No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

確実に情報を伝えるために克服すべき問題

自動運転に無線通信技術を応用するためには、解決しておくべき課題がいくつかある。

まず、路車間通信や車々間通信を行うためには、無線通信技術の規格以外にも、異なる車両間、路車間で情報を相互にやり取りするための共通の言葉を決めておく必要がある。この共通の言葉を「メッセージセット」と呼ぶ。クルマを識別するIDや走行している位置、車両状態、周囲の状況などの表現形式を定めておくのだ。現在メッセージセットは、国や地域ごとに規格が異なっているが、将来的に共通化が望まれている。

また、自動運転車を実際に市場投入する前に、異なるメーカーの車載機器や路側機器の製品同士が、確実に相互接続できること(相互接続性:インターオペラビリティ)を確認しておく必要もある。パソコンなどで使う無線LANでは、同じ技術標準に沿った機器でも、相性次第でつながりにくくなる組み合わせがある。こうした事態を避けるため、製品を市場に出す前に試験して、相互接続性を認定する制度や試験環境を整備することが必須になる。

ハッカーによる乗っ取り成功の衝撃

車々間通信に関しては、普及の初期段階では効果を実感しにくいのが難点になる。ほとんどのクルマに通信機が載って初めて真価を発揮するからだ。本田技研工業は、この問題の解決策として、ユーザーが車内に持ち込むスマホを介して車々間通信するアイデアを提示している。信頼性と通信範囲には課題が残るものの、使い方次第では、有効な解になり得る。同社は、携帯電話用の半導体チップのメーカーであるQualcomm社と共同で、IEEE802.11pに対応した携帯電話用チップを開発済みである。このチップを搭載した携帯電話を歩行者が持っていれば、見通しの悪い場所で、出会い頭の事故に巻き込まれない。

そして、クルマを道路インフラや他車と無線接続する場合、必ず確立しておくべき技術がある。セキュリティ技術である。パソコンやスマートフォンで起きているハッキングやなりすましがクルマでも起きる可能性があるのだ。

2013年、著名なハッカーらがトヨタ自動車の「プリウス」とFord Motor社の「Escape」をハッキングする方法を発見し、注意喚起のためにその方法を公開。自動車業界を震撼させた。プリウスについては、時速約130kmで走行中に急ブレーキをかけたり、ドライバーの意思とは関係なくハンドルを動かしたりしたという。セキュリティ技術を開発・提供する多くの半導体メーカーやソフトベンダーが、こうした事態を避ける数々の策を提案している。

自動車メーカー間での地図争奪戦が勃発

自動運転では、車載センサによる認識能力に加えて、道路の構造を把握するための高精度な地図情報が必須になる。車線や勾配などの情報はもちろんのこと、コンピュータ内でクルマの動きを決定するための3次元モデルで表現された地図が求められている。

カーナビ用の地図を供給している企業として、日本ではゼンリンとインクリメントPが、欧米ではHERE社とTomTom社が有名である。ただし、現状のカーナビ用地図では、自動運転用としては情報が不足している。このため、地図ベンダー各社は、より詳細な3次元モデルで表現した地図の作成を急いでいる。

欧米では、地形や構造物を3次元の点群データで表現した地図を、自動運転で標準的に使おうとしている。例えばHERE社は、高精度の3次元地図データ作成技術を持つEarthmine社を買収。そこで得た技術を用いた200~250台の測量車両で「HD Map」と呼ぶ独自の3次元地図を作成している。測量車両には、Google CarのLIDARのようなレーダーを搭載し、周辺を測量しながら走行する。さらにHEAR社はパイオニアと提携し、レーダーに同社が開発した走行空間センサ「3D-LiDAR」を利用して、より精度の高い地図を作成する予定である(図5)。パイオニアは、子会社であるインクリメントPの地図作成にも同じ技術を使う。

の図
[図5] パイオニアの走行空間センサ「3D-LiDAR」で収集した地図データ
出典:パイオニアのニュースリリース

HERE社は、将来的には、ユーザーのクルマに搭載したセンサで検知した情報をクラウド上に吸い上げ、これをHD Mapの改善に活用する構想も持っている。スリップしやすい道や急ブレーキをかけがちな交差点などを解析し、多くのクルマで共有利用する計画である。

近年、自動運転実現のカギを握るコンテンツである地図の獲得を巡って、自動車メーカーやティア1(自動車メーカに直接部品を供給する企業。その企業にその部品を構成する部品を供給する企業はティア2。)企業の間で地図ベンダーの囲い込みが激しくなってきている。HERE社は、元々ティア1企業であるContinental社と提携していたが、その後BMW社、Daimler社、Audi社が買収し、自動車メーカーの傘下に入った。TomTom社は、ティア1企業であるBosch社と提携している。

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