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夢中になれることに、恐れず飛び込んで。「南部鉄器×半導体×宇宙」
キャリアトークショー

Culture

岩手県を代表する南部鉄器の老舗 株式会社及富、宇宙の解明に手を伸ばす国立天文台 水沢VLBI観測所、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン(以下:TEL)……脈絡のない組み合わせに思えるが、三者はいずれも岩手県奥州市に拠点をもっている。

2024年6月、それぞれの拠点に勤めるメンバーが奥州宇宙遊学館に集結。「異なる専門やキャリアの考え方を若い世代にシェアすることで、面白い化学反応を起こせたら」と、トークショーを開催した。イベント発起人で奥州市地域おこし協力隊の小泉成文氏をモデレーターに、いまのキャリアに至るまでの背景や三者の共通点、今後の目標などを語る。

プロフィール

  • 菊地 海人

    1848年から続く南部鉄器工房 株式会社及富9代目。幼い頃から工房や職人の世界に憧れてきたが、不景気でものづくりの厳しさを痛感。実家を離れてさまざまな職を転々とするが、東日本大震災や結婚・子どもの誕生をきっかけに家業を継ぐ。アートディレクターとして、EC事業や海外展開に携わる。
  • 渡部 翼

    山形県鶴岡市に生まれ、岩手大学卒業後、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズに入社。車やカメラ、パソコン、スマートフォン、センサーなど、あらゆる機械に欠かせない「半導体」の製造装置を開発している。
  • 田崎 文得

    京都大学でブラックホール研究に打ち込み、2014年より国立天文台 水沢VLBI観測所のポスドクに。世界各地の望遠鏡を連携させた観測システムを用いて、ブラックホールの撮影に取り組んできた。天文学者である一方、2020年より東京エレクトロン テクノロジーソリューションズに入社。天文学の研究を続けながら、半導体製造装置の研究開発にも携わる。

好きなことに夢中になる時間が、キャリアにつながった

最初のトークテーマは「いまのキャリアに至るまで」。三者がどのように10代を過ごしてきたかを振り返りながら、地続きで切り拓かれた現在を見つめる。

高校・大学の頃はどんなことが好きで、どんなふうに過ごしていましたか?

菊地

南部鉄器を生業とする家に育ったため、やはり幼い頃からものづくりは好きでした。でも「これはすごい!」と思ったものには何でも熱狂するタイプ。漫画『ブラック・ジャック』で医者に憧れたり、映画『STAR WARS』や『Back to the Future』を観て宇宙に興味をもったり。インターネットやパソコン、ゲームも大好きでした。

株式会社及富 菊地さん

渡部

僕は子どもの頃から図鑑を見るのが大好きでしたね。宝石の本を読んで「こういう元素からできているんだ」「こういう光り方をするんだ」などと面白がっていた感覚が、そのまま化学を学び、研究者の道を進むことにつながった気がします。

田崎

私も昔から算数や理科が好きで、思いきり理系でした。幼い頃からピアノを習っていて、小中学校では吹奏楽に打ち込んでいたため、音楽も好きでしたね。進路を考えるときも少し悩んだけれど、音楽の道に進んでしまったら勉強を続けられないと思って、京都大学理学部の道を選びました。と言いつつ、大学でもオーケストラ部に入り、勉強そっちのけで音楽をやってしまい……(笑)。本当に楽しかったし後悔はありませんが、いまもう一度大学時代に戻れるなら、今度はもうちょっと勉強を頑張りたいかなと思ったりはします。

菊地

でも、勉強以外のことに夢中になる時間も大事ですよね。僕は高校のときに、HTMLでホームページをつくることにハマったんです。「あなたは100人目のお客さまです」なんて訪問者カウンターがあるような、古い時代のサイトですよ(笑)。あのとき夢中になってパソコンをいじった経験は、いま南部鉄器のオンラインショップを開発・運用していることにも影響している気がします。

次は、そうした学生時代を終えて、いまのキャリアを形づくっていくまでのことを伺いたいです。どうしていまの仕事に興味をもち、どんな道のりを歩んできましたか?

