No.008 特集:次世代マテリアル
連載04 半導体テクノロジーの今
Series Report

今年は16/14nm半導体ファウンドリー決戦の年

ITRS2013(表1)にも示されているように2013年中に14/16nm ロジックデバイスの量産が始まる予定だった。しかし、Intelの14nm MPUの製造歩留まり(良品の取れる割合)が立ち上げ時点から長期に渡り低迷しており、2014年後半になってようやく、わずかの量のタブレットPC用14nm MPUが米国オレゴン州にある試作ラインから出荷された。パソコン用 14nm MPU量産は2015年にずれ込んでしまっている。2年ごとのロジック技術ノードの更新が14nmでは3年以上かかってしまっている。インテルは2013年秋に、「14nmからは本格的にファウンドリーサービス(集積回路の製造だけを請け負うサービス)を開始する」と発表しているが、歩留まりトラブルが完全には解決しないため、ファウンドリーとしての製造開始は、パソコン用MPU量産が軌道に乗る2015 年後半以降にずれこむのではないかと見られている。

ライバル各社に対するインテルの技術優位性の誇示の図
[図3] ライバル各社に対するインテルの技術優位性の誇示:インテルは90nmからSiGe歪シリコン、45nm からHigh-kメタルゲート、22nmから、トライゲート構造を採用したが他社より3年以上先行しているとしている。
出典:Intel

最先端の半導体は激烈な競争を展開

いま、最先端の半導体ビジネスは14nm技術でしのぎを削っている。ここに登場するのは、インテル、サムスン、TSMCなど半導体製造でトップ争いを演じている企業ばかりだ。彼らが展開している激烈な競争の一部を紹介しよう。

インテルは、ファウンドリービジネス参入にあたり、長年にわたって他のライバルに先駆けて新技術を導入し続けてきており、常に3年以上先行していると主張している(図4)。ライバルメーカーを名指しで露骨に比較するほど、モバイルビジネス不振のインテルの厳しい現状が垣間見える。

一方、韓国サムスン は、20nmをスキップして14nm Fin FETプロセスの開発を急いだおかげで、2014年前半に完成させ、インテルのファウンドリーサービスに先駆けて昨秋からの生産開始を発表していた。複数の顧客から大量注文を取り付けたか、あるいはその感触を得ていると言われている。同社s2ファブ(米国テキサス州オースチンにある工場の名前)ではすでにアップル社向けA9プロセッサ(今年秋にアップルから発売が予想されるiPhoneやiPadの次機種に使用される予定)の試作を開始していると噂されている。さらに、サムスンは米国グローバルファウンドリーズ(GF)に14nmプロセスを供与し、両社一体となって、世界に向けて14nmデバイスの受託生産を開始すると、昨年4月に発表している(図4)。GFは現在生産準備中である。

韓サムスンと米グローバルファウンドリ―が一体となったグローバルな14nmデバイス製造受託戦略の図
[図4] 韓サムスンと米グローバルファウンドリ―が一体となったグローバルな14nmデバイス製造受託戦略
出典:Samsung/Globalfoundries

台湾TSMCは、新興ファウンドリーであるインテルと対抗するため、20nmプロセス開発と並行して16nmプロセス開発を行うという離れ業をやってのけ、2014年にはアップルはじめ世界有数の大口顧客の20nmデバイス注文を独占すると同時に昨年秋から16nmリスク生産(試験的な生産)を始めている。

本格的なファウンドリービジネスへの参入宣言をしたインテルと、TSMC、サムスン(+技術供与先のグローバルファウンドリーズ)との三つ巴の激しい戦いがいよいよ始まろうとしている。14nmの次は、10nmの戦いとなるが、微細化の困難性はさらに増しており、ITRSロードマップ通りにはいかないことは確実だ。この意味で、ITRSは未来予測としてとらえると裏切られることが多くなっており、関係者の努力目標ととらえるのが適当だろう。

これまで半導体集積回路は、シリコンのほんの表面だけを使って形成してきた。今後は、シリコンを立体的に重ねて3次元構造を作って集積度を高めようとする技術もある。次回の連載では、これらの技術が向かう方向について考察していく。それによって、今後どこまで微細化が進むのか? 合わせて、読み解いていくことにしよう。

Writer

服部 毅(はっとり たけし)

ソニー(株)に30年余り勤務し、中央研究所で半導体基礎研究、半導体事業本部でデバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学大学院留学、同集積回路研究所客員研究員等も経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。工学博士。The Electrochemical Society (ECS)フェロー・理事。韓国漢陽大学工学部客員教授。主な著書に「シリコンウェーハ表面のクリーン化技術(リアライズ社)」、同英語版(Springer社)、「半導体MEMSのための超臨界流体(コロナ社)」「メガトレンド半導体2014ー2023(日経BP社)」がある(共に共著)。

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