No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

ビジネスとして成立するか、重要な時期

──パーソナルモビリティの普及に向けた課題はなんでしょうか。

1つは法規制でしょう。英国ではハンドル型電動車いすが時速12〜3キロまでスピードが出せる。そうすると行動範囲が広がるので、免許返納した高齢者がクルマから乗り換えても十分に役に立つ。日本だと公道走行ができる電動車いすの制限時速が6キロだから、早歩きくらい。クルマの代替えにはなりにくい。

セグウェイ(Segway Inc. から発売されている電動立ち乗り二輪車)は最高時速20kmですが、現在の法律では公道を走れません。公道走行ができる欧米諸国では、警察官がパトロール業務に採用したり、セグウェイツアーによるツーリズムなど一定の成果を上げています。特区認定を受けてセグウェイの公道実験を進めているつくば市の実績を見れば、観光振興、地域活性など十分に有用であると考えられます。

日本では2001年に始まった介護保険制度も影響しています。例えば、ハンドル型電動車いすでいえば、介護保険の施行後に1800〜3000円程度でレンタルできるものになりました。また、2006年には要介護2以上の方にレンタルが制限されたことによって、電動車いすを利用する人の総数が減りました。メーカーにとっては、販売に代わる新しいビジネスモデルの構築が課題となってきています。

高齢化社会が到来して、パーソナルモビリティの未来はバラ色と思われがちです。しかし社会保障費が増大するなか、こうした機器に対する給付はどんどん抑えられていくでしょう。

また、ユーザーが乗りたくなるデザインも少ない。日本で電動車いすというと敬遠したい存在です。ただ適切に使えば、行動範囲も広がってQOL(生活の質)も向上するという調査結果もある。それなのに、使うことが不名誉な道具に成り下がっているのが現状です。

──具体的にどういった戦略がありますか。

どうやって福祉から脱皮していくかです。介護保険など社会保障としての活用に加えて、新しい提案が必要です。

百貨店、空港、観光地などの特定エリアでちょっと乗るといったソリューションを展開するのが、普及に向けたファーストステップだと考えています。観光地をセグウェイで周遊したり、ゆっくりと疲れを気にせず買い物を楽しむショップモビリティなど、さまざまな体験を提供し、新しい使い方のイマジネーションを広げることです。

そもそも"移動"は、どんな速度域であっても、ワクワク感やドキドキ感があるものです。自らの意志で移動するというのは、公共交通では再現できない自己決定をかなえる行為です。

歩くことに固執しすぎたために、「(歩くと)疲れるから外出しない」「自分の歩行速度だと家族に迷惑をかけるから家族旅行を諦める」などの事例もあります。健康のために歩くことは必要ですが、自分のアクティビティを広げるための道具として、パーソナルモビリティを適切に使いこなしていけばいい。

またパーソナルモビリティの多くは歩行空間で活用されます。利用者のマナー向上や周辺住民の理解が必要になるでしょう。

こうしたさまざまな可能性に目を向けながら、地域内でフラットに対話をしていくことも大切です。そのためのワークショップや試乗会など、パーソナルモビリティを考える機会が求められています。

──ユーザー自身の購買欲はどうでしょう。

免許返納で悩んでいる方は非常に関心が高いですね。一方、今の標準的な電動車いすには乗りたくない。走破性、携行性、そしてデザイン性にまだまだ課題があるんです。

介護保険に頼らず、誰でもレンタルできる仕組みも必要でしょう。値が張るものも多いので、自分の使用環境でちゃんと使えるかどうか試してみた方がいいですから。

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