No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
Scientist Interview

病院と医療はどう変わるのか?

──バーチャル・ケアセンターが実現すると、医療費の支払い方も変わるのでしょうか。

eICUが期待するほどに広まらない理由は、課金方法がまだ確立されていないからです。医療は依然として作業量に対して課金する方法になっていて、いわばレンガをひとつ積めばその対価が支払われるようなやり方です。レンガを積めば積むほど収入は増えますが、それだけ道具を使うのでコストも増えます。それに対して、バーチャル・ケアの時代には、ある一定の人数に対して課金するようなアプローチが必要です。すなわち、eICU利用によって一定人口当たりのコストが下がれば、その節約分を人口全体が享受できます。医療を効率化できれば多くの患者を診ることができ、それがさらにコストを下げて利益が上がるというわけです。波に乗ってくると、いわゆる「イノベーション曲線」にそってバーチャル・ケアも急速に広まるはずです。

──バーチャル・ケアが社会の中で確立すると、医師と患者の関係はどう変わるのでしょうか。

テクノロジーによって変化が起こっても、医師と患者の関係は同じです。コンピューターやロボットを医師の代わりに信頼するようにはならないでしょう。ことに私は古い世代なので、毎回ではなくとも治療期間中どこかで医師が患者に触れるということが必要だと感じます。ですからバーチャル・ケアは現在の関係に取って代わるのではなく、関係性をオーグメント(補完)するものだと見ています。

──バーチャル・ケア時代にはスクリーンを通して患者とコミュニケーションするようになるわけですが、そうした時代に医師にはどんな資質が必要になるでしょうか。

自分の仕事が好きで、患者を診ることが好きでなければいけません。懸命に仕事をしながらも、かつ楽しめるという資質が必要でしょう。バーチャル・ケアと言っても、飛行機を操縦しろというような難しいことを求めているわけではありませんから、これまでのようにちゃんと鍛錬された医師としての資質のすべてが必要です。たとえば、私の知り合いに同じ病院で働いている2人の医師がいました。2人のバックグラウンドは似たようなものです。しかし一人はどんどん忙しくなるのに、もう一人は暇なまま。というのも、前者の医師は「具合が悪いのなら、私が診ましょう。すぐにいらっしゃい」と、いつでも患者を診察したくて仕方がないのに、後者の医師はいつも気難しく不機嫌なのです。医師に求められる資質は、テクノロジーを介しても変わりません。

──病院はどんな場所になりますか。

現在のような病院はなくなるでしょう。まあ、これには多少の誇張は含まれていますが、今、病院を建てると言うと、固定施設にかなりの資金を投入します。理由は、そうすることよって収入が上がるからです。しかし、バーチャル・ケアでは、仕事量によってではなく、「コスト削減」によって収益が得られるというパラダイムシフトが起こります。そして、新たな病院を建てる代わりに、いろいろな地域で既存の病院の一部を借り、そこの看護士らの手助けを借りて患者を迎えながら、こちらのバーチャル・ケアセンターのケア・マネージャーと医師がバーチャルに診察をするようになります。複数の病院の医師を統合して運営すれば、かなりのコストが節減できます。

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