TOKYO ELECTRON LIMITED

半導体製造装置と地球環境への対応

世界および半導体製造装置業界を取り巻く状況

われわれが生きている地球上では、世界各国で経済を発展させる努力がなされ、さまざまな産業で大きな進歩が成し遂げられています。その反面、地球環境という観点では、自然破壊が繰り返され、回復が困難なほどの状態に陥っている地域もあるというのが現実です。地球環境の破壊を食い止めるためには、世界の需要に対して製品やサービスを効率良く供給できさえすればよいという構図はもはや成り立たなくなっており、地球全体での環境保全、持続可能な成長を促進していくことが必要とされています。

半導体製造装置に置き換えて考えてみると、環境対策を施した製造装置から製造された半導体製品とそうでない半導体製品の間には、機能的な差は全くなく、消費者がどちらの半導体製品を購入したとしても特に不利益を受けることはありません。しかし、半導体デバイスの製造時に地球環境に悪影響を与えた場合、その不利益は(半導体製品を購入したかどうか、ということには関係なく)地球全体の居住者に及んでしまうことは想像に難くありません。したがって、地球環境保護は業界全体で進めていくことが必要とされています。

地球全体での環境保全の例として、温室効果ガス排出量について見ると、政府関与の方法は各国で独自に議論されています。その一つに、環境保全を目的に、環境負荷を与える者に対して課税する仕組みとして環境税が挙げられます。国民に対して環境保護の重要性を認知させて経済活動に関与する手法として、イギリスやドイツ、イタリアなどの国ではすでに導入されている税制です。日本でも環境税の一つとして二酸化炭素排出に対して税金を課す炭素税の導入が検討されています。このように世界各国の政府が環境税のような手法で経済に関与すると、経済の効率性を追求することだけでは企業活動は成り立たなくなります。地球は、全人類が参加する巨大なコモンズだといわれています。このコモンズを自由競争の論理に任せないことで、地球環境を破壊せず持続可能な成長を促進することができれば、今後のグローバル経済において、経済活動全体に対する環境経済の占める割合はより大きくなると考えられます。世界中の国々が地球環境保護の前提で市場を成立させることになるでしょう。

半導体は、19世紀後半に天然の半導体が利用されたことにはじまり、20世紀前半以降、研究開発が進み、ダイオードやトランジスタなどの半導体デバイスが開発、活用されてきました。その後、複数のトランジスタを小さな半導体基板上に作り込むことで、高集積回路を作る技術が開発され、半導体産業は現在までに驚異的な発展を遂げています。

半導体デバイスは、半導体製造装置でシリコンを加工することで製造されます。この製造過程で、地球温暖化係数の高いガス(二酸化炭素、メタン、フロンなど)が生成されることや、プラズマを用いた処理や高温に加熱する処理などにおいて大きな電力消費を伴うことがあります。このように、半導体の技術的進歩の一方の側面には、半導体を製造する過程で地球環境に影響を与えているという状況が挙げられます。そのため近年では、半導体デバイスメーカーは、高精度に加工する技術へのニーズに加え、地球環境への負荷が小さい方法で半導体デバイスを製造することができる半導体製造装置を要求する傾向があります。このような動きは、前述した地球環境保護に対する業界全体の施策に他なりません。

加えて、現在では多くの家電機器や乗り物をはじめ、さまざまな製品(例えば、スマートフォンや自動車、ゲーム機、冷蔵庫、ドローンなど)に半導体デバイスが使用されており、半導体製造における環境対策へのコスト負担は、最終的にはこのような製品の価格へ転嫁されることになります。つまり、そのコストはわれわれ消費者が負担することになります。したがって、半導体製造における地球環境への影響が小さく、かつ、製造コストを下げることが、半導体製造装置メーカーにとっての重要な課題とされています。

東京エレクトロン(TEL)の取り組み

東京エレクトロン(TEL)は半導体製造装置を開発・製造・販売するメーカーであり、世界各国の半導体デバイスメーカーに製品を提供しています。当社が世界中に出荷する装置台数は年間約4,000台、累計台数は約74,000台という業界最大の規模です。主な出荷先は日本以外に、アメリカ、欧州、アジア、中東をはじめとした世界各国であり、前述の通り、地球環境負荷の小さい方法で、製造コストを抑えた製造装置の開発が求められています。すでに世界中で販売されている装置台数が非常に多いことを踏まえると、市場に出た出荷済み装置に対して、改造による地球環境負荷低減への対応を進めることも重要です。

図1 300㎜プラズマエッチング装置において、粒子挙動制御技術を適用する前後における半導体デバイスの欠陥数の推移

TELはこれまでに、プラズマエッチング中の異物粒子挙動制御技術を開発し、半導体の不良品の発生率を大幅に下げることに成功しています(図1参照)。この技術を新規販売装置だけでなく、出荷済み装置にも改造により適用することで、不良品数の削減に寄与しています。これにより、結果として不良品製造に要してしまう資源やエネルギー消費の大幅な削減に貢献しています。

また、人工知能の機能の一つである機械学習を活用し、半導体の研究開発に必要なシリコン基板やエネルギーの使用量を大幅に削減することにも成功しています。図2はプラズマALD(原子層堆積)装置において、低ストレス膜(目標値:-100~0MPa)の製造プロセスを開発した際の結果です。エンジニアが数週間かけて約50回の実験を繰り返しても目的の低ストレス条件を見出すことができなかったのに対して、機械学習では、たった3回の実験でストレス最小のプロセス条件を見出すことに成功しました。このことにより、プロセス開発時に必要となる電力やガス、シリコン基板などの使用を最小化し、省エネルギーと省資源を実現しています。

図2 300㎜プラズマALD(原子層堆積)装置において、機械学習(ML)と人間(Engineer)がそれぞれ低ストレス膜(目標値:-100~0MPa)のプロセス探索をした結果の比較

TELは、地球環境負荷の小さい半導体製造装置をいち早く市場に投入することで、業界全体の環境負荷低減に貢献しています。このような当社の取り組みにより、半導体製造の効率化が図られ、最終的には消費者へのコスト負担を下げることにもつながっていると考えています。

TELは、業界のリーディングカンパニーとして半導体製造における環境負荷低減の重要性と、自社の研究開発の成果を国際会議などの場で積極的にアピールしています。これからも、世界中の半導体メーカーとともに、業界全体で地球環境保護に配慮した半導体製造の実現を推進していきます。

関連情報 学会発表

本内容に関連する学会発表により、TELは半導体製造に関する国際学会(International Symposium on Semiconductor Manufacturing 2018)にてBest Paper Awardを受賞しています。
Machine Learning Approaches for Process Optimization
Y.Suzuki, S.Iwashita, T.Sato, H.Yonemichi, H.Moki and T.Moriya (Tokyo Electron Technology Solutions Ltd.)

Best Paper Award 受賞の様子

引用・参考文献
加藤尚武(2001)『地球環境読本』丸善
小島寛之(2006)『エコロジストのための経済学』東洋経済新報社
スティグリッツ, ウォルシュ(2005)『入門経済学』東洋経済新報社
高木善之(1998)『地球村宣言』ビジネス社