CEOメッセージ
ステークホルダーの皆さまには、平素よりご支援とご愛顧を賜り、心から感謝申し上げます。
東京エレクトロンは1963 年の創立以来、事業環境の変化に素早く対応しながら、時代をリードする独創的な技術で半導体産業の発展に貢献し、成長してまいりました。今日の東京エレクトロンがあるのも、ひとえに皆さまのご支援のおかげでございます。当社は、「最先端の技術と確かなサービスで、夢のある社会の発展に貢献します」という基本理念の実践を通じ、中長期的な利益の拡大と継続的な企業価値の向上に取り組んでおります。
半導体の過去・現在・未来
1947年のトランジスタの誕生以来、半導体の技術革新が、ICT産業の成長を力強く牽引してきました。PCやスマートフォンなどのデジタル機器が普及し、誰もがインターネットやプラットフォームサービスを使用するようになりました。こうしたサービスを通じて蓄積された膨大なデータを駆使してAIが新たな価値をつくり出す時代になっています。さらに、近年の生成AIの登場を機に、AIの利活用は日増しに拡大しており、デジタル技術と、私たちの暮らしやあらゆる産業との関係は、これまでにないほど密接になっています。
AIの進化、それに伴う社会の変容は産業革命の文脈で語られることも多いですが、これまでの産業革命では「筋力」が機械化・自動化されてきたのに対し、AIは「知的労働」や「考える部分」を自動化していきます。AIの性能は数年前と比べてすでに隔世の感がありますが、これからはエージェント型AIやフィジカルAIの登場に伴い、さらなる進化が期待されます。また、従来のビット・コンピューティングに加えて、量子コンピューティングやニューロモルフィック・コンピューティングを融合した新たなコンピューティング時代の到来、それを支える6Gや7Gのような次世代通信規格などの技術革新が、私たちの暮らしをより良い方向へ変革する可能性を秘めています。
「デジタル×グリーン」と半導体の技術革新
しかし、そのような未来の実現に向けて、克服しなければならない課題もあります。消費電力の問題です。AIの普及に伴い、AIデータセンターの需要が急速に増加しています。従来のデータセンターは、大量のデータ保管や、ウェブサイトの安定稼働を目的としたものがメインでしたが、AIデータセンターは超・大規模なコンピューティング(計算処理)に特化しています。IEA(International Energy Agency)のレポートによると、AIデータセンターの普及に伴い、2030年には現在と比べてデータセンターの電力消費が約130%増加すると予測されています。また、CO2排出量についても、80%増えるおそれがあります。
この試算では、データセンターの電力需要増加分の約半分を再生可能エネルギーで賄うことが見込まれていますが、それでもCO2排出量は現在の2倍近くになるという予測です。データセンターは、今や社会を支える重要なインフラですが、環境負荷を軽視してよい訳ではありません。AIがより便利になるような、演算の超高速化やデータ転送の広帯域化などの性能向上の追求が重要であるとともに、地球温暖化への対策が一層求められています。こうした中、社会のデジタル化と地球環境保全に向けた脱炭素化、すなわち「デジタル×グリーン」が世界の潮流であり、共有価値となっています。
この「デジタル×グリーン」の実現に欠かせないのが半導体の技術革新です。半導体には、さらなる高速化、大容量化、高信頼化、低消費電力化の、4つの進化の方向性があります。そして、これを実現するための半導体製造には2つのアプローチがあります。1つは、半導体の進化の代名詞でもあるスケーリング(微細化)で、チップ上での半導体の集積度を高めていきます。もう1つはさまざまな機能を集積化する、アドバンストパッケージングです。AI半導体もこのスケーリングとアドバンストパッケージングを駆使してつくられているものであり、これを支える半導体製造装置の役割は年々重要性が増しているとともに、市場の拡大が期待できます。
東京エレクトロンのビジョンと強みを活かした経営
東京エレクトロンは、そうした半導体をつくるための装置を製造・販売する会社で、世界における半導体製造装置のリーディングサプライヤーの1つです。
当社のビジョンは、「半導体の技術革新に貢献する夢と活力のある会社」です。このビジョンは、「TSV(TEL’s Shared Value)*¹」の考え方に基づいています。半導体製造装置メーカーとしての専門性を生かし、付加価値の高い最先端の装置と技術サービスを継続的に創出することで、「デジタル×グリーン」を支える半導体の技術革新に貢献します。また、利益は製品とサービスの価値の大きさを示す尺度と考え、ワールドクラスの利益を追求します。その利益を次なる成長投資につなげることで、中長期的な利益の拡大と継続的な企業価値の向上を目指していきます。そして、「企業の成長は人。社員は価値創出の源泉」と位置づけ、すべてのステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、このビジョンの実現に向けて活動してまいります。
