人手を介さずに現実世界と仮想空間をつなぐ
これまで、人々の生活や社会活動の場である現実世界と、情報を高速かつ自在に処理できる仮想空間は、人手を介してつながっていた。例えば、医療機関で使っている情報処理システムは、医師による患者の診察結果や看護師による状況報告を人の手でコンピューターに入力し、これを仮想空間で管理していた。情報を利用する場合も、必要に応じて人手で取り出し、最適な治療を提供していくために利用していた。エネルギーや物流など他の分野で使われている社会システムも、多くの場合、人の手を介して現実世界と仮想空間がむすばれていた。
しかし今、人が持ち歩くスマートフォンやウエアラブル機器、そして家や街の中にある機器や設備に、さまざまなセンサが数多く組み込まれるようになってきた。こうしたセンサから取り込んだデータを1カ所に集めビッグデータにして、それを認識・分析、解釈すれば、現実世界の様子を直接、仮想空間に写し取ることができるようになったのである。センサを搭載し、ネットに接続した機器や設備が増えれば増えるほど、データは潤沢になり、現実世界の姿をありのままに写し取ることができるようになる。
こうして、現実世界と仮想空間を、直接結びつけることによって、人々の生活や社会活動の中で生じる数々の問題に、社会システムが自律的に対処できるようになる。人間の感覚では把握しきれず、人間の知能では補足しきれないほど多くの出来事に、ヒューマンエラーを介在させずに迅速に対処できるようになるのだ。
社会の動きから学び、社会を動かすシステム
経済産業省は、仮想空間(Cyber Space)と現実世界(Physical Space)を直接つなぐことを前提とした「Cyber Physical System(CPS)」と呼ぶ社会システムの構築に向け、技術開発、法制度の整備などを進める検討を始めている(図3、図4)。
CPSとは、おおよそ次のようなシステムだ。まず、家庭や街の中、工場や公共施設などに配置した数多くのセンサで人やモノの動き、その場所の状態や状況を検知。次に、これを集めてビッグデータにして、現実世界の様子を認識・分析、解釈する。そして、抱えている社会問題を解決するために、活動をもっと円滑にし、現実世界の中にある機器や設備を制御するデータをフィードバックする。
こうした情報処理の処理中枢には、人工知能の利用が想定されている。人工知能の進化によって、より正確に現実世界の状況を把握できるようになり、より的確に現実世界にフィードバックを掛けることができるようになる。人工知能は、経験を積めば積むほど処理が的確になる。こうした「将来の社会システムの五感」となるのが、これからのセンサの役割なのだ。
![]() |
![]() |