プラズマ研究者が語るTELの魅力的な研究開発環境
Technology

固体・液体・気体に続き“物質の第4の状態”と呼ばれるプラズマ。半導体の微細加工を支えることで、私たちの手元にあるスマートフォンやパソコンの中身を形づくっている。
東京エレクトロン宮城の山澤陽平は、大学院時代を含めて四半世紀以上、この物質と向き合い続けてきた。誰も解けなかった謎に挑み、うどん屋で「頭の中で電球が光った」瞬間をつかむ——企業の研究者が、そんな経験を重ねられるのはなぜか。プラズマの奥深さと、東京エレクトロン(以下:TEL)で研究を続ける面白さを聞いた。
プロフィール
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山澤 陽平
アドバンストテクノロジーソリューション開発本部
コンダクタ&CCPソリューション開発部
チーフエンジニア/Plasma Scientist/人間・環境学博士
1999年 東京エレクトロン入社。大学院での6年間を含め、合計32年間にわたりプラズマの研究・開発に従事。特にRF*1プラズマ装置の領域では豊富な知見をもち、多数の成果を上げている。
現在は、東京エレクトロン宮城 コンダクタ & CCP*2ソリューション開発部のチーフエンジニア。
- RF: Radio Frequency(高周波)
- CCP: Capacitively Coupled Plasma
半導体の微細化に欠かせないプラズマエッチング
半導体との関わりも含め、プラズマについて簡単にご説明をいただけますか。
山澤
プラズマとは、気体に強い電気エネルギーを与えて電離により電子とイオンを発生、電子とイオンが自由に動き回る特別な状態にしたものです。日常的に目にする太陽や蛍光灯などもその一種です。半導体製造で用いるプラズマでは電離しているのは気体の1%以下に過ぎません。しかし、そのごくわずかな電子とイオンが実は重要な役割を果たしています。
半導体製造では、プラズマがもつ高い反応性を利用して、ウェーハの表面を削ったり、極薄の膜をつくったりしています。半導体を加工するための“超精密な道具”だといえば、分かりやすいかもしれません。
具体的に、プラズマは半導体製造のどんな工程で使われているのでしょうか。
山澤
主に、3つの工程で使われています。1つ目は、回路を削る「エッチング」。
半導体は、一面に張られた膜から不要な部分を削って溝をつけるエッチングによって、微細な回路のパターンをつくっています。いま求められている溝のアスペクト比は、1:100といった細かさ。液体を使う従来の「ウェットエッチング」では、それほど細い溝を掘ることはできません。
プラズマを使う「ドライエッチング」だけが、膜の狙った場所のみを正確に、垂直に削れるのです。東京エレクトロン宮城では、このエッチングをおこなう装置を開発・製造しています。
2つ目は、何十層もの薄い膜を積み重ねていく「成膜」です。ほかの手法では温度を上げないとできない工程ですが、プラズマなら温度を変えずに成膜ができます。温度変化によって形が崩れてしまうこともあるため、これは大きな利点です。
3つ目は「クリーニング」。加工後に残る目に見えない汚れや不要な物質をプラズマによって取り除き、きれいな状態で次の工程につなげます。
半導体の価格を大きく左右するのは、加工にかかるコストです。極端にいえば、プロセスが複雑化して加工に10倍の時間がかかるようになると、価格も10倍近くに跳ね上がるイメージです。ところが、プラズマの特性をうまく活かせば、エッチングの速度が10~20倍に向上します。今後の半導体の微細化・高性能化において、プラズマは欠かせない技術なのです。

