No.008 特集:次世代マテリアル
連載04 半導体テクノロジーの今
Series Report

シリコンウェーハ製造は日本のお家芸

シリコンウェーハはどのように製造されるのだろうか。まずは、高純度の多結晶珪素(シリコン)を砕いて、お椀のような形状をした石英製のるつぼに入れ、加熱して溶解させる。次にワイヤでつるした小さな種結晶の棒をシリコン融液の液面につけ、回転させながらゆっくりと引き上げると、種結晶と同じ原子配列をした単結晶シリコン・インゴット(塊の意味)が作られる(図3上部)。円柱状のハムの塊を包丁で切ってスライス(薄膜状のハム)にするのと同じ要領で、シリコン・インゴットも薄切りにして円板状のウェーハにしてから、何度も研磨やエッチングや洗浄を繰り返し、表面を鏡面のようにピカピカにし出来上がる(図3下)。

直径の異なるシリコンインゴット(上)とシリコンウェーハ(下)の図
[図3] 直径の異なるシリコンインゴット(上)とシリコンウェーハ(下) 
出典:SUMCO

単結晶シリコン・インゴットを結晶欠陥なしに引き上げるのは、温度制御やインゴット引き上げスピード制御など難しく微妙な技術を要し、半世紀かけて試行錯誤を続け、インゴット直径を0.75インチ(20mm)から300mm(12インチ相当)まで徐々に拡大してきた。この間、直径は16倍、面積では250倍に拡大したことになる。ちなみに2014年の世界シリコンウェーハ出荷実績は、前年比11.4%増の93億7千万平方インチ(604万5千平方メートル)で、過去最高を達成した。金額ベースでは、76億ドル規模である。

ところで、シリコンウェーハの世界トップ・サプライヤ―は信越半導体(信越化学の100%子会社)であり、海外ではSEH (Shin-Etsu Handoutai)の頭字語で、エスイーエイチと発音)として知られている。2位はSUMCO(サムコと発音)で、一般の方にはなじみが薄いが、れっきとした日本企業である。 三菱マテリアルズシリコンと住友金属工業シリコン事業部門が2002年に合併して住友三菱シリコン(英語名はSumitomo Mitsubishi Silicon)となり、2005年にSUMCOに改名した。後に同業のコマツ電子金属を買収し子会社化したので、いわば信越半導体のライバル3社の連合軍だ。信越とSUMCOだけで世界シリコンウェーハ市場で6割以上のシェアを握っている。 無欠陥の結晶品質が要求されるシリコンウェーハ製造は、いわば日本のお家芸である。

コスト3割減を狙う450mm大口径化

半導体デバイスを微細化するたびに、解像度の高いリソグラフィ技術を始め、新たな技術や材料を導入する必要があり、デバイスの製造コストはますます高騰する傾向にある。このようなコスト上昇を、ウェーハを大口径化することにより吸収しようという試みが、過去50年以上に渡り行われてきた(図4)。

微細化の指標(技術ノード)ごとのシリコンウェーハ単位面積当たりの製造コスト(任意目盛)の図
[図4] 微細化の指標(技術ノード)ごとのシリコンウェーハ単位面積当たりの製造コスト(任意目盛)
微細化が進むにつれて上昇する製造コストをウェーハ大口径化で下げる 出典:Intel

この経験則に乗って、現在ウェーハ口径を現在最先端の300mmから450mmへと1.5倍大きくして、(面積は1.5 x 1.5=2.25倍に大きくして)、微細化によるコストアップを大口径化で吸収しようとしている。

米国の半導体製造技術開発コンソーシアムであるセマテックの試算によると、450mmウェーハの価格は、当初は300mmウェーハよりも5.5倍高くなったとしても、450mm製造装置購入費や水道光熱費や消耗材料費やメンテナンス費用を、300mmの場合の3割増しに抑えられれば、結果として、450mmウェーハを用いた場合のチップ当たりの製造コストは300mmから3割減となる(表1)。このような製造コスト削減をめざして、450mm大口径化を推進する世界的な動きが出てきている。

450mmウェーハを用いた製造コスト分析(300mmとの比較)の表
[表1] 450mmウェーハを用いた製造コスト分析(300mmとの比較)

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