正しい理解ではない。サービスが始まったアメリカの一部と韓国とも、現在割り当てられたサブ6GHzというLTE*1の延長のような低い周波数では、それほど速いデータレート*2は得られないからだ。5G通信の説明として、新聞などでは2時間の映画だと約3秒でダウンロードできる、と表現されることが多いが、実はアメリカと韓国で始まった5Gでも、このスピードはまだ全く実現できないのである。この連載では、正しい理解を目的として、第1回で5Gとは何か、その実情を伝え、第2回では5Gを実現する上で必要なテクノロジー、そして第3回ではテクノロジーに不可欠な半導体チップについて解説する。
5Gサービスの開始
2時間の映画をわずか3秒でダウンロードできるという例え話は、5Gの目標の一つである、下り20Gbpsというデータ速度の下での話だ。6GHzよりも低い周波数の5Gでは、このスピードは得られない。商用化でリードしたアメリカのベライゾン(Verizon Communications)のサービスは、28GHzという周波数の高いミリ波を使いながら最大でも1GbpsというLTE-A並みの速度に留まっている。ベライゾンのサービスは、限られた二つの都市に限定されているうえに、使える電話機はモトローラ(Motorola)のZ3機種にモジュールを追加しなければならない。
5G通信の本命は、Verizonが先頭を行く周波数が高いミリ波*3である。ただし、ミリ波技術を商用化するには技術的に高いハードルが立ちはだかる。このため、使える電話の機種が限られている。そこでまずは、サブ6GHzの低い周波数でのサービスから商用化が始まる。ただし、2024年には19億人の加入契約数に達するだろうと、大手通信機器メーカーのエリクソン(Ericsson)は見ている(図1)。
日本では、2019年9月にラグビーワールドカップが開催され、2020年8月には東京オリンピック/パラリンピックが開催される予定になっている。それに向けて5G通信サービスが始まる。近年、人々が集まるイベント会場では、スマートフォンやタブレットで感動する場面の写真や動画を撮影し、それをすぐにアップロードする傾向が強まっている(図2)。InstagramやYouTube、FacebookなどのSNS(Social Networking Service)が普及し、身近になってきたためだ。
写真や動画のデータ量はテキストや表などに比べると圧倒的に多い。このため例えば100Mbpsのネットワークに一人で写真や動画を上げるだけなら、100Mbpsのスピードが出るが、同じことを100人がすれば、原理的には1/100の1Mbpsにスピードが落ちてしまう。しかも通信トラフィックもデータ量でいっぱいになってパンクしてしまう。だからデータレートをもっと上げて遅くならないようにしなければならないし、データ容量にも余裕を持たせなくてはいけない。
日本では2019年の4月に5Gの周波数割り当てが決まり、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天に与えられた(図3)。3.7GHzは上記の4社、4.5GHzはNTTドコモ、28GHzは上記4社という具合だ。外国では少し異なるが、3.5GHz、4.5GHz、28GHzといった周波数帯が有力と考えられている。各国で使える電波の周波数帯が異なるため、これからの5Gに適用できる周波数帯を3GPP(Third Generation Partnership Project)*4の規格委員会である程度まとめ、同じような周波数帯を割り当てている。
[ 脚注 ]
- *1
- LTE: Long Term Evolutionの略。NTTドコモは当初3.9世代と言っていたが、世界的には4G(第4世代)と呼ばれている。3Gとの違いは、CDMA(Code Division Multiple Access)技術ではなく、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)と呼ばれる新しいデジタル変調技術を使ったこと。
- *2
- データレート: デジタルデータが送られるスピードのこと。ビット/秒という単位で表される。
- *3
- ミリ波: 波長が1〜10mmとなる電磁波のこと。30GHzで10mmなので28GHzの波長は10.7mmとなり厳密にはミリ波ではないが、一般には24GHz以降からミリ波と呼ばれている。
- *4
- 3GPP: 3G以降の携帯電話の仕様をまとめ標準化規格を決める欧州中心の通信団体