LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Scientist Interview

系統電力網は安定供給を第一に

──研究の第三段階、第四段階では、家庭やオフィス内、さらには地域内に設置された分散型電源や蓄電池の電力マネジメントも行うということですが、どのような技術が用いられるのでしょう?

京都大学では企業と協力して、この数年電力ルーターによる電力カラーリング(電力の由来別制御)の研究を行ってきました。これは、複数の分散型電源を持つナノグリッドにおいて、各電源からの電力を区別して家電に流そうというもので、「CO2の少ない電気を使いたい。」、「コストの安い電気を使いたい。」といった要求を満たすことができるようになります。
電力ルーターにはいくつかの方式があり、僕らの研究室では仮想化方式で研究を進めています。これはスマートタップを使って電力の同時同量制御(送電量と電力消費量を常に一致させる制御)を行い、仮想的な電力線を作るというものです。送電する側はどれだけの電気を送ったか、利用する側はどれだけの電気を受け取ったか、入口と出口で電力のつじつまが合うように制御を行います。これにより、ユーザーが電源を選択して電気を利用することが可能になります。

スマートタップを使うことで、電力の送り先も指定できるようになる。
[図表3] スマートタップを使うことで、電力の送り先も指定できるようになる。(動画紹介

──どのようにビジネス化を進められるのでしょうか?

現在70数社が参加するワーキンググループがあり、来年度には京都大学の中に産学連携の新たな研究室を設置します。ここでは研究開発のほか、商品化も進める予定です。また、複数の特許取得者が特許を共有する知財プールも作り、グループ内では知財を安く使えるようにします。
実証実験はマンションで進めていますが、ビジネスのターゲットにしているのはオフィスになります。
例えば、京都大学の電気代は年間で約24億円にも上りますが、この20%となると4億8000万円。企業にしてみれば、大きなビジネスチャンスになるでしょう。ヨーロッパの企業とも話を進めています。

──系統電力網は今後どうあるべきだとお考えですか?

系統電力網に求めるのは、安定供給ということに尽きます。これは必ずしも電力会社による独占を認めるということではなく、発電事業と送電事業を分離する発送電分離の議論にしても安定供給の実現を第一に考えて行うべきということです。市場原理を持ち込んでコストを下げるためだけに発送電分離を行うのはいかがなものかと思いますね。
系統電力網は、安定した電力を一定量きちんと供給すること。需要の変動に合わせて、系統電力網が需給調整する必要性を下げることが重要です。現在、電力会社が供給する電力は、一日の間に大きく変動し、そのピークに合わせて設備投資を行っていますが、そうした投資はできるだけ減らすべきではないかというのが、僕らのメッセージです。需要の変動はナノグリッドで閉じ込め、ユーザーサイドでエネルギーマネジメントを行う。需要をフラットにすることができれば、電力会社の設備投資は半分で済むでしょう。
エネルギーマネジメントの本質はユーザーサイドにあり、ユーザーサイドのエネルギーマネジメントが高度化、普及すれば、供給サイドの需給調整機能は減らして行くことができるでしょう。

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