半導体業界の最新テクノロジートレンド
Technology

東京エレクトロン(以下:TEL)は、「半導体の技術革新に貢献する夢と活力のある会社」というビジョンの実現を目指し、アカデミアや外部機関などさまざまな協業を通じて、ワールドワイドで研究開発を推進しています。#学会発表では、半導体をとりまく技術トレンドや、学会発表の現場、発表者の声を紹介します。 今回は、基調講演の動画をご紹介します。
略歴
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関口章久
東京エレクトロン フェロー東京エレクトロンCorporate Innovation本部フェロー。AIと量子コンピューティングに関するプログラムをはじめ、Corporate Innovation本部のグローバルなアライアンス戦略の計画と実施を担当。現在SEMIでBoard of Industry Leadersの一員に名を連ねている他、そのCTOフォーラムでも東京エレクトロンを代表してメンバーに加わっています。
入社は2007年。それ以前は米IBMのMicroelectronics Divisionに17年間勤務し、Semiconductor Research and Development CenterでFEOL、MOL、BEOLのプロセスおよび装置開発に携わって、IBMのDRAMやSOIベースのロジックなどの技術に貢献しました。
コロンビア大学で応用物理学の博士号、コーネル大学で工学物理の工学修士号および理学士号を取得、ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスで財務MBAを取得。
半導体テクノロジーの未来トレンドを探るADMETA Plus 2024開催
応用物理学会が主催する半導体配線技術の国際学会ADMETA 2024(The Advanced Metallization Conference 2024)において、東京エレクトロン フェロー 関口章久が半導体業界の最新テクノロジートレンドについて基調講演をおこない、業界の現状と技術ロードマップに基づく将来予測について話した。
半導体/半導体製造装置業界に押し寄せる斬新なイノベーションの波を感じ取ることができるこの講演動画を視聴し、未来を予感させるインスピレーションにぜひ触れてみよう!要旨は以下のとおり。
ICT産業の現況
関口フェローはまず、半導体業界の最新テクノロジートレンドを概観し、大きな成長が見込まれることを強調した。半導体市場の規模は現在(2024年)の約5,300億ドルから、2030年には1兆米ドル以上に達すると見込まれている。これを裏書きするように、半導体ファブ新設へのグローバルな投資は拡大している。業界における技術革新の波は、いまやIoTによる第一波からAIがもたらす第二波へと移行しつつあり、最終的には量子技術などの発展により、市場規模は2050年までに5兆ドルに達すると見込まれている。
インターネットやソフトウェアアプリケーションなど産業の発展を支えるインフラも重要、と関口フェローは強調する。膨大なデータを生む機械が普及するにつれてデータ通信量は急増し、データ解析の効率化が求められている。こうしたデータ量増大の大きな要因の1つが、AI関連のアプリケーションだ。これを受けて、半導体売上高の年平均成長率(CAGR)は今後5年間で30%に達すると見込まれている。生成AIは常により大規模なモデルを指向するので、より高性能な半導体が必要になる。スマートフォンなどに使われる最新のチップに搭載されているトランジスタの数は約160億個にも上り、これは10~15年前のスーパーコンピュータのトランジスタ数に匹敵するが、生成AIではさらに集積度の高いチップ(トランジスタ数約800億個のサーバチップなど)が求められている。高性能化への要求を受けて、業界では先進的プロセスノードを4nmから2nmへ移行させ、チップあたりのトランジスタ数を800億個から約2,000億個に増やそうとしている。微細化技術の進歩だけではもはや追いつかないため、ダイサイズの大型化が進んでいるほか、高帯域幅メモリ(High Bandwidth Memory : HBM)に対するニーズも高まっている。
半導体とサステナビリティ:Net Zero
関口フェローは半導体業界が抱える大きな課題として、エネルギー消費の問題を挙げている。2020~2021年にかけて、業界は年平均26%の高い成長を遂げたが、それに伴い今後のエネルギー消費についての懸念も生まれている。このままでは、半導体業界のエネルギー消費量が2045年までに全世界のエネルギー供給量を上回りかねないため、よりエネルギー効率の高い半導体の必要性が高まっている。
