No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

連載01

5Gの性能を左右する半導体とは何か?

Series Report

そこで考えられるのが、デジタルとアナログのいいとこ取りをするハイブリッド方式である。デジタルのプリコーディングとアナログのビームフォーミングを組み合わせて、何本かのビームを同時に空間に生成する、すなわち空間多重を実現する。ある複数のユーザーに狭いビームを向けることによって、基地局は同じスペクトルをある時間以内に複数のユーザーに同時に再利用できる。

ビームフォーミング用の半導体チップは携帯電話システムではまだ使われていない。クアルコムのチップはまだサンプルを評価している最中だ。またアナログデバイセズのビームフォーミングIC(参考資料6)は、24GHz~29.5GHzの周波数で16チャンネル選択可能な送信回路と受信回路を集積し、位相を制御するための変調回路(モジュレータ)と振幅を制御するための利得可変アンプを集積している。

東京工業大学の岡田健一教授のグループはアナログ方式で次世代の5Gと言われる39GHz帯のビームフォーミング送受信機(図6)とアンテナモジュールを開発している(参考資料7)。65nmプロセスで製造したチップには4個の送受信機を集積しているため、このチップを16個実装し、64個のアンテナ素子につないでいる。2019年6月にアメリカのボストンで開かれたIEEE RFIC (Radio Frequency Integrated Circuit) Symposiumで発表し、岡田研究室の学生がベストスチューデント賞を受賞した。

[図6]65nmプロセスで製造した39GHzミリ波ビームフォーミング送受信チップ
64個のアンテナ素子アレイを64個の送受信機が受け持つ。
出典:東京工業大学 岡田健一教授
65nmプロセスで製造した39GHzミリ波ビームフォーミング送受信チップ

このCMOS半導体チップは65nmルールの無理のない製造プロセスで製造されており、5Gの無線通信機器市場に力を入れ始めたNECと共同開発している。通信機器の製造販売をビジネスとしている企業と、5Gチップの研究開発を担う大学との産学共同が成功した事例でもある。これまで4GやLTEの世界市場では日本メーカーの存在感がなかったが、NECは5Gで巻き返しを狙う。

5Gでは富士通も通信機器を設計・製造する予定だが、日本企業がどこまで世界市場で存在感を示せるか、これからの日本のエレクトロニクス産業の行方を占う指針になりうるだろう。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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