LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

エネルギーのマネジメントによって新たな文明が生まれる

──社会や人の暮らしはどう変化するのでしょうか?

人口増加や生活レベルの向上による資源問題を解決し持続可能な社会を実現するには、エネルギー効率のよい社会を作らなければなりません。僕らの究極の目標は、地球全体のエネルギー効率を上げることです。
この目標をものづくりではなく、マネジメントによって実現したいですね。最近、僕は色々な場所でマネジメントの重要性を主張しており、マネジメントによって社会が変わることを、エネルギーを実例に見せたいと考えています。
農耕によって安定的に食料の供給ができるようになり、それを保存できるようになったことで文明が起こりました。モノや情報の蓄積技術は活動時間の自由度を高め、新しい文明、文化を生み出しました。身近なところでいえば、メモリやハードディスクなどデータの蓄積技術がリーズナブルに使えるようになったことで、テレビ番組を録画して好きな時に見られるようになり、新しいライフスタイルが生まれました。
エネルギーについても同じことが起こるでしょう。今ではあらゆる電子機器にメモリが搭載されていますが、あらゆる機器にバッテリーが搭載されれば、マネジメントのあり方が大きく変化します。何も大容量のバッテリーである必要はなく、コンデンサのような一時的な蓄電領域でもかまわないのです。
バッテリーやコンデンサがあれば、デマンドレスポンスやダイナミックプライシングのような仕組みがなくとも、エネルギー消費のピークをいくらでも平坦にできるようになります。

──元々画像認識技術の研究から始められて、エネルギー網の研究へとつながっていったというのはとてもユニークですね。

僕は元々ザリガニの神経網を研究していました。ザリガニの尾部には、六つの体節ごとに小さな脳があり、それらが協調して尾全体の運動を制御しています。画像認識技術でも、小さな認識モジュールがリアルタイムに協調して処理をすることによって柔軟な機能が実現できます。
かつて人工知能の研究をしていた時に気づいたのは、現実社会を一つのプログラムで完全に記述することはできないということです。社会は多様な人々によって構成され、生活スタイルも異なります。あらゆる状況に対応するルールを一つのプログラムで記述することなど不可能です。国でも大学でも全体を一人で統括する王様は不要で、個々人が自律的に判断して、相互にコミュニケーションを行う「分散協調」の方が柔軟性が高いのです。
自分がやって来たことを振り返ってみて気づいたのですが、僕は分散協調処理をさまざまな分野で実現したいんでしょうね。

Profile

松山隆司 (まつやまたかし)
京都大学大学院 情報学研究科 知能情報学専攻 教授

1951年大阪府生まれ。京都大学大学院修士課程修了。画像理解、分散協調視覚、3次元ビデオの研究に従事。最近は「人間と共生する情報システム」、「エネルギーの情報化」の実現へ向けて研究を行い、スマートタップを使用した「オンデマンド電力ネットワーク」の研究が注目を集めている。
国際パターン認識連合、情報処理学会、電子情報通信学会フェロー。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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