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サステナブルな物流戦略で脱炭素社会へ。 東京エレクトロンが挑む“トレードオン”のモーダルシフト

Culture

脱炭素や労働力不足といった課題をめぐって、いま物流業界は大きな転換点を迎えている。今回紹介する東京エレクトロンBPは、東京エレクトロン(以下:TEL)の子会社として、物流サービス、施設管理、保険代理をおこなっている。東京エレクトロンBPでは、コストを払って負荷を抑える「トレードオフ」ではなく、課題を解決しながら利益も生み出す「トレードオン」の発想を大切にしながら、物流の改革に向き合ってきた。今回は、その中核を担う東京エレクトロンBPの村冨氏にインタビュー。モーダルシフト*や梱包の見直しといった施策から、業界内外での連携を通じた取り組みまで、TELグループの多角的な物流戦略に迫る。

  • 輸送手段の転換を図ること。自動車や航空機による輸送から、より環境負荷の低い鉄道や船舶による輸送に転換すること

プロフィール

  • 村冨真治

    東京エレクトロンBP 物流戦略企画担当 ディレクター 。TELが掲げる2040年ネットゼロ実現の目標に貢献するため、TELグループ全体の物流戦略を担当。サステナブルな物流体制構築に取り組む。

物流の改革は待ったなし。国の動きも追い風に

現在、日本の物流に対して、どのような課題を感じていますか?

村冨

2020年代に入り、日本の物流を取り巻く環境は大きく変わってきました。最も大きな課題は、トラック輸送の労働力不足です。2030年には現状の30~40%の荷物が運べなくなるといわれているほど、ドライバーの労働力が減ってきています。TELが輸送する半導体関連の製品は特殊輸送となるため、専用トラックや専門資格を持ったドライバーが必要。そこに高齢者の定年や後継者不足も絡み、状況は非常にシビアといえるでしょう。

また、物流の現場では伝票文化が根強く、なかなかデジタルトランスフォーメーション(DX)が進まないという問題もあります。一部の大手物流会社では少しずつシステムも導入されていますが、手書きの伝票作業もまだまだゼロにはなりません。

そしてもちろん、環境問題。多くの車を動かす物流が環境にもたらす影響は、どうしても大きくなってしまいます。

そうした状況を受け、国内企業ではどのような対応が増えてきているのでしょうか。

村冨

日本では2026年4月から、一定の規模を超える荷主企業に「CLO(Chief Logistics Officer/最高物流責任者)」の選任が義務づけられました。物流戦略の策定・実行や効率化・コスト削減などを担うポジションです。ただし、欧米のCLOがサプライチェーン全体を見て最適化を図っているのに対し、日本のCLOはまだ現場統括管理責任者の域を出ていません。調達・生産・販売といった部門を横断しながら、最適な物流を考えるまでには至っていないのです。ここも、いまの日本の物流の課題だと感じています。

ただ、国が法律を変えてCLOの設置を呼びかけるなど、物流業界に変革の兆しがあるのは確かです。これをいい機会ととらえ、TELの物流も刷新していきたいと考えています。

まさに、大きな改革のタイミングなのですね。

村冨

はい。しかし社会の追い風があるとはいえ、問題は一筋縄ではいきません。物流はなくてはならない部門ですが、直接的な利益を生まないコストセンターでもあります。だからこそ、構造を変えていくための費用対効果のバランスを確保するのが、非常に難しいのです。

TELが目指す「トレードオン」の物流

物流戦略において、TELが大切にしているマインドは何ですか?

村冨

TELは年間の貨物輸送量が多い特定荷主なので、CO2削減を目指すことが義務化されています。そこで大切にしているのは、環境を守る代わりにコストをかけるだけの「トレードオフ」で妥協せず、環境を守りながらほかのメリットも生む「トレードオン」を実現することです。

CO2を減らすための施策にはかならずコストがかかりますが、真摯に向き合う姿勢は企業価値を高めることにつながります。今はまず、その姿勢を大切にする過渡期。ただ、次のフェーズでは、お金の面でもちゃんとプラスを生みたいと考えています。費用がかかるだけの施策は停滞してしまいがちなので、環境課題に向き合い続けるためにも、何かしらメリットが出る仕組みを考えるのが大切です。

トレードオンの物流として、TELは、例えばどのような施策を実践しているのでしょうか?

村冨

例えば、梱包の見直しです。製品の輸出時には木枠やスチールを使った梱包が一般的ですが、そうした梱包材はリサイクルをするにもそれなりの負荷がかかります。

そこで2021年から取り組んでいるのが、強化段ボールでの梱包です。使用後は80~90%を再利用できて環境負荷が少ないうえ、強度があるのに軽く、梱包にまつわるさまざまな負荷を軽減します。ただ、「段ボール」という響きに不安を抱くお客さまが一定数いらっしゃるため、TELでは「STW(ストロング・トリプル・ウォール)」という名前をつけ、浸透を図ってきました。2025年3月期通期の採用率は34.7%(第4四半期43.7%)*で、木枠からSTWへの置き換えが進んだ結果、CO2排出量の削減に貢献できています。

*統合報告書 2025

強固で、再生可能な材料を使用したSTW(ストロング・トリプル・ウォール)

こうした施策によって、脱炭素の数値だけでなく梱包コストの削減という側面からのメリットも語ることができるようになり、トレードオンが実現するのです。物流は、いわば宝の山。さまざまな視点で眺めてみると、まだまだ多くの施策を試す余地があると感じています。

現場の負担が少なく、環境効果は高いモーダルシフト

2021年4月、TELは輸送手段の転換を図る「モーダルシフト」にもコミットしました。自動車や航空機での輸送を減らし、より環境負荷の低い鉄道や船舶に転換していく施策です。モーダルシフトは、TELの物流戦略の中でどのような位置づけにありましたか?

