No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

2020年、第5世代のモバイル通信目指す

2016.03.31

中村 武宏 (NTTドコモ先進技術研究所5G推進室 室長 主席研究員)

いわゆる"第5世代(Fifth Generation=5G)"のモバイル通信の実験が始まった。アナログ方式だった第1世代からデジタル方式へと変わった第2世代、さらに高速データ速度384kbpsを実現した第3世代(3G)、いま主流のLTEは、第4世代(4G)と呼ばれている。そして今、第5世代の研究がはじまっている。5G(ファイブジー)は10Gbps以上を目指すという。なぜ、これほどまでのデータ速度が必要なのか。これによって私たちの世界はどう変わるのか? 国内でいち早く5Gの研究に取り組んできたNTTドコモの先進技術研究所5G推進室・室長の中村武宏氏に、5G研究の現状を伺った。

(インタビュー・文/津田 健二)

──第5世代のモバイル通信、すなわち5Gはこれまで最新のLTE(long term evolution)と比べて何が違うのでしょうか?これによって何ができるようになるのでしょうか?

まず5Gでは、過去のものと比べて新しいシステムを作ることが重要であり、その主な目的は高速・大容量です。これまでのユーザーの要望やニーズから、モバイル通信をどんどん大容量化していかないと伝送できる通信量が制限されてしまうことがわかってきています。これが第1の要求です。ユーザーは、よりクオリティの高いコンテンツがサクサク動くことを要求していますから、これに応えることが5Gの目的となります。

また、昨今はいろいろなユースケースが出てきて、端末数が激増しています。いわゆるIoT(インターネットにつながるいろいろな物の通信)もその一因です。そうすると、様々な端末に対応できるフレキシブルな通信が求められるようになります。

さらに究極の使い道かもしれませんが、遅延のリスクを最大限排除しなければならないという要求もあります。例えば、自動運転で、クルマがネットを介してデータセンターや道路などとつながったとき、データ通信の遅延が大きければ衝突回避前にぶつかってしまいます。これではダメです。このようなユースケース*1では、5Gで許される遅延は無線だけで1ms(1/1000秒)以下です。

5Gはオリンピックに備える技術

──5Gではダウンリンク(基地局から端末への送信)速度を10Gbps以上にすることを目標にしています。4Gでも1Gbps*2の通信速度の実現は可能といわれていましたが、現状では、まだこの速度のサービスすら実現していません。さらにその10倍に高速化する意味はあるのでしょうか?

その質問はいつの世代でも言われます。例えば3G通信の時は最大2Mbps*3でしたが、そんな速い通信を誰が使うのかと言われました。あのときは2Mbpsでもすごく速いと言われましたが、今や2Mbpsは当たり前、LTEの時も同様で、100Mbpsを何に使うのかと言われました。しかし、今では100Mbpsを超える端末が出てきています。結局、これの繰り返しなのです。

私たちは、先行して良いシステムを提供していかなければなりません。市場ニーズというものは、結局その後、必ず付いてくるのです。ただ、これからは私たちもシステムに加えて新しいサービスを生み出すことが重要になってきています。

しかも2020年は東京オリンピックの年です。オリンピックの競技施設では、2~3万人の観客が一斉につなげることになります。そうなると今のLTEでは回線がパンクしてしまいます。だからこそ、5Gが必要になるのです。また、スタジアムだと、スマホで写真を撮って送るというケースが想定されますので、データをアップロードする上り回線のデータレート(データ転送率)も増えると思います。それも考える必要があります。

また4K/8KテレビやYouTubeのような動画コンテンツが通信データの大半を占めています。それがどんどんエスカレートしていき、2020年の東京オリンピックへとつながっていくことも想定しています。

 

──新しい高速のデータレートの通信が登場すると何か新しいサービスも提供されるのですか。

検討はしています。ただ、今はドコモ1社で何かサービスを考える時代ではなく、いろいろな企業がいろいろなサービスを生み出していますので、弊社のスローガンである「協創」、すなわちいろんな分野の企業と協力して創りだすことで新たなサービスが生まれると思っています。これが新たな収益源になります。そしてより良い社会にしていきます。

世界と協創していく

──フィンランドのノキアネットワークスや、スウェーデンのエリクソンなどと協力して一緒に5Gの実験をしておられますが、それも協創の一環ですね。

そうですね。5Gではより一層、様々な分野でいろいろな周波数の実験を追求しなければなりませんから、多くの企業と協力させて頂いています。

──今までNTTドコモのような通信オペレータがトップにあって、その下に通信機器企業があるという垂直型の組織があったと思いますが、それが崩れたということでしょうか?

いまだ研究段階ということもあり、できるだけ効率的に研究を進めるために、一緒に協力して頂けそうな企業に声をかけ、それぞれの企業のご提案も考慮し、我々の考えと合致したところと協力させていただくというスタイルです。

[ 脚注 ]

*1
ユースケース: システム開発などにおいて、システムが外部に提供する機能のこと。利用者や外部の別のシステムなどが、そのシステムを使ってできる機能を意味する。
*2
Gbps: データ伝送速度の単位の一つで、1秒間に何十億万ビット(何ギガビット)のデータを送れるかを表したもの。毎秒10億ビット(1ギガビット)のデータを伝送できるのが1Gbpsである。
*3
Mbps: データ伝送速度の単位の一つで、1秒間に何百万ビット(何メガビット)のデータを送れるかを表したもの。毎秒100万ビット(1メガビット)のデータを伝送できるのが1Mbpsである。

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