プラズマ・エッチング技術の実用化
ー日本人の技術者による重要な発見
プラズマエッチングの技術は、どのように発展してきたものなのでしょうか。
山澤
プラズマエッチングは1950年代、コンピュータを使っている人さえ少なかった時代からずっと研究がされてきました。そして、世界に先駆けて活用のきっかけをつかんだのは、日本人です。
まず、プラズマの中には電離で生じたイオンと電子、電離してイオンにはならなかったものの、エネルギーを受けて励起状態となり、反応性が高くなったラジカルが存在しています。電荷をもつイオンは、電圧をかければ、加速することが可能です。ただし、イオン衝撃によってビリヤードのようにふっとばしてエッチングをするため、イオンの進む向きに沿って真っすぐ削ることができますが、削りたくないレジストまで削ってしまうのがデメリットです。
一方、化学反応でエッチングをするラジカルは、削れる向きに方向性はないものの、レジストを守りながら削りたい膜だけを削る、といった調整ができます。
イオンとラジカルそれぞれの作用のいいところ取りをすると、相乗効果で10倍以上高速に、削りたい膜だけ、狙った方向に削れるエッチングが実現します。これが、東京エレクトロン宮城のエッチング装置でも使われている「リアクティブイオンエッチング」です。1973年に、日電バリアン株式会社(現キヤノンアネルバ株式会社)で働いていた2人の技術者、細川直吉さんと松崎励作さんが発見した現象です。[1][2]

世界的な技術の発見に、日本人の貢献があったんですね。
山澤
この現象を活用して初めて、経済的に成り立つ形での微細加工ができるようになったといえます。この現象の活用がなければ半導体の進化、微細化は進まず、皆さんの手元にあるスマホもつくれなかったでしょう。人類への貢献という意味では、ノーベル賞を受賞しているような研究にもひけを取らないと思います。
ただ、私もそのことを知ったのは、この仕事を始めてからずっと後の2010年頃でした。Gaseous Electronics ConferenceのSpecial Evening Sessionで、プラズマプロセス分野の代表的な教科書を執筆したLieberman先生*による、半導体プロセスの歴史に関する講演を聴講する機会がありました。そこで「この技術を最初に見つけたのは日本人だ」と聞いたときは、たいへん驚きました。
[1] https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1809/28/news018_3.html
[2] https://www.shmj.or.jp/dev_story/pdf/develop27.pdf
[3] https://meetings.aps.org/Meeting/GEC10/Session/FT.1
[4] H. Abe, M. Yoneda and N. Fujiwara, ``Developments of Plasma Etching Technology for Fabricating Semiconductor Devices,'' Jpn. J. Appl. Phys. 47, 1435 (2008)
https://iopscience.iop.org/article/10.1143/JJAP.47.1435/meta
- Michael A. Lieberman(PhD):University of California, Berkeleyの電気工学大学院で教鞭を取る。代表的な著作に『Principles of Plasma Discharges and Materials Processing』がある。

プラズマの研究の面白さ
山澤さんご自身のキャリアについて教えてください。ずっとプラズマに関わっていらっしゃるとのことですが、半導体製造に使うプラズマとの出会いは?
山澤
学生時代は、どちらかというと核融合に近いことを勉強していました。それもプラズマの主要な用途ではありますが、半導体製造に使うプラズマとはジャンルが別です。でも、半導体製造装置の分野は実際の産業を支えており、技術が社会実装されるスピードも速いため、技術の発展に対してより現実的な展望を描くことができました。大学を卒業した後もプラズマの研究を続けていくには、半導体業界が良いと考え、中でも勢いがあると感じたTELに就職をしたんです。
配属は私の希望がかない、入社後は一貫してプラズマの計測・制御・プラズマ源の研究開発に従事してきました。2001年には、周りのサポートを受けて、働きながら博士号も取得しています。専門分野の研究にどっぷり身を置けたおかげで、入社一年目から特許を出すような機会もありました。
特に印象的だった研究や、若手時代のチャレンジはありますか?
山澤
入社3年目に取り組んでいた「高調波の原理解明」です。
プラズマを発生させるには、RF波で振動する電界を電極にかけます。そこでよく使われているのが、13 MHzという周波数です。ところが、正しく13 MHzをかけているはずなのに、なぜかその2倍、3倍の周波数が発生して、プラズマの状態を変える現象がときどき起きていました。また、ケーブルの長さを変えるだけで、結果に影響が出てしまうこともありました。ところが、その現象がどうして起きるのか、肝心な謎が解けていませんでした。

