No.007 ”進化するモビリティ”
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自転車共存都市の未来

 

  • 2014.09.12
  • 文/淵上 周平

近代に入って発達した様々な乗り物は、軍事技術と並走しながら発達をとげてきた。ガソリンや電気を原動力として取り入れ、速度やパワーを拡大することで、文明の発展に大きな影響を与え続けている。そのなかで、誕生したときからほぼ技術的な進化もなく淡々と走り続けてきた乗り物、それが自転車である。
しかし、自転車は未来の乗り物の先頭を走っている。先進国を中心に世界的に自転車人口は増加しているし、ガレージメーカーからビッグブランドまで様々な自転車メーカーが新製品の投入にしのぎを削っている。各国で自転車推進政策による後押しもある。古くて新しいヴィークル(乗り物)として、自転車は大きな存在感を持ち始めているのだ。その現状と未来を見てみることにしよう。

人類は自転車に乗ってどこに向かうか?

自転車の動力はただ人力のみである。足の力をペダルーチェーンー車輪へと伝えることで前に進む。このシンプルな機構は、発明当初からほとんど変わっていない。自転車は、歩くよりも早く移動できるが、自動車よりは遅い。自動車は、窓ガラスや車体などによって守られていて、車内は部屋のような個人的な空間をつくるが、自転車は風や音や匂いを身に受けて、世界と直接触れ合いながら空間を移動していく。速度も、空間との関わりも、手軽さも、あらゆる意味で歩行と自動車との中間的な移動手段、それが自転車という乗り物なのだ。

しかし、自動車、バス、電車、飛行機…様々な乗り物の中で、自転車がなぜいま存在感を増しているのだろうか。人間の「より早く移動したい」という欲望とも合致していないし、そもそも技術的な進化の余地もあまり残っていない…。

それは世界がある方向に移動をはじめているからである。どこに? それは、都市に向かってである。世界に先駆けて高齢化社会に突入した日本でも、若者の一部が地方に向かうという例外はあるにせよ、マジョリティは都市への移動を開始している。都市には病院や教育などの市民サービスの充実があり、何よりも仕事がある。生産者人口がこれから減少し、お金やサービス等、限られたリソースを効率的に活用していくためには、都市に人々が集まる必然性があるのだ。日本以外の国でも、その規模の大小や進行のスピードの遅速はあれど、都市に人口が集中する大きなトレンドは同じだ。

そういったトレンドの中で、多くの市民、そしてEUや世界各国の先進的な都市が、人口が集まった街の中の数キロから数十キロの距離を移動するのに最も適した手段として、いま自転車を選択している。

自動車は、その大きさや環境性能などの理由によって、未来の都市の最も効率のよい移動手段では無いと判断されつつある。都市の移動手段として様々なメリットとデメリットを考慮した場合、自転車が最有力の候補として選択されつつある。

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