TOKYO ELECTRON LIMITED

技術革新への挑戦

次世代コンピューティングに向けた研究開発

半導体の需要はグローバルレベルで高まり、生産量も今後さらに拡大していくことが予想されています。このような状況下において半導体の使用による消費電力の増加は、市場におけるエネルギーの供給リスクにつながります。また、現代のコンピューティングにおいては、市場のニーズに応じてエッジデバイスでは低消費電力に重点が置かれ、サーバー系デバイスでは低消費電力よりも性能に重点が置かれているため、デバイスのPPACE (デバイスが使う電力、性能、シリコン面積、コストと環境負荷) のバランスに対する考え方を変えていく必要があります。東京エレクトロンではこれらの課題を認識し、半導体製造装置の事業を通じて解決に向けた取り組みを進めています。
電力効率に関する課題解決の手法として、メモリデバイスをロジックデバイス (演算回路) の間近に配置することで電気抵抗を減らし、デバイス間の情報伝達の際に生じる電力消費の削減につなげることが挙げられます。この手法によるデバイスアーキテクチャの最適化は有効であり、近年この分野での開発が活発化しています。
また、ロジックデバイスにおいては、CPU、GPU、NPUそれぞれの演算特性を生かし、最適な回路にタスクを振り分けるSoCなどが使用されています。このSoCのアーキテクチャは、張り合わせ技術を使わない一気通貫プロセス手法においても構築することができ、また3Dシステムインテグレーションでも構築することが可能です。3D システムインテグレーション技術はヘテロジニアスインテグレーション*⁴ (異種統合) とも呼ばれ、シリコンとノンシリコン素子、CPU とDRAM*⁵ など異なる素材を結合してパッケージ化する技術です。
また、AI技術の進化においては、人間の脳の機能に擬似させたアナログ抵抗変化素子*⁶と不揮発性抵抗変化メモリ*⁷の開発が進んでおり、当社の成膜技術もこの開発に貢献しています。
これらの技術を組み合わせて応用することで、さまざまなデバイスにおけるさらなる消費電力の削減や演算効率の向上が可能となります。
次世代コンピューティングの実現には、処理の高速化と省エネルギー化をさらに進めたAIチップセットの開発が必要です。当社は、半導体製造における幅広い技術とさまざまな手法を最大限に活用することで、コンピュータを人間の脳に近付けるという次世代のニーズに対応した付加価値の高い装置の創出に取り組んでいます。新しい材料の開発や3Dシステムインテグレーションによるチップセットのさらなる性能向上など、当社が貢献できる技術領域をさらに広め、半導体の電力効率の最適化と次世代コンピューティングの実現に向けた取り組みを展開しています。
また、次世代のさらに先の世代を視野に入れた量子コンピューティング技術の開発や応用についての取り組みを進めています。

GPU: Graphics Processing Unit。メモリを展開および変更してディスプレイ用の画像の作成を高速化するように設計された専用の電子回路のこと

NPU: Neural network Processing Unit。人間の脳神経系を模したニューラルネットワークを組み込んだ人工知能専用のプロセッサ

SoC: System on a Chip。1個の半導体チップ上にシステムの動作に必要な機能の多く、あるいはすべてを実装するという設計手法、また、その手法を使ってつくられたチップのことを指す

ヘテロジニアスインテグレーション: 異種チップを1つにするパッケージング

DRAM: Dynamic Random Access Memory。半導体メモリの一種で、コンピュータの主記憶装置や他の電子機器の内部での大規模な作業用記憶装置として用いられている

アナログ抵抗変化素子: 抵抗が連続的に変わる機能を備えた電子デバイス素子

不揮発性抵抗変化メモリ: 不揮発な抵抗変化を利用したランダムアクセスメモリ

デジタルトランスフォーメーション(DX)による製品競争力の強化

産業界全体でグローバルに広がるDXは、年々複雑化するさまざまな課題の解決手段として、半導体およびフラットパネルディスプレイ製造装置業界においても加速しています。

当社はDXを、半導体のさらなる微細化や積層化の要求に対する解の1つとして重要であると位置づけ、2021年1月に「TEL DX Vision」を策定し、「全社員がデジタル技術を“てこ”にして付加価値向上や効率化などの企業価値創造活動を持続的に推進するグローバルカンパニー」となることを掲げました。さまざまなデジタルイネーブラー*を駆使し、①モニタリング、②分析と予測、③コントロール、④自律のプロセスを繰り返しながら、高次元の課題の解決を目指し、製造装置の競争力をさらに強化していきます。

イネーブラー: 成功・目的達成を可能にする人・組織・要因・手段

xR: Extended Reality。VR (Virtual Reality / 仮想現実) 、AR (Augmented Reality / 拡張現実) 、MR (Mixed Reality / 複合現実) 、SR(Substitutional Reality / 代替現実) の総称

取り組み事例

当社は、プラズマ原子層堆積法 (PE-ALD)による膜カバレッジの調整作業において、Nanosheet 構造の周囲に均等な膜厚で成膜するため、AIによる機械学習を利用しています。これまでの実験データの集約や分析、プロセスの最適化をAIでおこなった結果、パターンのつぶれや変形といったダメージもなく、短時間に高いカバレッジで成膜する最適なプロセスを確立しました。AIを活用することにより、開発に使用するウェーハの量やエネルギーを最小化するとともに、エンジニアが従来の考えや慣習に縛られることなく、より付加価値の高い業務に取り組むことを可能にしています。

プラズマ原子層堆積法 (PE-ALD) : Plasma Enhanced Atomic Layer Deposition。原子層堆積 (ALD) は気相の連続的な化学反応を利用した薄膜形成技術。PE-ALD は基板の反応の活性化にプラズマを印加する方法

カバレッジ: 網羅率

300㎜プラズマALD ( 原子層堆積) 装置において、機械学習とエンジニアがそれぞれ、模擬的なNanosheet 構造における膜カバレッジのプロ セス探索をした結果の比較

製品競争力