連載02
ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢
Series Report
第3回
過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?
2020.02.28

過去をやり直したい、未来の自分が何をしているか見てみたい――。誰でも一度は、そんな妄想をしたことがあるに違いない。その妄想を叶える道具として、古今東西さまざまな作品に出てくるのが「タイムマシン」である。超光速航法(ワープ)と同じく、現代の科学では実現不可能とされているが、相対性理論やワームホールなどをうまく使うことで、もしかしたら可能になるかもしれないという研究が行われている。どうやって過去や未来に行くのか? 本当に行けるのか? そして、タイムトラベルが実現したら、どんなことが起こるのか? といった謎について迫ってみたい。
タイムマシンとは?
世界で初めて「タイムマシン」というガジェットを持ち出し、過去と現代、そして未来を自由に行き来できる「タイムトラベル」を物語として紡いだのは、1895年に作家H・G・ウェルズ(1866~1946年)が発表したSF小説『タイムマシン』だった。
その後、多くの作品でタイムトラベルが描かれ、またタイムマシンという乗り物に乗って時間移動するものだけでなく、時空に穴を空けるなどして、その中を通って過去や未来に移動するもの、さらに通信などを介して情報や記憶のみを移動させるものなど、じつにさまざまな形態のタイムトラベルが描かれてきた。
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タイムトラベルもまた、超光速航法と同じく、現代の技術では実現は不可能とされている。しかし、まだ見つかっていない物質などがあると仮定した状態で、数式の上では実現できそうだという研究があり、いまもさらなる研究や、また議論の的となっている。
そのはじまりとなったのは、連載第2回の超光速航法の回でも触れた、米国の物理学者キップ・ソーン氏(1940~)の研究である。天文学者のカール・セーガン(1934~1996)が小説『コンタクト』を執筆しているとき、地球から約26光年離れた、こと座のヴェガにある惑星へ瞬時に移動する方法はないかと考えた。セーガンはまず、ブラックホールを使って移動することを考え、友人でもあったソーン氏に、それが理論的に正しいかどうか検証を依頼。その結果ソーン氏は、ブラックホールよりワームホールを使ったほうがいいと考えた。
ワームホールとは、その入口と出口が時空を貫いて直接つながったトンネルのようなものである。たとえるなら、『ドラえもん』に出てくる「どこでもドア」のようなもので、ワームホールのある一方の出入り口を地球に置いたとして、もう一方の口を月に置こうが、火星に置こうが、あるいは何億光年離れた星に置こうが、その間の時空を貫いて、瞬時に移動できる。
ワームホールが存在しうるということは、物理学者のアルベルト・アインシュタイン(1879~1955)が一般相対性理論を作った直後の1916年には、計算で導き出されていた。ソーン氏はそれをもとに、ワームホールで本当に超光速航法は可能なのか、そしてその実現には何が必要なのかといったことを考え、理論を考案。『コンタクト』に活かされたばかりか、論文としても発表した。
もっとも、その実現のためには「エキゾチック物質」と呼ばれるもののひとつである、“負の質量”をもった物質が必要であるとされている。さらに、これはあくまで仮定の物質であり、実在することは証明されていない。また、その後ほかの科学者による研究などでは、ワームホールを作るには宇宙を創り出すのと同じくらいのエネルギー量が必要であるとされたり、やはりワームホールを作ることなど不可能なのではないかといった研究結果が出されたりなど、あくまで計算上の話であるうえに、異論も多い。
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