当社の最大の特徴は、半導体製造における最先端領域を得意としていることです。微細なトランジスタを形成する前工程から、先端パッケージングにわたる幅広い工程に対応できる装置群を有しており、その多くが世界シェア上位を獲得しています。AI向けロジックデバイスをはじめとした最先端の半導体を製造するための工程数は2,000以上に上りますが、当社の強みである業界最大の装置出荷実績(累計100,000台以上)および業界最大の特許保有数(約27,000件)に基づく幅広い製品ラインアップを軸に、付加価値の高い「Next-generation products」のタイムリーかつ継続的な創出に取り組んでいます。
また、製造現場に変革をもたらす「Manufacturing DX*² with AI & Robotics」構想のもと、装置とフィールドサービスの二軸に対する生産性向上をAIとロボットを駆使して実現するソリューション「EpsiraTM(イプシラ)」を昨年12月にリリースしました。すでに、一部のサービスについては、主要なお客さまの量産現場への提供も開始しており、今後も、お客さまの生産性向上に貢献する取り組みを加速させていきます。
そして、お客さまの課題を解決し、半導体の絶え間ない技術革新に貢献し続けるソリューション・プロバイダとして、世の中の半導体製造に不可欠な比類なき存在になることを目指してまいります。
TSVは、CSV(Creating Shared Value)の考え方を当社グループの事業に即して捉えなおしたもの。CSVは、企業の専門性を活用して社会課題を解決することで、社会的価値と経済的価値を創出し、企業価値の向上と持続的な成長を実現するという考え方。
DX:Digital Transformation
中期経営計画の進捗
ビジョンの実現に向けた中期経営計画として、当社は2026年度までに売上高3兆円以上、営業利益率35%以上、ROE30%以上を目指す財務目標を設定しております。
当社の業績は、この10年で売上高は4倍、営業利益は7倍に成長してきました。加えて、足元ではAIサーバー向け半導体の旺盛な需要から、先端デバイス向け投資に関して強い引き合いをいただいており、売上高については3兆円以上の達成が見えてきております。ROEに関しましても、純利益の増加と資本効率の向上により、30%以上の達成が見込める状況です。一方、当社を取り巻く事業環境は、以前に増して大きく変化しています。米中対立に伴う規制や関税、中東紛争やロシア・ウクライナ戦争の長期化などの地政学的な影響、世界的なインフレや為替変動、お客さまの投資計画の変更など、さまざまな事業環境の変化が起こっています。このため、営業利益率の目標達成に向けてはチャレンジングな状況となっています。
このような事業環境の中、稼ぐ力を究明・追求し、時代の変化に適切に対応していくことが重要です。これまでの着実な進捗により、1兆円の営業利益が視野に入ってきましたが、利益率のさらなる向上を図るため、以下の5つのポイント、すなわち、①付加価値の高い次世代装置(強い“Next-generation products”)の継続的な提供、②納入した装置のアップグレード、③AIやロボティクスを活用したアドバンスト・フィールドソリューションの展開、④装置の立ち上げ期間を半分にする「One-touchスタートアップ」による効率性の追求、⑤インフレに伴うコスト増に対する適切な価格改定、について重点的に取り組んでまいります。
当社は、強みをさらに磨き、将来の成長機会を最大限に取り込むべく、2024年度からの5年間で研究開発投資1.5兆円以上、設備投資7,000億円以上、人材採用はグローバルで10,000名とする成長投資計画を設定し、取り組みを進めております。成長事業への投資と既存事業の効率化を通じて、継続的にワールドクラスの利益率を目指すとともに、資本効率の観点ではROE30%以上を意識しながら適切なキャピタルアロケーションを実施していきます。
連結売上高
人材に関する取り組み
当社では、「企業の成長は人。社員は価値創出の源泉」と考えます。社員がそれぞれの能力を最大限に発揮できるよう、社員の意欲とエンゲージメントを高めることがCEOとしての私の重要なミッションの1つであると捉え、次の5つのポイントからなる「やる気重視経営」に取り組んでいます。
やる気重視経営の5つのポイント
また、人材多様性が重要であるという認識のもと、Global、Gender、Generationの3Gの観点を意識しながら、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを推進しております。そして、さまざまなキャリアパスを示した上で教育プログラムの充実化も図り、社員の成長を支えております。
