No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

ビーコンの活用で、地元の商店街が
新しい価値を持つようになる

2016.02.02

市川 博康 (スマートリンクス 開発責任者 まちなかBeacon普及協議会)

街の中を行き交う人々に、何らかの気付きを与える手段として、ビーコンの利用に注目が集まっている。ビーコン端末から送られる通知をアプリと連動させる仕組み「iBeacon」機能を、Apple社が自社OS「iOS7」に搭載したことで、利用の機運が一気に加速した。広域内の多くの人に気付きを与える手段では、携帯電話が有効だ。しかし、狭い地域内の人に、その地域に密着した通知を届けるときには、ビーコンが適している。「まっちとくポン!」と呼ぶ、ホームページとスマホアプリとビーコンを組み合わせた、商店街や観光地向けの誘客、集客、販促向けのサービスシステムを提供するスマートリンク 開発責任者の市川 博康氏に、ビーコンを使ったサービスの可能性、現在、高円寺と荻窪の商店街と共同で取り組む実証実験の狙いと成果について聞いた。

(インタビュー・文/伊藤 元昭)

地元の商店街が"のろし"を上げた

──ビーコンとは、どのようなことができる仕組みなのでしょうか。

ビーコンとは、"のろし"という意味です。離れた場所にいる多くの人に、何らかの気付きを与える手段であることから、こう名付けられています。今、私たちがビーコンと呼んでいるのは、誰もが持ち歩くようになったスマートフォンに、何らかの気付きを電波で与える、小さな電波発信機のことを指しています。昔、"のろし"を見た人が、遠くで起こった出来事を察して仕事を始めたり、兵隊を動かしたりしたように、電波を受け取った人やモノが、何かアクションするためのキッカケを与えるための仕掛けです。

今私たちは、高円寺*1や荻窪*2の商店街の方々と共同で、商店街のお客様に向けて各店舗が"のろし"を上げることで、お客様が喜び、また利用したいと思ってもらうサービスの企画と、それを実行するための仕組み作りのお手伝いをしています。いわば、かしこい"客寄せ"や"看板"を、ビーコンを使って作ることができないかという取り組みです。

──仕組みは、どのようなものなのでしょうか。

ビーコンは、例えば個々の自動車のカーナビに、「道路交通情報通信システム(VICS)」からの渋滞情報を伝えるための仕組みとしても使われています。わたしたちは、Apple社がBLE(Bluetooth Low Energy)技術を用いて開発した「iBeacon」という機能を利用して、スマホと連携したサービスを提供することに注力した仕組み作りを行っています(図1)。スマホがビーコンから通知を受け取ったら、アプリがその通知内容に応じて動く機能です。

iBeaconの概略の図
[図1] iBeaconの概略

ただしビーコンでは、それほど詳細な情報を直接伝送するわけではありません。例えば、商店街の商店でビーコンを利用する場合には、提供するサービスを認識する番号、情報を提供する商店の通し番号を通知するだけです。スマホの中にあらかじめ各商店街のサービス専用のアプリを入れておき、通知されたサービス番号や店番号に応じて、ネット上のサーバーからより詳細な情報をダウンロードする仕組みです。ビーコンは、あくまでも店舗ごとに決められた色の"のろし"を上げるだけで、情報収集はスマホが行うのです。

iBeaconは、「iOS7」以降のOSを搭載しているスマホやタブレット端末で利用できますから、今使われているほとんどの機種で利用できると思います。

 

──Android系のスマホでは使えないのですか。

利用できます。「Android4.3」以降では、BLE対応機器を監視する受信機能を備えており、iBeacon対応のビーコンをBLE対応のBluetooth機器の1つとして、利用できます。iPhoneとAndroidの両方で利用できるため、ほぼすべてのスマホで利用できると言えます。

さらにAndroidの開発元であるGoogle社は、「Eddystone」というビーコンを使った機能の規格を発表しています(図2)。iBeaconはビーコンからサービスや発信元の認識番号を送る技術ですが、Eddystoneには"のろし"としてURLを通知する機能が用意されています。この技術のメリットは、受信側のデバイスに専用アプリを用意する必要がない点です。ホームページが用意されていれば、お店にビーコンを置くだけでよいのです。スマホ内のブラウザ、具体的には「Google Chrome」で通知されたURLのサイトから情報を持ってくることができます。

ただし、欠点もあります。標準的なブラウザの利用を前提としているため、発信元からお客様へのプッシュ型サービス(提供者から利用者に自動的に情報などを提供するサービス)ができないことです。情報を欲しくない場所に置かれたビーコンもEddystoneに対応さえしていれば、どんどん情報が送られてきてしまうからです。そのため、Google社は、プッシュ型サービスには非対応にしています。

iBeaconが地域に密着した有能な客寄せだとすると、Edystoneは大きな看板だと言えるかもしれません。それぞれの特徴を生かした使い分けをすることで、ビーコンの利用の幅が広がると考えています。

iBeaconとEddystoneの比較の図
[図2] iBeaconとEddystoneの比較

[ 脚注 ]

*1
高円寺: 高円寺は東京都杉並区にある地区名。新宿から至近のJR東日本の中央線沿線の高円寺駅を中心として、古着屋や古本屋など個人商店が集まる商店街があり、一人暮らしの若者に人気の街。商店街を練り歩く阿波踊りが有名。「高円寺びっくり大道芸」「東京高円寺阿波おどり」「高円寺フェス」「高円寺演芸まつり」といった、多くの人を集めるイベントが年間を通して開催されることでも有名。
*2
荻窪: 荻窪は東京都杉並区にある地区名。JR東日本の中央線、地下鉄丸の内線の始発駅である荻窪駅があり、便利な商業施設が多いといった魅力で、子育て世代に人気の街。また、古くから住宅地として開発されたことから、お屋敷町としての側面もある。ラーメン屋の激戦地としても有名。

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