TOKYO ELECTRON LIMITED

ロボットが切り拓く“スマートファブ”
装置保守自動化の未来

Technology

熟練の手と目と経験に支えられてきた半導体製造装置の保守作業において、ロボットによる自動化が進みつつある。背景にあるのは人手不足への対応と、装置の複雑化だ。自動化が難しいとされてきた保守現場で、どのような変革が可能となるのか。東京エレクトロン(以下:TEL)で装置保守用ロボットを開発するエンジニアに、現在地と未来のビジョンを聞いた。

プロフィール

  • 池田 岳

    東京エレクトロン 装置開発部 PF開発F1グループ グループリーダー
    1996年の入社以来、一貫してソフトウエア開発に携わる。枚葉装置のプロセスモジュール、プラットフォームなどの開発に関わったのち、2022年より装置保守用のロボット開発プロジェクトを担当。

装置保守作業の自動化は、なぜ難しい?

まずは、半導体製造装置の保守作業において、ロボットによる自動化が難しい理由を教えてください。

池田

保守作業の本質は“状況の見極め”にあります。アセンブリ(組み立て)作業のように「決まったものを決まった手順で扱う作業」は自動化しやすいため、生産ラインはロボットに任せやすいものです。でも、さまざまな使われ方をした装置と向き合い、どこがどう壊れているかを見極めてケースバイケースで対応する保守は、そうはいきません。現状の作業や判断は、熟練スタッフの手・目・経験や勘に依存しています。

具体的にどのような保守の作業が、人間のスキルに支えられてきたのでしょうか。

池田

例えば、プラズマを用いる装置では、部品の位置合わせだけでもシビアです。部品を紙一枚分のクリアランス(ゆとり)できっちり真ん中に置かなければ、プラズマが均一になりません。もちろんそうした作業は、人間がやっても不均一になり、やり直しになることもままあります。

でも、それをロボットがやるとなると、いっそう難しい。紙一枚分の誤差もなく丁寧に部品を配置するロボットには、精密なカメラや視覚センサーが必要です。しかし、さまざまな装置が日夜動いている工場では、プロセスによる経時的な副生成物がロボットに付着する可能性があります。そうなると、センサーが誤検知を起こし、作業の自動化に支障が生まれかねない。また、いろいろなセンサーを組み合わせてその精度を保つのはとても難しく、人手を介するほとんどの保守作業は長い間、自動化できていませんでした。

それがなぜ、いま変化のタイミングを迎えているのでしょうか。

池田

AIや画像処理の技術が飛躍的に向上して、人間に近い認知や判断が可能になってきたことが大きな転機でした。同時に、工場の人手不足は待ったなしの状況。半導体製造装置が右肩上がりに増え、複雑化しているなかで、ベテランの作業員が何十万人単位で足りなくなっていくという推計もあります。

そこでお客さまから浮かび上がってきたのが「ファブに人がいない状態を目指したい」というニーズでした。製造現場を完全デジタル化する「スマートファブ」の実現がいま、業界全体の目標となっているのです。

装置保守用ロボット開発の現在地

スマートファブ化によって、業界や現場にはどのような変化が生まれますか?

池田

「部材を投入したら成果物が出てくる」という世界がやってくるでしょう。間接コストと人件費が大幅に削減できるうえ、ばらつきのない定量生産も可能になります。

生産のコントロールに人間が介在していたこれまでは、どうしてもヒューマンリスクがありました。トラブルが起きても状況の特定が難しく、原因にたどりつけない場合もあります。でも、ロボットの行動はすべてデータが取れるため、なにか失敗したとしても原因がわかります。スマートファブは、安定稼働と生産性の向上を、目に見えるかたちで実現してくれるのです。

現在、具体的にはどのような自動化が進んでいますか?

池田

まずは、安全面のリスクがある作業や頻出する上に失敗リスクが高い作業など、自動化の費用対効果が大きい業務から着手しています。

第一弾として取り組んでいるのが、装置の消耗パーツを交換するロボットです。作業スペースが狭いため、作業者は重いパーツを少し無理な姿勢で取り出さなければならず、交換するだけとはいっても手間がかかります。

自動化にあたっては、ロボットが担う作業を「パーツを外す」「新しいパーツを入れる」などに分割し、それぞれ最適なフローを組んでいくところから始めました。いずれは、取り替えたパーツを自動で搬送することも目指しています。そのためには、さまざまな機器や回線が配置されている通路を、ロボットが自由に動けるような環境やルールに整えなければなりません。

もう一つ進んでいるのは、原材料の交換ロボット。原材料の交換は頻繁に発生するため、作業者の負担が大きいことがわかっています。こうした現場のニーズに対して、自動化の効果を試算しながら、導入につなげていくプロセスを進めているところです。

自動化するにあたっての課題は何ですか?