渡部

僕は就職活動をするとき、研究者として世界一の技術に関わる仕事がしたいと考えていました。それで同じゼミの先輩が東京エレクトロン テクノロジーソリューションズを薦めてくれました。地元にも近い岩手から世界にチャレンジできそうなところに惹かれて、入社を決めました。

渡部さん

その時点では、半導体とはまったく関わりがありませんでした。専門は化学でしたし、半導体についてはよく知りませんでした。でも、化学の知識を活かして開発に携わることはできると思いましたし、世界を前に進めていくような半導体という新技術にも魅力を感じました。いま話題を集めている生成AIも、半導体が大きく関わっています。

田崎

私は大学院で修士号・博士号を取ってから、ひとつ山がありました。天文学者になるためには、研究員として働きながら助教授などのポストを探していくのがスタンダードなのですが、私の専門だった「X線天文学のブラックホール研究」分野ではなかなか採用してもらえず、就職先が決まりませんでした。そんな中、水沢VLBI観測所が募集していた「電波天文学」のポスドクに受け入れていただけて……専門は変わってしまうけれど、ブラックホール研究を続けられるならこちらの道に進もう!と決めました。

柔軟な方向転換ですね。

田崎

もともと「目標はこれ!」と掲げるのではなく、半径2mくらいの周りを見渡して、行けそうな道や面白そうな道を進みながら先を切り拓いていくタイプなんだと思います。確固たる目標をもたずにいままでやってきたけれど、結果的に、すごく楽しい人生になっています。天文学者として活動しながらTELで半導体製造装置に関わるキャリアは、まったく想像していませんでした。でも、話をいただいたときに面白そうだと思ったから、すぐに決めました。

田崎さん

菊地

どんな道をたどっても、自分が選んだ道を正解にするために努力し続ければいいのかもしれませんね。僕はものづくりを一度あきらめてからは、いろいろなバイトや広告代理店など、面白そうな仕事を渡り歩く暮らしをしていました。でも、東日本大震災をきっかけに「誰かに貢献する仕事がしたい」「生まれた子どもと一緒に、南部鉄器を次の世代につないでいきたい」と考えるようになり、親に頭を下げて家業を継いだんです。それからは、南部鉄器をいいと思ってくださる方に広く届けられるよう、世界を見て仕事をしてきました。いろいろ遠回りもしたけれど、自分が「こうしたら面白いな」と思ったことにどんどんトライしてきた経験が、いまのキャリアに集約しているのかなと思います。

誰だって、何にだってなれる。性別や属性は関係ない

「理系」や「ものづくり」と聞くと、現場は男性ばかりのイメージを抱く人がいるかもしれない。続くパートでは、南部鉄器や半導体、宇宙といった分野で女性がキャリアを開拓することについて、実体験をまじえながら聞いた。

田崎

実は私自身は、いままでキャリアを積み重ねてきた中で「自分が女性である」と意識する機会がほとんどありませんでした。自分が思うようにさまざまな挑戦をして、ときには失敗もしながら、ここまで進んできました。それもあって、「女性の採用や管理職の数を増やそう」といった最近の世の中の動きにも、あまりピンと来ていませんでした。でも、水沢VLBI観測所でブラックホールの撮影に成功してから講演の機会をたくさんいただくようになり、講演後に受け取ったある感想が、とても印象に残っていて……。

ひとつは、中学生の女の子からの「女性でも理系の研究者になっていいんだと思いました」。もうひとつは、子どもの付き添いでいらしたお母さんからの「もしかしたら私も、頑張れば何か成果を出して社会にアピールできるような未来があったのかなと思いました。とてもうらやましいです」という言葉です。

私は、女性だからこの職業に就けないとか、こんなことは成し遂げられないとか、思ったことがないんですよね。性別を問わず、やろうと思えばなんでもやれるはずです。でも、もしかしたら「女子は文系に進むものだ」「女性は結婚して家庭に入るべきだ」みたいな従来の価値観に押しつぶされている女性はまだたくさんいるのかもしれない、と気づいたんです。最初は登壇することに戸惑いも感じましたが、そういう方々がいるのだとしたら、私が前に立って話すことにはとても大きな意義があると感じました。

渡部

TELの開発部ではたくさんの女性が働いていますよね。

田崎

世代や価値観が変わるにつれて、企業も人の意識も少しずつ変化していると思います。私の娘は、育児をしている夫が褒められているのを聞くと「お母さんだって子育てしてるのに、お父さんだけ褒められるのはおかしいね」って笑っています。そういう価値観をもった次の世代に、私たちの世代の価値観を押しつけたくないですね。

菊地

及富にも女性の職人はたくさんいますよ。力が必要だったり、女性がするにはどうしても危険な工程というのは存在するけれど、そうした物理的に女性が担いづらい仕事をきちんと分担すればいいだけ。得意・不得意や価値観をすり合わせて、お互いをリスペクトし合いながら仕事をしていきたいと思いますね。

田崎

体力的なハンデは、技術で補っていけるようにもなるといいですよね。重いものを運べないなら、誰でも簡単に運べるシステムを導入すれば、誰にとってもプラスになります。そうした改善が、さまざまな現場でなされていけばいいなと思います。