最近のデータを見ると、半導体業界のエネルギー消費問題はもはや未来の話ではなく、すぐにも取り組むべき課題となりつつある。さらにPFASが絡む環境問題もあり、安全な代替品が求められている。東京エレクトロンは半導体製造装置のリーディングカンパニーとして、2040年までにスコープ1、2、3のすべてにおいて温室効果ガスの実質排出量をゼロにするネットゼロを達成することを目標に掲げている。こうした課題に取り組みつつテクノロジーの高度化を進めるにはコラボレーションが不可欠、と関口フェローは強調した。
半導体デバイステクノロジーのトレンドと課題
話は半導体技術の進歩に移り、その焦点として物理的スケーリングとアドバンスドパッケージングが取り上げられた。関口フェローは、集積回路のトランジスタ数は2年ごとに倍増する、というムーアの法則に言及しつつ、ロジックデバイス、DRAM、NANDなどの技術進化として、微細化に伴う三次元構造へのシフトを挙げている。
この過程できわめて重大な役割を果たすリソグラフィでは、微細化が進む回路パターンをウェーハ上に形成するためさらなる短波長化が必要となっている。こうした進歩を達成する上で重要なのが、imecやその他の研究機関との協業だ。
ロジック技術の開発ロードマップでは、2030年代にかけての進展が示されており、関口フェローは、トランジスタ構造がFinFETからナノシートに移行する動きや、配線用の新材料に関する考察にも触れた。そして将来の技術進歩に向けたこうしたロードマップ策定には、さまざまな機関とのコラボレーションが必須であることを伝えた。
生成AIと広帯域メモリ(HBM)
関口フェローは、生成AIとこれがハードウェアに課す要件について論じた。大規模なモデルを効果的に処理するには、CPU、GPU、HBMを集積するチップレット構造が重要となる。ハードウェアのパフォーマンスを最適化するためには、単にロジックの性能を強化するのみならず、メモリ帯域幅も拡大する必要があるからだ。
ここで関口フェローは(ハードウェア性能の制約を示す)ルーフラインモデルという概念を紹介し、効率を最大化するにはアルゴリズムと利用可能なメモリやロジックといったリソースの整合性を図る必要があることを強調した。ただしトランジスタ密度の増加に比べると、トランジスタ1個あたりの省電力化は遅れており、結果として電力密度の増加が問題となっている。
NAND
NAND技術のイノベーションとして、セルスタック(ティア)の高さを増やすというスケーリング手法がある。しかし、高アスペクト比のスタッキングにはプロセス上の制約があり、高アスペクト比であるほどトランスポートリミッテッド効果が生じる。この課題を克服するため、積層数を従来の3ティアから2ティアに減らす方法が研究され、多くのコスト削減が見込まれている。
さらに、AIアルゴリズムで強化されたクライオジェニックエッチング(極低温エッチング)プロセスの開発により、高効率化と環境負荷の低減が期待されている。このイノベーションによって深さ10µm以上の穴を、従来比2.5倍の速度でまっすぐにエッチング加工できるほか、高速のエッチングレートが維持されるため、従来に比べて40%以上の低消費電力化も実現するなど、環境へのダメージも減り、よりサステナブルなNANDデバイス生産が可能となる。
先進的パッケージング(異種デバイス集積)と画期的な量子技術
ロジックやDRAMの回路を集積化して異なるデバイスを統合する技術は、特にAIアプリケーションの分野で普及し、効果を発揮している。この技術は当初CMOSイメージセンサーに採用されていたが、現在では他の分野にも広がっている。また、コンピューティングにおいてはハイパフォーマンスコンピューティング、AI、量子コンピューティングがシームレスに連携し合う未来への備えが必要、と関口フェローは述べている。
半導体製造装置メーカーの挑戦
東京エレクトロンは半導体製造装置のリーディングカンパニーとして、より高速・高性能でコストと時間の効率化をもたらすテクノロジーを提供し、お客さまのニーズに応えなければならない。関口フェローは、デジタルトランスフォーメーションによる効率化と生産性向上、および業界エコシステム内におけるコラボレーションの重要性を説いている。さらに、現在手作業でおこなっているタスクをAIやオートメーションに移行するには教育機会の提供や能力開発の支援が重要、と指摘している。関口フェローは講演のまとめとして、業界でコラボレーションが重視されていること、昨今の急速なパラダイムシフトを意識する必要があること、そして効果的にイノベーションを生み出すには協力が不可欠であることを強調した。