村冨

TELが脱炭素にコミットしはじめたとき、梱包の見直しとともにまず手をつけたのが国内輸送のモーダルシフトでした。現状を基本的に変えず、すぐにやれる現実的な施策だったからです。身近な例えで言うなら、これまでバス通勤だったのを電車通勤にするだけ。乗る電車が決まっていて所要時間が同じなら、朝起きる時間は変わりませんよね。

もちろん最初に船舶を用意する手間はかかりましたが、さまざまな船舶会社とコミュニケーションを取り、無事に環境を整えることができました。こだわったのは、モーダルシフトによってリードタイムを伸ばさないことです。同じリードタイムで納品できるなら、トラックを使おうと船を使おうと、製品を送り出す現場の負担は変わらない。現場が変化を受け入れやすくなります。

導入はスムーズに進みましたか?

村冨

物流のすべてにおいて言えるのですが、いざ始まってしまえば、あとはスムーズです。ただ、スムーズに受け入れてもらうためには、社内外との丁寧なコミュニケーションが不可欠。とくに内部の理解がないと、いくらオペレーションがほとんど変わらないといってもなかなか浸透していきません。導入によるメリットを丁寧に説明し、関係部署のリスクにはならないことを理解してもらいながら、現場をサポートします。初めのうちは「万が一なにか上手くいかない場面があれば私にお電話ください」と伝え、船舶会社とTELの窓口役まで引き取っていました。

今後、さらなるモーダルシフトを推進するうえでの課題はありますか?

村冨

半導体製造装置のサイズ形状では、簡単に陸送から船、鉄道へシフトできないことです。理由は、輸送モード*によってそれぞれにサイズ制限があり、サイズによって輸送モードが限定されること。これは、日本に限らず海外輸送でも同じことであり、出荷先国の輸送モードにも影響されます。TELは海外にお客さまが多いため、輸出先各国の各輸送モードに対応できる梱包サイズがあれば、より環境に配慮した効率のよい輸送を選択できるようになるのです。

例えば、航空輸送できる荷物には高さ制限があり、飛行機の大きさによって、高さ制限が異なります。船舶輸送ではもっと大きなサイズ形状でも運べるため、現状は輸送方法によって、個別最適のサイズを採用しています。ただ、どのモードでも搭載できる貨物については、ベストな共通サイズを見出し、情報共有ルールを整備するのが当面の目標です。それが実現すれば、輸送効率はもっと上がっていくでしょう。

  • 貨物の輸送手段。主にトラック、船舶、鉄道、航空の4つに分類される。
モーダルシフトで製品の輸送に使われているフェリー

新たな施策を積み上げて、防御しながら攻めていく

TELが2040年までの目標として掲げる「ネットゼロ(温室効果ガス排出の実質ゼロ)」。2025年現在は30%の達成率ですが、残り70%を進めていくうえで、どのような課題がありますか?

村冨

2021年のコミットから、モーダルシフトによって事態は大きく進みました。今後、フェリーが新しくカバーできる区間は、もうほとんどありません。すべての燃料を再生可能エネルギーなどの非化石燃料に切り替えれば残り70%を達成できるでしょうが、それではコストが6倍ほども上がってしまいます。今のコストやオペレーションをできるだけ変えず、こつこつCO2を削減できる施策を見つけていかなければならないのです。

いま、検討している新しい施策はありますか。

村冨

W連結トラックは現実的な施策ですね。通常の10tトラックを連結し、1人のドライバーが2台分の輸送を担える仕組みで、深刻なドライバー不足をカバーできます。ただ、特殊車両のため、受け手が限られてしまうのがネックです。

いずれにせよ、ここからはフェリーのような単一の施策で一気に大きな成果を出すのではなく、さまざまな輸送手段や燃料、仕組みなどを組み合わせて少しずつ結果を積み重ねていく「マルチパスウェイ」のフェーズだと考えています。W連結トラックを導入し、それを受け入れてもらうためのやり方を考える。エネルギーをできるだけ使わない、新たな車両を探す……など、試行錯誤をしているところです。

個社でやることには限界があるため、会社や業界の枠を超えた結びつきも大切にしています。

例えば、どんな会社や業界と連携しているのでしょうか。

村冨

TELが所属している日本半導体製造装置協会(SEAJ)では、物流についての勉強会を重ね、業界として協働する「物流専門委員会」が立ち上がりました。業界を挙げたアクションができるような体制を整えているところです。さらには、別の業界とも交流しながら、課題解決を進めていきたいと思っています。物流という問題は、業界を超えた共通事項ですから。

TELは半導体業界を牽引していくリーダーとして、そうした取り組みのどのような使命感を持っていますか? TELだからこそできることを聞かせてください。

村冨

物流を取り巻く環境やコストの課題は、容易に解決できるものではありません。簡単には取り組めない難しい施策がたくさんあります。だからこそ、リーディングカンパニーとしてTELが挑戦し、業界の内外に背中を見せることが大事です。そして、チャンレジするTELだからこそ、取り組める施策があります。実際に、私たちが先陣を切ってアクションすることで、さまざまな企業が後に続いてくださることがあります。

まずはTELが知恵を尽くし、多角的な施策を打つ。もしそれでも目標に追いつかなければ、国や世界に働きかけながら、コストと目指す数値のバランスをとっていく必要があるかもしれません。今後も業界リーダーとして、“防御しながら攻める一手”を積み重ねていきたいと考えています。


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