No.007 ”進化するモビリティ”
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2回目の試験で再挑戦

D-SEND#2の飛行試験は、スウェーデンのエスレンジ実験場で行われている。機体は2機製造されており、飛行試験を2回実施することができるのだが、2013年8月16日に行われた第1回試験において、分離の62秒後に姿勢制御が不能になるという不具合が発生。同170秒後に姿勢が回復したものの、計測地点の手前8kmで地上に落ちてしまった。

D-SEND#2で使用する試験機の写真
[写真] D-SEND#2で使用する試験機。無人で自律的に飛行することが可能(提供:JAXA)

そのため第2回の試験は延期。問題の原因を調査したところ、「飛行制御プログラムに安定余裕(姿勢を安定に保てる制御能力の範囲)が不足していた」ことと、「計算機上の空力モデルが不適切で、ロール/ヨー*2の空力特性に、想定よりも大きな実機との誤差があった」ことが分かった。

どちらもハードウェア的な問題ではないので、ソフトウェアの改修で対応。2014年7月22日〜8月22日の間に、第2回試験が行われることになった。残念ながら、この期間中には試験に適した気象条件にならず、実施を断念したものの、JAXAは今後、D-SEND#2の試験計画について、再検討するという。

ちょうど今、国際民間航空機関(ICAO)の超音速タスクグループ(SSTG)において、ソニックブームに関する環境基準の検討が進められており、2016年2月に策定される見通し。実機を飛ばして得るD-SEND#2の実験結果は、世界的に見ても貴重なデータだ。飛行試験に成功すれば、これに対する大きな貢献になると期待されている。

コンコルドは騒音の問題をクリアできなかったため、陸上での超音速飛行が禁止されており、就航可能な航路に大きな制約があった。今後、国際的な環境基準が策定され、それを満たせる技術を開発できれば、そのような制約はなくなる。第2世代の超音速旅客機の実現に向け、大きな一歩となるだろう。

JAXAがあるシンクタンクに調査してもらったところ、マッハ2の超音速飛行により、多くの地域間移動が6時間圏内となり、世界のGDPを1.3%も押し上げるほどの経済効果が予想されることが分かったそうだ。日本は地理上、北米にも欧州にも遠く、超音速機によるメリットは非常に大きい。「宇宙」だけでなく、JAXAの「航空」技術にも期待したいところだ。

[ 脚注 ]

*1
psf:
psf(pounds per square foot)は圧力の単位。1psfは、1平方フィート(約30cm角)の面積に1ポンド(約454g)の重さがかかるのと同じ
*2
ロール/ヨー:
「ロール」「ヨー」は飛行機の旋回を示す用語。ロールは機体を左右に傾ける運動で、ヨーは機首を左右に振る運動となる。もう1つの「ピッチ」は、機首を上下させる運動のことだ

参考サイト
D-SENDプロジェクト第2フェーズ試験サイト http://www.aero.jaxa.jp/spsite/d-send2/
宇宙航空研究開発機構(JAXA) http://www.jaxa.jp/

Writer

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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