先が見えないチャレンジだからこそ、面白い

最後のパートは、いま取り組む仕事の面白さと3つのジャンルの共通点について。若い世代のキャリア形成につながるヒントが、いくつも見つかった。

菊地

私がいま仕事をしていて面白いのは、南部鉄器という産業をどう続けていくか考えることです。この視点は経営者として、多くの従業員を食べさせていくためにも欠かせないこと。円安やインバウンド活況の中で、どういう商売なら世界に拡げていけるか、雇用を維持できるか、技術を継承できるか……さまざまな観点で「南部鉄器」を捉えなおし、何代も先につないでいくことを考えています。

そんな中で最近ウキウキしたのは、人気スポーツ選手や遠いアラスカに住む方が、我が工房の鉄瓶を使ってくださっていたことですね。目の前の仕事が、ちゃんと広い世界につながっているんだと実感しました。天文学の分野でも、月面に天文台をつくるという話がありますよね。そんなプロジェクトが進んでいけば、いつかは月で南部鉄器を作るようなコラボが生まれるかもしれないし……さまざまな物事がつながっていくのは面白いですよね。

田崎

月はもしかしたら鉄が採れるかもしれないですしね。半導体にも鉄は密接に関わっていますから、まさに今日集まった三者がつながる共通点です。

田崎さん、渡部さんは、お仕事のどんなところを面白く感じていますか?

田崎

私は東京エレクトロン テクノロジーソリューションズで、半導体製造装置をよりよくしていくためのデータ解析を担当しています。面白いのは、興味がある分野やバックグラウンドを活かしてアプローチできること。例えば、半導体の基盤であるウェーハに膜をつける工程では、膜の厚さや質を安定させなければいけません。そのための解決策は無限にあるけれど、私なら、天文学研究で培ってきたデータ解析の技術を使って解決を試みます。自分の得意をうまく使ってよい製品づくりに貢献するのが、私たちの仕事なんです。

渡部

そうですね。僕は、ガスや温度のパラメータをどう調整すればお客さまが求める製造要件を満たせるか?というアプローチで開発に取り組んでいます。最先端技術を扱う仕事だからこそ、唯一の正解はなくて、すべて自分たちで切り拓いていくしかない。先が見えないところをどんどん開拓していくのは、もちろん大変ですが、すごく面白いです。想定とは真逆の解析結果が出たりすることもあるけれど(笑)、それはそれで、プロセスを再検討するための大切な材料になります。

菊地

それってキャリア形成にとってもヒントになるかもしれませんね。挑戦してみれば何かしらのフィードバックが得られて、次に活かせる。

最後に、これから思い描く目標を教えてください。

菊地

地球規模で「南部鉄器」という美術工芸のプロジェクトを捉え、世界中に顧客を見つけ、文化として維持していくことです。技術力の高い作品はもはや世界中から生まれてくるけれど、南部鉄器の聖地としてこの土地を発展させ、価値を高めることも大切だと思っています。

渡部

半導体デバイス市場においても製品の売上は9割以上が海外で、日本は苦境に立たされています。でも、原材料になる高純度のガスやウェーハ、製造装置などは、まだまだ日本が強い。今後はそうした部分の性能を引き上げながら、日本の勝ち筋を見つけていかなくてはいけないですね。半導体がつくれる人材を育成するために、国や県も力を入れています。

田崎

そうですね。私は天文学と半導体という2つの分野を行き来しながら、自分が科学することを続け、次の世代に引き継いでいきたいです。天文学者であり、TELの社員でもあるという立場だからこそできることが、たくさんあるように思います。

菊地

それから、岩手という土地も盛り上げていきたいですね。移動手段さえ整えば、岩手は間違いなく観光業などで伸びる土地ですから。

田崎

いろんな土地に住んできましたが、四季折々の岩手は本当に美しいなと思います。天文学者として生きるためには世界中どこにでも出て行く必要がありますが、なるべく長く奥州市に住みたいです。地方は若者の流出が深刻な課題ですが、進学や就職で県外のいろいろな世界を見てから帰ってくる人や、岩手に縁はないけれどIターンしてくるような人が増えたらいいですよね。

菊地

子どもたちがたらふく夢を追いかけたあとで、自然と帰ってきたくなったり、ここで夢を拡げていきたいと思えたりするような町にしたい。それが、僕らが大人としてするべきことかなと思います。

イベントでは来場者から質問を募り、答える場面も

イベントは盛況のうちに終了。TELは、今後もこうした取り組みをサポートしていく。これまで以上に一人ひとりを尊重し、自分らしく働ける環境を整えることも、企業に求められる役割のひとつだ。そうした土壌がテクノロジーの発展につながり、新たな未来を切り拓いていくだろう。


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