No.007 ”進化するモビリティ”
Topics
マーケット

車載情報システム向けオープンソースプロジェクト
「オートモーティブ・グレード・リナックス」

クルマに搭載されている車載情報システムは年々高機能になっているが、その基盤となるプラットフォームをオープンソースで開発しようというプロジェクトが、「オートモーティブ・グレード・リナックス(AGL)」である。AGLは2012年9月に、非営利組織のThe Linux Foundationが中心となってスタートしたプロジェクトであり、トヨタや日産、ジャガーなどの自動車メーカーおよびインテル、NVIDIA、パナソニック、サムスン、富士通などのIT企業、デンソーやアイシン・エイ・ダブリュなどの自動車部品メーカーが参加している。

AGLの目的は、「顧客ニーズに応えるソフトウェアとハードウェアのリファレンスの提供」であり、2014年6月に、同プロジェクトで開発されたソフトウェアの初版が公開された。これらのソフトウェアは、Linuxベースのプラットフォーム「Tizen IVI」上で動作し、ドライバーに情報を提供するダッシュボード、Google Mapsを利用したカーナビゲーション、Bluetooth経由で利用する電話機能、SNSとの連携機能、音声認識や顔認識機能など、さまざまなコンポーネントが開発されている。

自動車メーカーや自動車部品メーカーは、共通基盤となるAGLを利用することで、高度化する車載情報システムの開発期間を大幅に短縮でき、コスト削減と品質の向上が期待されている。

近い将来交通事故が大きく減少する

このようにアプローチはさまざまだが、IT企業とクルマを代表とするモビリティの関わりは、年々強固なものになっており、IT企業の次なる主戦場というのも、あながち大げさではない。特に、危険と判断したら自動的にハンドルやブレーキを操って事故を回避してくれるような高度な運転支援技術や、究極の夢ともいえる完全自動運転技術は、IT企業が得意とする分野だ。いまIT企業がクルマ業界に積極的に関わるようになったことで、そうした技術の進化のペースが速まっている。このペースなら10年以内に、自動運転機能を搭載したクルマが登場する可能性は高いだろう。また、最近は、高齢者の運転ミスによる事故が増え、社会問題となっているが、運転支援技術や自動運転技術を搭載したクルマが普及すれば、そうした交通事故を大きく減らすことが可能になる。事故が減るということは、自転車の利用者や歩行者にとってもより安全な環境になる。また、プローブカーデータを活用することで、渋滞を極力さけることが可能になり、目的地までの所要時間も短縮できる。IT企業の本格的な参入によって、クルマはより安全で快適な次世代モビリティへと生まれ変わることになるだろう。

Writer

石井 英男(いしい ひでお)

1970年生まれ。東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程卒業。
ライター歴20年。大学在学中より、PC雑誌のレビュー記事や書籍の執筆を開始し、大学院卒業後専業ライターとなる。得意分野は、ノートPCやモバイル機器、PC自作などのハードウェア系記事だが、広くサイエンス全般に関心がある。主に「週刊アスキー」や「ASCII.jp」、「PC Watch」などで記事を書いており、書籍やムックは共著を中心に十数冊。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.