No.009 特集:日本の宇宙開発
連載02 生活と社会活動を一変させる、センサ革命
Series Report

動きを検知して、「ユーザーの意図を察するセンサ」

まず、iPhoneをはじめとしたスマートフォン。メールのやり取りやウエブの閲覧、音楽鑑賞、ゲーム、写真撮影やアプリの利用など、ユーザーの指先の動きだけで、さまざまな機能を操ることができる。これは、マルチタッチセンサで検知した指の動きから、ユーザーの操作意図を察するユーザーインターフェースがあって初めて実現する操作性である。

スマートフォンは2014年に世界で12億台販売された。高い操作性を実現するユーザーインターフェースがなければ、これほど多くの人に利用されることはなかっただろう。携帯型で多くの機能を操作する機器として、テレビやエアコンなどのリモコンがある。しかし、煩雑なボタンによって、全く機能を使いこなしていない人は多いのではないか。スマートフォンにあってリモコンになかったものが、「ユーザーの意図を察するセンサ」なのだ。同様にセンサを活用して新しい操作性を機器に付け加えた例として、加速度センサを活用した任天堂の「Wii」や、イメージセンサを活用したMicrosoft社の「Kinect」といった家庭用ゲーム機がある。

「ユーザーの意図を察するセンサ」を活用したユーザーインターフェースは、近年の電子機器開発を語るうえで欠かせない潮流になっている。このようなユーザーインターフェースを持つ技術や概念は、ユーザーエクスペリエンスと呼ばれている。

「量を測るセンサ」から「状態や状況を測るセンサ」へ

次の例は、オムロンの笑顔センサ「スマイルスキャン」。人の笑顔の度合いを数値化して示す技術である。デジタルカメラに搭載して、シャッターチャンスを逃さず撮影するため、デパートなどで接客訓練するために使われている。イメージセンサで取り込んだ映像の中から人の顔を認識し、その人がどのくらい微笑んでいるのかを解釈する。イメージセンサという「量を測るセンサ」から取り込んだ映像データに、認識・分析と解釈という情報処理を施すことで、笑顔センサという「状態や状況を測るセンサ」を作り上げている(図2)。

データに認識・分析、解釈を加えて、より価値の高いセンサを作るの図
[図2] データに認識・分析、解釈を加えて、より価値の高いセンサを作る

同様の「状態や状況を測るセンサ」の応用で、近年特に大きな注目を集めているのが、自動車の自動ブレーキなど高度運転支援システム(ADAS)である。レーダーや超音波ソナー、イメージセンサなど、さまざまなセンサから取り込んだデータを認識・分析、解釈して歩行者や障害物の位置や車間距離を検知。必要に応じてブレーキを掛けたり、ハンドルを操作したりする。

機器の五感から社会システムの五感へ

「人の意図を察するセンサ」、「状態や状況を測るセンサ」は、1台の電子機器の価値を上げるだけではなく、もっと大規模な社会システムの中に組み入れて利用されるようになっている。この動きが、近未来の人々の生活や社会活動の姿を一変させるインパクトを生みつつある。

ICT(情報通信技術)の分野では、「ビッグデータ」「IoT(internet of things)」といったキーワードに沿って、新しい情報システムの創出が進められている。こうした情報システムの中に、「人の意図を察するセンサ」、「状態や状況を測るセンサ」を組み込み、エネルギー、交通、流通、医療などをさまざまな分野の社会問題を解決する試みが始まっている。

米Google社は、仮想空間内の膨大な情報を整理することで、新しい価値を持った斬新なサービスを作り出した。ウエブの閲覧履歴やメールに書かれている内容など、仮想空間でのユーザーの行動を分析して、その人の興味や価値観に合った商品の広告を表示するサービスだ。インターネットの利用者の82%が利用すると言われる同社サービスの利用者数の多さと、莫大な収益を上げていることで裏付けされたその効果の大きさが、仮想空間に蓄積されたデータを有効活用する威力を雄弁に物語っている。ビッグデータ、IoTに、センサを融合させて出来上がる新しい情報システムは、こうした仮想空間で起きた革新を、現実の空間にまで拡張するものだ。

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