池田

いま急いで自動化をしなくても「使いやすいヒューマノイドロボットが出るまで待てばいい」という声は一定数あります。でも、量産レベルのヒューマノイドはおそらく、事故などのリスクを避けるためにあまり出力が強くないはず。工場での作業を任せられるほど力持ちで動きの速いヒューマノイドが市場に出てくるには、きっとまだまだ時間がかかるでしょう。それでは間に合いません。

また、装置のメンテナンスをすべてロボットに任せるには、そもそも保守しやすい装置を開発することも必要です。ロボット開発の投資対効果は、お客さまに納得してもらうことがなかなか難しいもの。「自動化すればこれだけのものがつくれる」と言える生産装置と違って、保守は装置の使われ方によっても効果が変わってくるため、定量的なメリットを示しにくいんですね。人間という存在はとても優秀なこともあり、迷ったときにはまだまだ自動化でなく、人手を確保するほうに議論が流れがちです。

スマートファブ化を実現するルールの整備も

TELは装置保守ロボット開発の分野に、どのように貢献していますか。

池田

TELの大きな強みは、お客さまとの強固な関係です。さまざまな装置の中でも、半導体工場の装置は、独特の特徴が山ほどあります。TELは、お客さまと活発にコミュニケーションしながら開発を進めているので、現場のニーズに根ざした提案ができるのです。

一つの保守作業向けにつくったロボットを、別の作業に転用していく取り組みも進んでいます。装置やロボットは複雑なので、現場作業者が使い方を覚えるのも大変。だからこそ、顧客が操作するインタフェースや台車部分といった共通化できるところを整理することが効いてきます。

さらに、スマートファブにおけるルールづくりは、TELだからこそできる貢献です。例えば、「工場の通路にこのサイズのロボットを入れる場合、人の動線を分ける必要がある」「バッテリーにリチウムイオンを使う場合、安全対策をどうするか」といった細かいルールは、これからの運用において欠かせません。私たちは、現場の状況やお客さまの要望をくみ取りながら、そうした提案にも取り組んでいます。ただロボットをつくって売るのではなく、スマートファブを実現するパートナーとしてお客さまに伴走するのが、私たちの役割です。長く業界にいて、培ってきた信頼があるからこそできることなのではないでしょうか。

工場内で人間とロボットが伴走する部分的な自動化

工場の完全自動化に向けて、いまの最大の課題は何でしょうか。

池田

一番のネックは時間です。人が減っていくのも、技術の進化によって開発中のプロダクトが時代遅れになるのも、待ったなし。リリースに何年もかかったら、ロボットはすぐ役に立たなくなってしまいます。だからこそ、いかに適切なタイミングで適切なソリューションを出すか——そうしたタイムマネジメントが最大の課題です。デジタルトランスフォーメーション(DX)は人のため、未来のための手段にすぎません。今の手段だけにこだわらず、先を見据えて投資と時間のバランスを取りながら、何をやるかを決めていくつもりです。

ただ、なにぶん速い技術領域ですし、TELはSEMICONなどで認知を得ていることもあり、共同開発の話も複数動いています。スタートアップとスピードを合わせるのは難しいこともありますが、得意な技術領域は相手に任せながら、適宜連携していくやり方で進められたらと考えています。

SEMICON JAPAN 2025での登壇の様子
半導体産業に関する大規模な国際展示会だ

スマートファブが進んだ先には、どんな未来が訪れると思いますか?

池田

これまでさまざまな関係者の皆さんと話し合ってきた私なりの開発ビジョンは「人間がやる作業じゃないよね」がなくなる未来です。狭いところに体をねじ込んで手探りで作業したり、無理な姿勢で重いものを運んだり……そういう作業を、どんどんロボットに任せていきたい。どれだけ自動化が進んでも、半導体工場で働く人間がきっとゼロになることはありません。でも、理不尽な作業はゼロにできるはず。その変化は、これまで以上に半導体装置と向き合える環境を生むでしょう。

そのために次に自動化したいのは高所作業ですね。小さなロボットを装置に入れ込んで高所に運び、作業してもらう。人間が命綱をつけてつらい姿勢でおこなわなければならない作業を、ロボットに代わってもらいたいと思います。

次世代プロセスやデバイス開発は、とても面白いです。TELにはこういう“社会を大きく変える仕事”がたくさんあるんですよね。次の世代に業界を背負ってもらうための土台を、このスマートファブを通じてつくりたいと考えています。

工場内でロボットが自動作業するイメージ

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