No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載04 次世代UI(ユーザーインターフェース)
Series Report

使いやすさと楽しさを備えたマック

アップルのコンピュータ「マッキントッシュ」には、最初からマウスとプルダウンメニュー、サウンド機能が搭載されていた。マックの原型となったAltoを開発したアラン・ケイ博士は2001年に来日した時のインタビューで、「私の目指しているものはコンピュータではなく、教育を目的としたメディアである」と話していた(参考資料1*1)。「メディアには楽しさがなくてはならない。自分は音楽大好き人間だから、音楽も付け加えた」とまで語っていた。しかし、1973年に博士の開発したコンピュータAltoをゼロックス社は、商品化するという決断を下さなかった。その後、二人のスティーブはAltoと似たようなコンピュータを作り、それを商品化するためアップル社を設立したのである。

アップルのマックには、電源ボタンを押すと、立ち上がりの状況に合わせて短いサウンドが流れていた。この音に、ユーザーはワクワクするような楽しさを感じた。これもUIの一種といえるだろう。今から思えば、これはむしろユーザーエクスペリエンスというべきなのかもしれない。また、MS-DOS(Windows以前にマイクロソフトが開発・販売していたOS)とは違ってコマンド入力ではないため、コマンドを覚えておく必要がなく、マックは使いやすかった。

ちなみに1980年代にマック以外のパソコンはIBM互換機に集約されたが、コマンド入力のMS-DOS機のパソコンの開発が進められ、Windows 95の登場までプルダウンメニューやマウスは開発されず、UIの使い勝手は悪かった。

タイル画面のWindows 8の図
[図2] タイル画面のWindows 8

2012年にリリースされた、Windows 8(図2)ではタイル方式のメニューが登場し、さらにタッチスクリーン対応のWindows 10へと進化している。タイル方式のモデルとなったのはiPhoneである。iPhoneのアプリのアイコンを並べた初期画面がベースになっている。つまりUIをリードするコンピュータは、これまでのパソコンからスマホへと変わったのである。

人間と同じ操作を画面上で体感

iPhoneの独自性は、初期画面におけるアプリのアイコン(図3)だけではない。UIを進化させ、快適さや楽しさを感じるユーザーエクスペリエンス(UX)と呼ばれる新しい体験(行為)を生み出したことだ。本のページをめくる動作で次の写真や画像を呼び出し、2本指でピンチオフ、ピンチオン(指を開いたり閉じたりする動き)することで画像の拡大・縮小を可能にしている。さらに画面を2回タップすることで拡大・縮小でき、アイコンを長押しすると不要なアプリを消去できる。こうした人間がこれまで行ってきたような動作を取り込んだ操作性が実現されたことで、「ユーザーエクスペリエンス」という言葉が使われるようになったのである。

iPhone 6の初期画面 アプリのアイコンが並んでいるの図
[図3] iPhone 6の初期画面 アプリのアイコンが並んでいる

UXは、今や、スマートフォンやIT機器の一番の「売り」にもなっている。スマホなどコンピュータの頭脳となるプロセッサチップは、最小寸法が小さければ小さいほど性能が上がり、消費電力が下がるため、これまではその微細化が進められてきた。しかし、あるアプリケーションプロセッサを発表する記者会見の席上、「今は性能を争う時代からUXを争う時代になったので、最小寸法は問題ではありません」という発言が、開発側から出たほどである。もはや性能を表す処理能力や計算速度は二の次で、最も重要な機能はUXのようだ。

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