No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

連載01

5Gの性能を左右する半導体とは何か?

Series Report

ミリ波ではアンテナもカギを握る

アンテナからRF回路に関しては、現在のところクアルコムの独壇場となっている。

クアルコムは、2019年9月上旬にドイツのベルリンで開催されたIFA(国際コンシューマ・エレクトロニクス展)において、ミリ波アンテナモジュール(図4)を発表した(参考資料4)。このアンテナモジュールは、ビームフォーミング*6、ビームステアリング、ビームトラッキングを行うことのできる最初のチップとなる。

[図4]世界に先駆けて出荷したクアルコムのミリ波アンテナモジュールQTM527
出典:クアルコムの社プレスリリース(2019/09/06) Qualcomm Announces World’s First Fully Integrated Extended-Range mmWave Solution for 5G Fixed Wireless Access
世界に先駆けて出荷したクアルコムのミリ波アンテナモジュールQTM527

ただし、このアンテナモジュールは、スマホ向けではなく、基地局やスモールセル、あるいは顧客企業の通信設備(CPE: Customer Premises Equipment:顧客構内設備)で使うことを想定した、いわゆる固定局向けのチップである。発信する電波の出力はPower Class 1(出力100mW、到達距離100m)というレベルに対応している。

このチップには、5G NR(News Radio:新無線)と呼ばれる5G仕様のトランシーバ(送受信回路)に加え、電源回路とRFフロントエンド回路、フェーズドアレイアンテナ(Phased Array Antenna)を集積している。フェーズドアレイアンテナは、小さなアンテナ素子を平面のマトリクス状に多数個配置し、それぞれの位相(phase)を変えることで電波を送受信する方向に向かせることができ、ビームフォーミングやビームステアリングに使う。ビームステアリングとは、送受信したい電波の向きに合わせて最大の指向性を生成することである。ビームトラッキングは、通話している相手を追跡しながら基地局からの電波を向ける技術で、相手が動けば、電波の向きも相手に合わせて動くため、通話が途切れない。

ところでミリ波のビームフォーミング技術には、アナログ方式とデジタル方式がある。アナログ方式は本連載の第2回で解説したように、多数並べたアンテナ素子から送受信する電波の位相と振幅を少しずつずらしながら、電波の向きを揃えていく技術である。実際の携帯電話技術ではデジタルで制御したり演算したりしているため、例えば送信する場合にはDAコンバータでデジタルデータをアナログに変換し、その信号の振幅と位相をずらしてアンテナから送り出す。この場合、アナログ信号をRF回路でいくつかの信号パスに分け、それぞれのパスの信号の位相と振幅を少しずつずらしていくことで、発射ビームがユーザーのいる方向へ揃うようになる。

つまり、スマホを含めた携帯電話は電話の中はデジタルで送受信部分だけがアナログであるため、D-AコンバータやA-Dコンバータの半導体チップが必須になる。D-A/A-Dコンバータが得意なアメリカのアナログデバイセズ(Analog Devices)は、ミリ波のビームフォーミング技術を解説したホワイトペーパーをウェブ上で掲載している(参考資料5)。

このホワイトペーパーによると、デジタル方式では、位相をシフトさせる動作は純粋にデジタル回路内で実行し、そのデジタルデータを、送受信回路を経てアンテナアレイへ送る(図5)。簡単に言えば、各無線の送受信回路は一つずつアンテナにつながっている。しかし実際には、要求されるビームの形によっては一つの無線回路あたり数個のアンテナを使う場合もありうる。デジタル方式は容量とフレキシビリティを最大にでき、マルチユーザー向けのMIMOへの道筋をミリ波周波数でもつけることができる。ただ、デジタル方式は極めて複雑であり、現在使えるテクノロジーで実現しようとするとRF回路でもデジタル回路でも消費電力が極めて大きい。

[図5]3種類のビームフォーミング法
(a)アナログ方式、(b)デジタル方式、(c)いいとこ取りのハイブリッド方式 位相をシフトさせる技術はデジタル回路内で処理する
出典:Analog Devicesのホワイトペーパー
3種類のビームフォーミング法3種類のビームフォーミング法

[ 脚注 ]

*6
ビームフォーミング: 電波を絞って指向性を上げる技術のこと。本連載第2回を参照
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