新型枚葉成膜装置 Episode™ 1 ─ AI半導体の進化を促し、日常を変える技術とは
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生成AIの盛り上がりにより、急速に拡大しているAI半導体市場。膨大な演算処理をすばやくこなすAIサーバーの生産には、高い機能をもったデバイスの微細化が欠かせない。
そのような微細化に伴って複雑化していく製造プロセスに対応するため、東京エレクトロン(以下:TEL)は新たな成膜装置を開発。2024年夏に、枚葉成膜装置 Episode™シリーズを発売した。複数プロセスの連続処理を実現し、半導体デバイスの製造に大きな生産性向上をもたらす装置だ。
本記事では、AIの処理スピードや社会の進化と成膜装置の関係を踏まえつつ、シリーズのラインアップからEpisode™ 1を紹介する。

AIがさらなる進化を遂げるには、半導体デバイスも進化が必要
近年、日常生活のなかでも存在感を増しているAI。その莫大な情報処理能力を支えているのがAIサーバーだ。AIサーバーには、とても高性能なデバイスが搭載されている。例えば、スマートフォン向けに搭載されている最先端のCPU(中央処理装置)は、トランジスタの数が約160億。それに対してAIサーバー向け半導体のGPU(画像処理半導体)には、800億ものトランジスタが集積されている。

つまり、AIの処理能力は、一般的なCPUやサーバーの比ではなくなっているといえる。AIの性能向上にとって、GPUなどのコアとなるロジックデバイスがもたらす処理能力とスピードは欠かせない要素だ。ロジックの進化とは、すなわち“微細化”。単位面積あたりに載せられるトランジスタの量が増えれば、同じ面積により多くの回路が詰め込めるようになり、情報処理のスピードが速くなるうえ、省エネになる。これからの社会を変えていくAIには、今まで以上にロジックの微細化が必要になるだろう。
そんなロジックの微細化に欠かせないのが、より微細な構造に対して成膜する装置。社会のニーズの高まりを受けて、東京エレクトロンは2024年7月、新型枚葉成膜装置 Episode™ 1をリリースした。
技術の応用から生まれたEpisode™ 1で、より均一な成膜を可能に
メタルの枚葉成膜装置 Episode™ 1は、最大8個のプロセスモジュールが搭載できるプラットフォームだ。高いシェアと実績をもつ既存装置 Triase+™シリーズの最大4プロセスモジュールから2倍に進化し、デバイスの微細化に伴う複雑なプロセスを、同時並行で連続処理できるようになった。
デバイスの性能を引き上げるには、配線の接触抵抗をいかに低減するかがポイント。金属を成膜する際、処理済のウェーハは酸素や水分のある環境にさらされると酸化して、電気抵抗が上がってしまう。Episode™ 1は同じ真空搬送系の中にプロセスモジュールを複数搭載しており、酸化膜を除去したあとにそのまま成膜できるため、既存装置よりも低い接触抵抗を実現した。
また、他メーカーなどでこれまで主流だった物理蒸着方式の成膜装置では、深いコンタクトの底にある構造体まで膜をつけるのは至難の業だった。しかし、デバイスの微細化が進めば進むほど、深い穴の底にあって凹凸が激しい構造体にも、均一な膜をつける必要が生まれる。
そこでEpisode™ 1は、CVD(Chemical Vapor Deposition)方式を採用。穴の底や構造体の周りにまんべんなくガスを行き渡らせ、表面に化学反応を起こすことで、均一に成膜する仕組みだ。TELは、もともとメモリの生産工程において、このチタンのCVD技術を20年以上も活用してきた。それを、立体的な構造が求められるようになったロジックにおいても応用したのだ。

このプロセスの導入によって、深いコンタクトの底にある複雑な形の構造体にも、電気抵抗が低い膜をきれいに成膜することが可能になった。しかも、真空度の高いモジュールで連続処理できるため、デバイスの性能自体が向上した。
このようにEpisode™ 1の強みは、高い生産性と、さらに装置面積の省フットプリント化だ。Triase+™シリーズよりもモジュールを小型化し、1つの装置に搭載できる数を2倍にしたため、同じモジュール数の装置を設置した場合、お客さまの工場の占有面積において約45%の省フットプリント化を実現している。

また、従来機より強化された装置データ収集とエッジ情報処理のシステムも魅力だ。これまでよりも多くのデータを収集し、分析できる大容量ストレージとCPUを搭載している。高速通信を可能にするため、アナログだったデータのやりとりをデジタルに刷新。装置の稼動状況やエネルギー使用情報をデータベース化し、解析アプリケーションによって生産効率を改善していくためのアイデアを出しながら、性能を引き上げている。
TELの技術が、日常を進化させていく
AIの進化は、現在とどまるところを知らない。例えば、パソコンの頭脳ともよばれるCPUは、コアの数が多ければ多いほど処理能力が高く、複数の作業を同時にこなすことができる。現在はクアッドコア(4コア)、ヘキサコア(6コア)、オクタコア(8コア)などが主流。対してAIにはそうしたコアが無数に搭載されていると考えれば、その非常に高い処理性能がイメージしやすいかもしれない。
だからこそ、AIの進化にはデバイスの微細化が不可欠であり、そのために、より細かい場所まで成膜できる装置が求められている。優れたAIをこれからの暮らしにもっと活かしていくには、スマートフォンなどの日常的なガジェットへの導入も加速していかなければならないだろう。スマートフォンに搭載できる、今よりもっと小さなチップセットの生産にも、デバイスの微細化が役立つ。
Episode™ 1の活用はロジックデバイスにとどまらず、今後ほかのさまざまなデバイスにも広がっていく予定だ。今はコンタクトホールにチタンを埋め込んでいるが、さらに接触抵抗が抑えられる新材料の成膜プロセスも、すでに開発を進めている。そうした進化は、いずれAIプロセッサそのものの生産にもつながっていくだろう。
また、同時に発売されたEpisode™ 2 DMR(Duo Matched Reactor)は、ウェーハを2枚同時に搬送し、同時に成膜するモジュールだ。Episode™ 1と同様に、高い生産性と省フットプリントを両立している。
TELの成膜装置は、デバイスの微細化を支えることで、より良い人々の暮らしを切り拓いている。