No.009 特集:日本の宇宙開発
連載03 実用期を迎えるフレキシブルエレクトロニクス
Series Report

より広い応用に使えるインク

フレキシブル/プリンテッド・エレクトロニクスが、センサや配線に注力するようになってきたことで、配線用インクのテクノロジーには幅広い用途へ応用・適用できる柔軟性が求められてきている。代表的なインクである「銀ペースト」は有機溶媒に溶かす銀の粒子を様々な大きさで制御する技術開発がすすんでいる。ナノパーティクルと言われる直径200nm(0.2μm)以下(髪の毛が約60~80μmの太さであるので、その1/300ないし1/400以下になる)からフレークと呼ばれる数μmサイズの大きさまで自由に制御する技術だ。

銀ペーストに加え、同様の電気伝導率を持つ銅ペーストも使われるようになっている。銅の方が価格は安いが、酸化しやすいため使いにくく、これまでは銀ペーストが主に使われてきた。

太陽電池(ソーラーセル)やタッチパネル等の配線には透明電極ITO(インジウム錫酸化物)が使われているが、貴金属のインジウムを使わずもっと安価な材料に変える動きもある。例えば、銀ペーストはITOよりも安い。透明電極として細長い針状の銀を配線に使ったり、あるいは細いメッシュ状の電極パターンを作りその溝に銀を流し込む方法(図8)もある。

六角形のハチの巣型の細い導電体による透明電極の図
[図8] 六角形のハチの巣型の細い導電体による透明電極
出典:IDTechEx

また、フレキシブルには限らないが、3次元形状の物体にじかに配線するという動きもある。例えば、スマートフォンのパッケージ(筐体)内部にアンテナ線をじかにインクで描くこともすすめられている(図9)。

電子製品の形状に沿ってそのまま配線するの図
[図9] 電子製品の形状に沿ってそのまま配線する
出典:IDTechEx

衣服に埋め込むeテキスタイル

ウェアラブルデバイスへの応用を想定して、伸縮するインクや配線をつくる技術も現れている。これはeテキスタイルと呼ばれ、衣服や織物に配線もチップも埋め込み、伸縮配線などと組み合わせ、文字通り衣服そのものがウェアラブルデバイスとなる。アスリートの心拍数や汗の量、体温、歩数、走行速度などを多数のセンサで測定し、最適な運動量を見出す試みだ。

また、eテキスタイルでは、衣服を作るための糸そのものに導電性を持たせようとする動きもある。導電性のある細い金属や光ファイバプラスチックと絶縁体である一般の繊維とを組み合わせた編み糸を英ノッチンガム大学が開発している。この糸で、布を織ると文字通りウェアラブルデバイスが作りやすくなる。また従来の綿や絹、ポリエステルなどの繊維を銀でコーティングすることによりフレキシブルな糸を作る試みも英国の国立物理研究所が行っている。

これらは新たに編み糸を開発しなければならないが、RFIDチップ(無線電波のエネルギーを利用して回路を動かしIDを認識させるICチップ)を編み糸に取り付けて服を作るベンチャー企業もある。フランスのグルノーブルにある国立の研究所ミナテック技術センターにあるプリモ1D社だ(図10)。従来のラベルにRFIDチップを取り付けるのではなく、編み糸の一部に組み込んでしまうため、衣服のどこにでも取り付けることができる。

編み糸にRFIDチップを取り付け、それで衣服を縫う。チップを衣服のどこにでも着けることができる。の図
[図10] 編み糸にRFIDチップを取り付け、それで衣服を縫う。チップを衣服のどこにでも着けることができる。
出典:Primo1D、IDTechEx

以上、見てきたように、フレキシブルエレクトロニクスは、センサと配線に柔らかい素材を使い実用化しやすさを求めて開発が進んでいる。信号処理ICのようにシリコンが得意なことに無理にプラスチックやポリマーなどを使うことはもはやしなくなった。RFIDのように電池を持たなくても動作するICや、配線で編み糸に組み入れられる本来のフレキシブルなプリンテッドエレクトロニクスが実用化しやすい。2020年の本格的な立ち上がりが期待されている。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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