TOKYO ELECTRON LIMITED

歩留まり向上技術 装置内におけるナノサイズのパーティクル発生との闘い

現在の半導体回路の加工サイズは数ナノメートルから数10ナノメートル程度です。半導体製造装置内で、半導体をつくるシリコン基板上にウィルスより小さいナノサイズの塵(以下、パーティクルと呼ぶ)が落ちただけで不良品を発生させ、半導体の良品率を示す「歩留まり」を低下させてしまいます。不良品の原因となる微細なパーティクルが発生を防ぐことは、野球場に数10ミクロンの砂粒一つ落ちていない状態にすることと同じくらい難しいことです(図1)。これまでも半導体製造装置の開発は、ナノサイズのパーティクルとの闘いの連続でした。

図1

(図1) 半導体の製造時に発生するパーティクルを野球場の大きさに例えた図

このような不良の原因となるパーティクル対策には、空気中の塵や埃が規定値内で管理され、同時に、温度、湿度なども管理されたクリーンルームと呼ばれる正常な空間で半導体を製造することが求められます。しかし、個々の半導体製造装置内で発生するパーティクルについては、クリーンルームで製造するだけでは解決できません。東京エレクトロン(TEL)は、世界有数の豊富なプロダクトラインアップを保有し、半導体製造装置を開発、製造しています。そのすべての半導体製造装置内で発生するパーティクル対策について研究をおこない、あらゆる革新的なパーティクル低減技術の開発に成功してきました。

図2

(図2) プラズマエッチング装置に適用したパーティクル可視化実験装置

例えば、プラズマエッチング装置内で発生するパーティクルに高強度のレーザ光を照射し、パーティクルの装置内での動きや発生のタイミングを確認する実験をおこないました(図2)。その結果、それまで知られていなかったさまざまな原理を発見しました。パーティクルの発生は主に、ガス導入時、圧力変化時、電圧印加時、振動発生時、温度変化時に引き起こされていることを明らかにしました。その中でも、圧力変化時のパーティクル発生の原理はそれまで経験的には知られていたものの、メカニズムは明確ではありませんでした。

加えて、パーティクル発生と圧力変化の関係を調べてみると、とても面白いことがわかってきました。プラズマエッチング装置内での急激な圧力変動は、プロセスチャンバと搬送チャンバ間のゲートバルブを開放した時の圧力差によって引き起こされるのですが、圧力が200 [mTorr]以上のときには、圧力比が2倍以上の時にのみパーティクルが発生するというものです(図3)。この実験結果をもとにシミュレーションをした結果、パーティクル発生は衝撃波によって引き起こされていることがわかり、衝撃波のエネルギーを低く抑えることによってパーティクルを低減できるということが分かりました[1]。

図3

(図3) ゲートバルブ開放時のパーティクル発生と圧力の関係

その他にも、プラズマエッチング装置などの真空装置で使われているターボ分子ポンプから発生するパーティクルの対策技術[2]や、メンテナンス作業の不具合によって発生するパーティクルの対策技術[3]なども開発しました。半導体の量産工場で使われているプラズマエッチング装置にさまざまなパーティクル対策を実施した結果、従来、ウェーハ上のパーティクルが平均12個(最大52個)発生していたプロセスにおいて、平均1個以下(最大4個)に低減でき、飛躍的な効果が確認されました(図4)。TELは、これらのパーティクル低減技術を、学会や論文を通じて世界中へ情報発信しており、半導体生産技術に特化した国際会議ISSM(International Symposium on Semiconductor Manufacturing)において、これまでにBest Paper Awardを3回受賞しています。

図4

(図4) プラズマエッチング装置内で発生するパーティクル対策の事例

また、震災などの災害時においては、半導体生産工場も被害を受けることがあります。クリーンルームが停止した工場では、建物の復旧だけでなく、その後のパーティクルの対策も重要な課題となります。TELは、故障した半導体製造装置の修復だけでなく、独自のパーティクル低減手法をフル活用することで早急な歩留まりの改善を実現し、量産復帰にも貢献しています[4]。

TELは、日本国内の主要開発製造拠点ならびにグローバルに有する研究開発施設を通じて、最先端技術をすばやく捉え、世界をリードする半導体メーカーと密接な研究開発をおこなっています。さらに世界的なコンソーシアムや開発パートナーと連携しながら、半導体製造装置の高生産性に向けたさまざまな技術課題に対し、ブレイクスルーをおこすための技術をこれからも探究し続けます。

References: 引用・参考文献
[1] Particle reduction and control in plasma etching equipment, T. Moriya, H. Nakayama, H. Nagaike, Y. Kobayashi, M. Shimada and K. Okuyama, IEEE Trans. Semicond. Manufact., 18, 477 (2005)

[2] Observation and Elimination of Recoil Particles From Turbo Molecular Pumps, T. Moriya, E. Sugawara and H. Matsui, IEEE Trans. Semicond. Manufact., 28, 253 (2015)

[3] Using an Optical Motion Sensor for Visualization and Analysis of Maintenance Work on Semiconductor Manufacturing Equipment, M. Kagaya, S. Tanaka, H. Matsui, T. Moriya, IEEE Trans. Semicond. Manufact., 30, 333 (2017)

[4] Preventive Methods on Plasma Chamber Corrosions by Earthquake, T. Moriya (AVS, 2013)