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天文学者×半導体製造装置の研究開発を両立!異色のデュアルキャリア実践者が次世代に伝えたいこと

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天文学者としてブラックホール研究に携わるかたわら、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズにて半導体製造装置開発のデータ解析に取り組む田崎文得さん。「宇宙と半導体はまったく畑違いに見えて、共通点も多い。どちらも面白い研究です」と微笑む彼女のユニークなキャリアは、どのように生まれたのか? 2つの役割を手にするまでの経緯や、大好きな科学と研究の経験から次の世代に伝えたいことについて聞いた。

プロフィール

  • 田崎文得

    京都大学でブラックホール研究に打ち込み、2014年より国立天文台 水沢VLBI観測所のポスドクに。世界各地の望遠鏡を連携させた観測システムを用いて、ブラックホールの撮影に取り組んできた。天文学者である一方、2020年より東京エレクトロン テクノロジーソリューションズに入社。天文学の研究を続けながら、半導体製造装置の研究開発にも携わる。

一番遠くて分からないものを学びたくて、天文学を選んだ

田崎は、幼い頃から算数や理科が好きだった。手元のヒントをかけあわせて難しい問題を解くことが、ひたすら楽しかったのだという。理系学科進学を志望するも、高3の夏まで吹奏楽部に打ち込んでからの受験勉強では間に合わず、浪人。「でも、一年間じっくり勉強する時間ができてよかったと思いました。心ゆくまで勉強し尽くしたとき、自分がどこまでやれるのかを試してみたかったから」と笑う。

大学入学後は、数学以外にもさまざまな科学の分野の講義を受けるようになった。多くの学問にふれる中で、また新しい興味を見つければよいと考えていた。

3年で専攻として選んだのは、天文学だ。「自然科学が好きで、地質や海洋、気象にも興味があったのですが、宇宙が自分から一番遠くにあるじゃないですか。遠いもののほうがより分からないし、分からないことを学ぶほうが楽しいと思ったんです」。

天文学の知識はあまりなかったけれど、そのぶん知ることすべてが新しかった。しんとした夜空のイメージから、宇宙は静まり返って見える。でも、じつは人間の目に見えない光が乱れ飛び、あちこちで爆発現象が起きていて、とても活動的な環境なのだという。

「そうした宇宙像は、研究室に入らないと見えてこなかったなと思います。新鮮で、いっそう興味をそそられました」。

「まさか実現できるなんて!」ブラックホール撮影の道へ

田崎は、天体から放出されるX線を頼りに宇宙を調べていく研究室に入った。研究対象はブラックホールだ。ほかのさまざまな光線に比べて、X線はエネルギーが高い。ブラックホール自体は目に見えないけれど、周囲のガスは重力によって熱や光を放つ。X線は、そんなブラックホールの活動を可視化してくれる。

5年間の研究にいそしんだところで、転機が訪れた。X線でのブラックホール研究を続けられる就職先が見つからなかったのだ。焦りを感じる中でご縁を得たのは、電波望遠鏡によって宇宙に挑む国立天文台 水沢VLBI観測所。X線と電波で手段は異なるが、目指すものは同じだと思った。

「公募されていたポスドクの業務内容が『ブラックホール撮影のための画像化アルゴリズム開発』だったんです。求められているプログラミングのスキルは満たしていたし、何より、私は自分が生きている間にブラックホールを撮影できるなんて思ってもいなかったからとてもワクワクして、新しい道に進もうと決めました」。

研究と並行して28歳で結婚し、翌年に出産。当時住んでいた東京から岩手に研究拠点を移すときには、パートナーも後押ししてくれたという。

5500万光年先の景色を、世界で初めて見たのは私たち

水沢VLBI観測所では、世界各国の電波望遠鏡群をつなぎ、地球サイズの仮装望遠鏡「イベント・ホライズン・テレスコープ」(EHT)を構成することで、ブラックホールの撮影を目指すプロジェクトに参画していた。田崎が関わったのは、ブラックホールから出される電波を受信し、解析したデータを画像に変換するためのアルゴリズム開発だ。データにどんな処理を施せば実物に近い画像が導き出せるのか、とことん試行錯誤した。

国立天文台 水沢VLBI観測所

画像化用の観測が初めて実行されたのは、2017年のこと。少ないデータ量でも解像度を高めるための新しい統計手法「スパースモデリング」の採用や、さまざまな分野の研究者と連携し、いくつものグループに分かれての画像化作業なども良い経験になったという。