研究はどのように進めていったのでしょうか。
山澤
日中の実験室や研究室で取り組むだけでなく、データを印刷して持ち帰り、オフタイムでも暇さえあれば眺めていました。もはやグラフを見ているようで見ていない状態なのですが、それだけ考えていると、必要な情報は頭に入っていて……潜在意識でどんどん考えているんです。
振り返ればデスクに向かっているときではなく、休憩室でぼーっとしているようなときにこそ、考えが進んでいく感覚がありました。
研究の転機は、とある金曜の夜。会社帰りに寄ったお店でうどんを注文した後に、突然訪れました。うどんが出てくるまでの間にまたデータを眺めていたら、13MHzの整数倍の変化によって、不可解だった現象がすべて説明できることに気がついたんです。
そのとき、頭の中で電球が光ったような気がしました。研究者として、人生でそう何度もない瞬間だったと思います。
ひらめいたら、もういても立ってもいられない。翌日から旅行だったのですが、旅支度はそっちのけで、思いついたことを忘れないように考えをまとめました。先ほど紹介したリアクティブイオンエッチングの発見と比べたら、とても小さな発見ですが、ずっと謎で問題だった現象の原因に、その時その瞬間には、地球上で気づいているのは僕しかいない。
大げさかもしれませんが、もしも旅先で何かあったら、この発見が誰にも気づかれないまま埋もれてしまうかもしれない。まとめたデータを同僚に送り、ようやく荷造りを始めたのは、もう夜明けが近い頃でした。
研究に打ち込む真摯な姿勢と、まだ世にないことを研究する面白さが凝縮したようなエピソードです。
山澤
ありがたいことに、当時得た知見は今でも使われています。結果をまとめて論文を投稿したり、学会で発表したりする機会にも恵まれました。
若手のうちにそんな研究ができた理由は、TELの「話を聞いてくれる」空気にあると思います。どれだけ経験が浅くても、上司や同僚がきちんと話を聞いてくれます。役に立つ研究なら、会社は必ず応援してくれると思います。
やはり僕も入社前は、社会に出て自分の研究を認めてもらえるのか、やりたいことを続けられるのかがとても不安でした。いま振り返れば、自分の研究の価値は認めてもらうものではなく、結果を出して認めさせるもの。会社のニーズに沿いながら、自分も楽しめることを真剣に探していけば、TELではきっとチャンスがつかめます。

技術は、使ってもらってなんぼ
新しい技術をつくり、世に出す喜びについて聞かせてください。
山澤
製造業にはさまざまな企業があって、研究開発も多様な角度から進められています。ただ、どれだけ研究開発を重視しているのかは、売上に占める開発投資額が1つの指標になるかもしれません。全業種の平均は3%。対して、TELの開発投資額は10%にものぼります。だからこそ、新たな技術の提案やフレッシュなアイデアが常に求められており、若手にも仕事を任せていく風土があるのではないでしょうか。
それに、半導体製造業界は、技術サイクルが非常に速い。核融合の領域では、国際熱核融合実験炉「ITER」の実験開始が2033年以降まで延期になりました。もしあちらの分野にいたら、私は結果を見届けられないまま定年を迎えていたことでしょう。半導体業界だからこそ、自分の技術がいくつも世に出る喜びを味わえました。
技術は、使ってもらって、世の中の役に立ってなんぼ。
製品として世に出る、あるいは製品開発の役に立つことが何よりも重要だと思います。
開発した技術が製品に搭載されたり、以前手がけたプラズマ計測装置を実験室で見かけたりすると、ありがたいことだと思います。先ほどお話しした高調波の原理を使った装置が、お客さまのクリーンルームにずらりと並んでいる景色も、ぐっとくるものがありました。
普段ゲームはやらないのに、自分の技術を使った装置でつくられた家庭用ゲーム機を思わず買ってしまい、技術を使っていただいてありがたいと、眺めて晩酌をしましたね。
最後に、TELのプラズマ研究者として今後の展望をお聞かせください。
山澤
現在は次世代装置の開発をしている部門で、チーフエンジニアを務めています。定年まであと4年となり、最近は、残り時間でいくつ新しいことができるかを考えるようになりました。
ただ、TELでならギリギリまで新しいことに取り組んで、最後まで面白い発見ができるはず。限られた時間の中で、できることをやり尽くしたいと思っています。

