No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Visiting Laboratories研究室紹介

国際宇宙ステーションの次は有人月ステーション

TM ── 月面探査をビジネスにするというのは、どのようなビジネスモデルなのでしょうか?

吉田 ── たとえば、XPRIZEにも参加していたアメリカのAstrobotic Technology社は、早い段階から月面への物品納入サービスを提唱しています。いわば、宇宙宅配便ですね。

そんな需要があるのかと疑問に思うかもしれませんが、将来、国際共同で月面に有人の観測基地が作られることは間違いないと思います。現在、地球周回軌道上を飛行する国際宇宙ステーションでは様々な成果があがってきています。これは15ヶ国の共同プロジェクトとして実施され、日本人宇宙飛行士も長期滞在しています。この次のステップとして、地球軌道を離れ、月近傍軌道あるいは月面上に国際共同の有人ステーションを開発していくことが、各国の宇宙機関で議論されています。

月に人間が常駐する基地を作ることになれば、そこに宅配便の需要が生まれるはずです。現在の宇宙ステーションにも、既に民間企業のSpaceX社がDragonという無人宇宙船による物資の補給業務を始めています。同じような需要は月に対しても必ず発生するわけです。とはいっても、必要な水や空気、食料をすべて地球から持っていこうとすると、コスト的に合わないでしょう。

月に人間は住めるか、をロボットで確認

TM ── ではどうすればいいのでしょうか。

吉田 ── 実は月面上に水源があるのです。月の北極と南極には永久に日陰になっている部分があります。そういった場所は-170〜-180℃ととても寒く、しかも真空です。日が当たり温度が上昇すれば水はあっという間に蒸発してしまいますが、これだけ低温だと氷が解けずに残っている可能性が高いのです。また水に限らず、揮発性の物質が固体のまま蒸発できずに残っている可能性もあります。まだ誰も現地で確認していないのですが、数十億トンもの氷が埋蔵されているのではないか、とも言われています。そこで、月面へ行って本当に氷があるのか確認し、採掘して水資源として活用できるか調べる必要があります。

こういった段階になると、様々なビジネスが成り立つのではないかと思います。そこで私たちは世界に先駆けて、月面探査ロボットを月の極に送って水資源を探すという仕事を考えているのです。

月にできた空洞の想像図
[図7] 月にできた空洞の想像図
出典:JAXAニュースリリース

吉田 ── 最後にもう一つ、JAXAが2017年10月に発表したニュースですが、月周回衛星「かぐや」が月の地下に巨大な空洞(図7)を発見しました。かつて月には火山活動があったので、これは溶岩流によって形成された地下トンネルだと思われます。この地下空間は、人間が宇宙からの放射線の被曝を避けるための重要な地下シェルターとなるでしょう。これは人間が月に長期滞在するためのカギとなります。こういう事実が出てくると、民間ベースで月に観光旅行ができる可能性も出てきますね。とても楽しみです。

吉田 和哉教授

Profile

吉田 和哉(よしだ かずや)

東北大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授。工学博士。

1960年生まれ。東京工業大学大学院在学中、「宇宙で活躍できるロボットを開発する」というテーマに出会う。1986年東京工業大学助手、1994年米国マサチューセッツ工科大学客員研究員、1995年東北大学助教授を経て、2003年より現職。 1993年に日本ロボット学会論文賞など、宇宙ロボット研究に関して多くの賞を受賞。特に、技術試験衛星VII型(きく7号)を使った軌道上ロボット実験の成果により、2004年日本航空宇宙学会論文賞を受賞。

2003年に打ち上げられ2010年に無事地球に帰還した小惑星探査機「はやぶき」では、小惑星イトカワの表面へタッチダウンしてサンプルを採集する技術開発に参加、成功へと導く貢献を行う。大学の研究室にて独自の超小型衛星を開発することへの挑戦も行っており、これまでに「雷神」(2009年打上げ)、「雷鼓」(2012年打上げ)、「雷神2」(2014年打上げ)などに取り組んできた。2010年より、探査ロボットを月面に送り込む国際コンペであるGoogle Lunar XPRIZEへの挑戦を開始し、日本からの唯一の参加チーム「ハクト」を技術開発責任者として率いてきた。XPRIZE参加のため、袴田武史氏らとともにベンチャー企業である株式会社ispaceを立ち上げ、CTO最高技術顧問も兼任している。

2011年3月に発生した東日本大震災に際しては、宇宙探査ロボットの技術を災害現場など人が近づけない危険な場所で活躍するロボットへ応用し、原発対応ロボット「クインス」の開発にも貢献した。

1998年より継続的に、国際宇宙大学の非常勤教員を勤め、国際的な場での宇宙工学、ロボット工学の教育にも活発に取り組んでいる。

2014年「宇宙ロボットの技術開発と極限探査への応用に関する研究」に対して科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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