No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載03 医療・ヘルスケアの電子化
Series Report

第1回
なぜ今、医療・ヘルスケアの電子化が必要か

 

  • 2016.02.02
  • 文/津田 建二

医療・ヘルスケアビジネスで電子化・IT化が始まっている。自宅にいながら血圧や体温、心拍数などのデータを測定し、それを自動的に医師の元に送り、病気の早期発見・早期治療につなげていく。健康寿命を伸ばすことがその目的だ。この手法は、高齢化、病院のベッド数減少、医療費高騰などの問題を一気に解決する。この連載第1回では、その背景について解説し、第2回では世界での実例、第3回では実用化する場合の問題について触れていく。

高齢化社会の到来

定期的に病院へ行かなくても、毎日の健康状態を医師に診てもらえるようになる日は近い。病院に行かずに家庭で血圧や心拍数、体温などのデータをとり、それを医師が把握できれば、早期発見・早期治療につながる。特に、病院に行きたくても、そもそも病院がなく、いざというときは医師に来てもらうしかないような過疎地などでは、早期発見・早期治療の重要性は高い。こうした地域こそ医療の電子化が強く求められている。

65歳以上の高齢者が増えるスピードは日本が世界で最も速い(図1)。高齢者人口は増え続け、これからも増えていく(図1)。2013年10月1日時点の日本の人口は1億2730万人。この内、65歳以上の高齢者の数は3190万人、高齢化率は実に25.1%にも達した。参考資料1*1に示す内閣府の予想では、2030年の高齢化率は39.9%にも達し、2.5人に1人が65歳以上となる。今や日本は世界で最も高齢化の進んだ国となったのだ。

日本の高齢化するスピードは世界で最も速いの図
[図1] 日本の高齢化するスピードは世界で最も速い
出典:厚生労働省

15~16年前、国内の病院では、高齢者がたむろしており、まるでサークル活動のように高齢者が集まって話に花を咲かせていた。「近頃、A爺さんは病院に来ていないが、病気にでもなっているのではないか?」といった笑い話さえあった。高齢者の医療費が無料だったからだ。しかし毎日、病院に来て無料で診察を受け、薬をもらっていては、国の保険・医療費が持たない。その結果、2003年から健康保険の加入者は3割負担になった。70才以上の高齢者は1割負担だったが、2015年からは2割になり、75歳以上も1割負担となった。

ウェアラブル端末の登場

病院では、日々、入院患者の血圧、体温、心拍数などのデータを、4時間あるいは6時間おきに看護師と医師がチェックしている。もしこういったデータを自動的に病院側でモニターできれば、医師と看護師の労力を削減できる。米国では実際の病院で、入院患者にヘルスケアモニターを装着した実験例があり、効力を発揮している。(詳細は連載第2回で紹介予定)

FitBit(左)とApple Watch(右)の活動量計の図
[図2] FitBit(左)とApple Watch(右)の活動量計

こうした状況の中、昨年登場したApple WatchやFitBitなどのウェアラブル端末(図2)は、ヘルスケアモニターの原型になる可能性がある。ただし、医療機器としてまだ認められていないため、体のデータを取得する機能はない。今のところ、時計や歩数や走行距離、消費カロリーなどを表示する「活動量計」という位置づけにとどまっている。しかし、こういったヘルスケア端末には、高齢化、医療費高騰などの問題を一挙に解決する期待が寄せられている。

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