No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載02

5Gの虚像と真実

Series Report

ヨーロッパの先頭はスイス

ヨーロッパでは2019年4月にスイスの通信業者Swisscom(スイスコム)が5Gサービスを開始した。周波数は3.5GHz。バーゼルやジュネーブなど54の都市と102カ所で5Gサービスを始めている(図4)。3億8400万スイスフラン(約420億円)でスイス当局からオークションでそのサービス権利を購入した。日本では必要な周波数は基本的に許認可制であり、届けて許認可を通過さえすれば、費用はほとんどかからないが、欧州では周波数の割り当てはオークションで手に入れるため、1000億円単位の費用を当局に支払うのが通例だ。かつてNTTドコモが世界的にリードした2Gの時に日本はずるい、という欧州通信業者の声があった。

[図4]スイスは人口の90%が都市に住むため都市をカバーするだけで、すでに人口の90%をカバーしているという
出典:Swisscom
スイスは人口の90%が都市に住むため都市をカバーするだけで、すでに人口の90%をカバーしているという

今は、イギリスを含め、5Gのオークションを始める段階に来たところに、新型コロナウイルスの感染が広まり、オークションが延び延びになっている(参考資料2)。また、新型コロナは5Gを媒介して感染が広まる、というデマ(完全なウソの作り話)が広まり、実際に基地局が燃やされるという事件が起きた。このため、ヨーロッパ全体での5Gのスタートは遅れつつある。

二度とガラパゴス化したくない

マスコミやIT関係のメディアに日本は周回遅れ、とたたかれても、それらの記事が正しい5Gの姿を伝えていないため、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの通信業者はマイペースで開発を進めていた。技術的に遅れている訳ではない。むしろ、意図的に少し遅らせた可能性さえある。なぜか。

かつて2Gと言われた携帯電話がアナログ方式からデジタル方式に変わった時のことだ。日本はTDC方式、ヨーロッパはGSM方式、アメリカはD-AMPS方式、とそれぞれが呼ぶ各地区の方式で進めていった。ただし、ヨーロッパのGSM方式はヨーロッパ以外のアジアや212カ国で採用され、事実上のスタンダードとなった。

技術的には日本のTDC方式は進んでいたと言われていたが、世界の通信業者は日本独自の方式を採用せず、欧州の通信業者と通信機器メーカーが何度も話し合いをしながら決めたGSM方式を採用した。このため日本は、自嘲気味に自分を「ガラパゴス化」したと表現した。1990年代の終わりころの話しである。

つまり世界の企業は、標準化をみんなで決める規格だと認識するようになっていた。それまでは、強い企業が先行し、他の企業が付いていかざるを得ない状況を作り出し、「標準化すること=勝ち組」と思い込んでいた。かつてのVTRのVHS方式や、パソコンではWintelと呼ばれた方式がデファクトスタンダード(事実上の標準化)となり、勝者となったからだ。

ところが携帯電話の世界ではデファクトスタンダードは存在しない。2Gまでは日本、アメリカ、ヨーロッパで規格が乱立したが、3G以降は世界で規格を揃えようという動きに変わった。携帯電話を使う消費者にとっても、外国旅行に自分の電話が使えなければ不便だ。だから、3G以降ではヨーロッパの通信業者の集まりであるGSMAが主催して標準化案を作りまとめ仕上げるようになった。

ちなみに毎年2月スペインのバルセロナで開催されるMWC(モバイル・ワールド・コングレス)は、つい10数年前までGSM World Congressと呼ばれていた。NTTドコモは、もう二度とガラパゴス化しない、と心に誓い、世界の通信業者と歩調を合わせながら規格を決めていくように変わった。だから5Gでも欧州と歩調を合わせて通信方式を合わせていく。

[図5]NTTドコモはエリクソンと共にすでに14.7Gbpsの実験済み
筆者撮影
NTTドコモはエリクソンと共にすでに14.7Gbpsの実験済み

技術だけなら、NTTドコモは2016年のバルセロナで開催されたMWCで5Gの実験デモとしてエリクソンと共同で、14.7Gbpsの高速データ速度のデモを見せていた(図5)。その後も、NTTドコモは、通信機器メーカーのノキア、ソフトウエアベースの計測器メーカーのNational Instruments(ナショナルインスツルメンツ)と共同で、5Gの実証実験も行っており、ガラパゴスにならない状態で、いつでもスタンバイしている状態だった。つまり決して遅れていたわけではなかった。

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