No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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人間に寄り添うヘルスケアデバイス

デジタル化とネットワーク化する健康機器の進化

  • 2012.12.10
  • 文/淵上 周平

ヘルスケア関連デバイスの動きが活発だ。家電やスポーツ、IT関連などのメーカーが、ここ数年で一挙に参入を開始している。世界的な傾向としての高齢化、健康への関心をバックに、小さく、軽く、高機能になったデバイスが、ネットワークで接続され、ヘルスケア産業の情勢が大きな変化を遂げている。デバイス関連の最新事例を通して、ヘルスケアの未来を探る。

デジタル化するヘルスケアデバイス

健康はすべての人の願いであり、目標である。病気にならないこと、病気を未然に防ぎ、心身ともに万全の状態であることは、万国共通、すべての人たちの求めるものである。健康を維持するために、人々は、規則正しい生活や健全な食生活、適度な運動、定期的な健診などを行なうことになる。こうした行動をサポートするための機器を、ここではヘルスケアデバイスと呼ぶことにしよう。

最もポピュラーなヘルスケアデバイスとしては、体重計、血圧計、歩数計がある。もともとはアナログ式のものが利用されてきたが、ここ数年、デジタル化したものが一般に普及しはじめている。いくつか具体的な商品を見てみよう。

スポーツメーカー「ナイキ」のデジタルデバイス

スポーツのモチベーションアップのツールとして、ここ最近で最も話題になったデジタルデバイスの1つとして、スポーツ総合ブランドのナイキが展開した"Nike+"という一連のデバイスとサービスがある。シューズ、Nike+ SportWatch GPS、Nike+ SportBand、と名付けられたランニングデータを計測、管理するスポーツデバイスや、スマートフォンアプリケーション、家庭用ゲーム機といった幅広いデバイスとの連携により、ランニングやその他の運動データを計測する。

シューズ、Nike+ SportWatch GPS、Nike+ SportBand、スマートフォンアプリケーション、家庭用ゲーム機と連携したNike+の写真
[写真] シューズ、Nike+ SportWatch GPS、Nike+ SportBand、スマートフォンアプリケーション、家庭用ゲーム機と連携したNike+ 。

最初にリリースされたのは2006年。ナイキのランニングシューズに内蔵する小さな計測デバイスは、Apple社のiPodと連携することにより、ユーザーの走行時間と距離データを専用のNike+コミュニティサイトで可視化し、他ユーザーとシェアすることができた。デジタルデバイスがウェブを通じて世界のユーザーを巻き込んだコミュニティをつくるという画期的な製品・サービスであった。

コンシューマ向けの最新型のデジタルデバイスを牽引してきたNike+が、2012年1月に発表したのがNike+FuelBand(ナイキプラスフューエルバンド)。リストバンド型のデバイスで、腕に装着することで、活動時間や消費カロリー、歩数、距離などを計測することができる(日本での発売は未定)。USBとBluetoothを経由して、PCで自分のスポーツデータを管理できるだけでなく、iPhoneユーザーであればNike+FuelBandアプリケーションをダウンロードしてiPhone上でデータを見ることも可能だ。運動データの計測+専用コミュニティサイトにおけるシェアというNike+が切り開いた領域をさらに洗練されたかたちで展開し、「世界中の人たちが自分と同じように運動をしている」という経験を提供することに成功している。たとえば2012年11月のNike+ウェブサイトを見ると、このプログラムに参加したユーザーの走行距離の合計は7億マイル。トータル消費カロリーは約226億カロリーでトータルの歩数は174億歩となっている。もちろんいまこの瞬間も、数字は増殖中である。世界中の人と同じプログラムで走っていることの一体感や面白さは、この種のデジタルサービスの最前線というにふさわしい。

Nike+独自の”NikeFuel”という運動単位が提示されているの写真
[写真] Nike+独自の"NikeFuel"という運動単位が提示されている。

もう一点の興味深い試みが、Nike+独自の"NikeFuel"という新しい運動単位の提案である。Life is a sport. Make it count."というのがこのNike+ FuelBand発表時のキャッチコピーだが、これを字義通りに訳すと、「人生はスポーツだ。それをカウントしよう!」ということになる。ランニングやトレーニングなどのいわゆるスポーツだけではなく、朝起きて部屋を歩くことからはじまる生活のすべてを、"NikeFuel"という単位で運動として捉えよう、という全く新しいコンセプトが提案されているのである。"NikeFuel"は、内蔵の3軸加速度センサーが計測した身体の動きのデータを独自のアルゴリズムで計算し、数値化している。標準的な大人がこのバンドを一日つけると約2000Fuelという設定だ。ちなみにNike+に参加した世界中のユーザーの総"NikeFuel"は、約620億"NikeFuel"。バンドに並んでいる一列のLEDが、"NikeFuel"が貯まることで、赤から黄色、そして目標値に達すると緑に点灯する、という可視化を行い、ユーザーの運動へのモチベーションを高めている。カロリーでも歩数でもない新しい単位"NikeFuel"を中心にしたNike+の一連のデバイス+サービスは、ユーザーの心を確実に掴んでいる。

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