さらに当社は、業界のリーディングカンパニーとして、将来の半導体産業を担う学生や研究者などの育成もミッションと捉え、積極的に取り組んでおります。日米の大学によって構成される「半導体の人材育成と研究開発に関する未来に向けた日米大学間パートナーシップ(UPWARDS*)」に参画するなど、さまざまな産学連携プログラムの支援を通じ、次世代の半導体人材の育成に寄与することで、半導体産業のサステナブルな発展に貢献してまいります。
UPWARDS: U.S.-Japan University Partnership for Workforce Advancement and Research & Development in Semiconductors
環境に関する取り組み
社会において地球環境保全の重要性がより一層高まる中、当社では、持続可能な社会の実現に貢献すべく、あらゆる事業活動を通じて環境負荷低減、とりわけ脱炭素化に取り組んでいます。2040年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする「ネットゼロ」目標を設定しており、お客さまが当社グループの製品を使用する際のCO2排出量の削減、木材梱包の削減やモーダルシフトの推進による物流での環境負荷低減、各事業所における再生可能エネルギー使用の推進と資源使用量の削減などの取り組みを進めています。
また、当社内のみならず、お客さまやパートナー企業さまと連携しながら、製品のライフサイクル*¹全体について環境負荷低減を進めております。その一環として、環境にフォーカスしたイニシアティブ「E-COMPASS*²」を推進しており、サプライチェーン全体で半導体の技術革新と環境負荷低減に取り組んでおります。
製品のライフサイクル: 製品の企画・開発・設計から、調達、製造、物流、お客さまにおける使用時、メンテナンス・サービス、廃棄のバリューチェーン
E-COMPASS: Environmental Co-Creation by Material, Process and Subcomponent Solutions
“攻め”と“攻め”のガバナンス
当社では、短期および中長期的な利益の拡大と継続的な企業価値の向上を目指し、「“攻め”と“攻め”のガバナンス」を基本姿勢として経営をおこなっております。1つ目の“攻め”は、「“攻め”の事業活動」です。「利益は製品とサービスの価値の大きさを示す尺度」であると捉え、革新的な技術をもつBest Productsと付加価値の高いBest Technical Serviceの提供により、常にワールドクラスの営業利益率と30%以上のROEを追求していきます。
2つ目の“攻め”は、「“攻め”の経営基盤構築」です。すべての企業活動の基本である、安全・品質・法令遵守や社員をはじめとするステークホルダーとのエンゲージメント、セキュリティの強化・向上などについても、当社の強みとすべく追求していきます。特に、「Safety First」を重視しており、労働時間20万時間当たりの人身事故発生率を示す「TCIR*」で職場環境の安全性をモニタリングしています。2025年度のTCIRは0.22と、半導体製造装置業界の中でトップクラスを実現しております。当社製品の仕様に関わる安全性はかなり高いレベルで確保できているので、人的要因や行動要因による事故をもう一段減らしていくために、全社を挙げての安全キャンペーンをおこなうなど、取り組みを進めています。
また、「企業の成長は人。社員は価値創出の源泉」であり、社員が長く働きたいと思える会社づくりをしていきたいと考えています。当社の離職率は、日本では0.9%、グローバルで見ても2.2%と、半導体製造装置業界の中でも特筆すべき低さを誇っています。半導体人材の不足が叫ばれる中、人的資本経営の観点で、中長期的視点で人材の開発・活用に取り組めることは大きな強みになると考えております。
TCIR: Total Case Incident Rate
“ 攻め”と“攻め”のガバナンス
皆さまに愛され信頼される企業を目指して
半導体が実現する豊かな未来、進化し続ける半導体。それを支える製造装置市場は新たな成長フェーズに入りました。東京エレクトロンは世界No.1を目指して、これからも挑戦と進化を続け、当社だからできる付加価値の高い世の中にない技術を創造し、社会に提供してまいります。そして、「デジタル×グリーン」の実現に貢献し、半導体産業になくてはならないソリューション・プロバイダかつ、地球に選ばれる真のグローバルエクセレントカンパニーへと進化を遂げるとともに、すべてのステークホルダーに愛され、高く信頼され、夢と活力のある会社であり続けられるよう努めてまいります。
引き続き、皆さまのご支援を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。
東京エレクトロン株式会社
代表取締役社長・CEO
本メッセージは2026年9月発行の統合報告書CEOメッセージより転載しています。