ついにブラックホールの画像化を成し遂げたのは、研究に参加してから5年後だ。「それまで何年も準備に費やし『これでうまくいかなかったら何が原因なのかわからない』というところまで、研究を突き詰めていたんです。それでも自分の在籍中に成功する保証はなかったから、ブラックホールのリングの形が浮かび上がったときは心底ほっとしましたね。5500万光年先のブラックホールを世界でいちばん最初に見たのは私たちなんだ、という感動がありました」。

大学時代から追いかけてきた、遠くてよく分からない、でも魅力的なものの一端に、ようやくふれることができた瞬間だった。

天文学者と半導体エンジニア。デュアルキャリアを実現できたのは周りのおかげ

プロジェクトがひとつの到達点を迎えた翌年、ポスドクの任期が満了。田崎が今後の身の振り方を検討する中で、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズから、月の半分ほどを会社員として働き、残りの半分ほどでこれまでの研究を続ける働き方を提案された。

「天文学者のキャリアを続けたまま会社員にもなるというのは、未知の世界です。ロールモデルもいないし、自分自身も考えたことがない道でしたが、話を伺ってすぐに挑戦してみたいと思いました。新しいことにチャレンジするのは楽しいですから。ただ、私も会社も初めての試みだったので、自分が東京エレクトロン(以下:TEL)グループでどう貢献できるかは確信がないまま入社することとなりました」。

2020年に嘱託社員として、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズのシミュレーション技術開発部に入社。天文学者として培ってきたデータ解析のスキルを活かして、半導体製造装置の研究開発に携わることが決まった。ブラックホールの画像化で活用してきた統計手法「スパースモデリング」はそのまま、半導体製造装置が安定したパフォーマンスを発揮するための解析に役立っている。これまでとは畑違いだが、半導体の仕事も純粋に面白い。

「宇宙も半導体も、中をのぞいて見られるわけではないので、限られた情報で相手を知ろうとするアプローチは同じです。統計やデータ処理の手法も共通して使えることが多いし、天文学の研究と似た部分がたくさんあると感じます」。

さまざまな元素が関わっているのも、半導体と宇宙の共通点だ。水素とヘリウムしかなかった宇宙空間で数々の核融合反応が起き、星が生まれて飛び散りながら、いくつもの元素を生み出していく。「そのうちのひとつが地球であり、私たちの身体であり、半導体でもあるんです。すべてのものは宇宙とつながっているんですよね」。

そんな感覚を楽しみながら会社員としても働くうち、入社3年目で田崎は正社員になった。最初は「まだ天文学にも力を入れたい」と迷いがあった。

「でも『正社員になって天文学も頑張ればいいじゃない』と周囲が背中を押してくれました。一緒に働くチームのメンバーもみんな応援してくれるし、とても前向きな方が多いから、刺激をたくさんもらっています。本当に周りの方々のおかげで、研究と仕事の両立が実現できていると思います」。

大好きな科学を、次の世代に引き継いでいくために

田崎の軸は、いつも科学にあった。「科学をしたいし、科学の発展に貢献したいし、次の世代に科学を引き継ぎたい」と、夢を語る。科学技術の発展に寄与できる人材育成プラン『STEM教育』なども注目されてきているなか、田崎は次の世代にどのようなアプローチをしているのだろうか。

「私にとっての科学はとてもワクワクするものです。でも自分が科学でワクワクするのと同時に、人を科学でワクワクさせることにも同じくらいの魅力を感じています。次の世代を担う理系人材を育てていくのは、社会にとっても大きな課題です。『理科離れ』という言葉をよく聞くけれど、小学校には理科の実験に目を輝かせている子や、宇宙にすごく詳しい子が結構いるんですよ。なのにみんな、中学生くらいになるとその興味がしぼんでしまう。難しい単元に当たったり、勉強が好きなことをからかわれる雰囲気があったりすることが、ひとつの原因なのかもしれません。もっと『学ぶことが面白い』『探求って楽しい』と感じながらライフステージを進んでいけるような社会になれば、学問やキャリアの選択肢も増えるのではないでしょうか」。

分からないことが分かったときの楽しい感覚をずっと大事にしてほしい、と田崎は言う。そして、そうした教育の糸口にもなるのが天文学だ。身近にあるからこそ興味を引きやすいし、ロマンもある。

「ただ、天体の動きや月の満ち欠けは子どもたちがつまずきがちな単元でもあるので、楽しく学べる理科教育ができたらいいなと思っています。同じように、半導体をテーマにした教育コンテンツも考えていきたいですね。一見とっつきにくいテーマかもしれないけれど、半導体に使う元素などまで掘り下げれば、ぐっと近い存在に感じられるはずです。"天文学者"と"TELの会社員"という二つのキャリアをもつ自分だからこそできることを探して、取り組んでいきたいと思います」。

国立天文台 水沢VLBI観測所にて、施設内でも人気の顔出しパネルとともに

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