No.007 ”進化するモビリティ”
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交通インフラ・交通システム

ITの進化によって可能になったカーシェアリング

しかし、上記のようなLRTやエコライド等の鉄道型の公共交通システムを導入するためには、従来の鉄道に比べて安いとは言え、数十億円〜百億円単位の建設コストがかかる。費用対効果や用地買収について住民の合意形成が不可欠な公共事業のため、導入にはカネと時間がどうしても必要になるのだ。そうした中、近年急速に進んでいるのがITによる交通リソースの有効活用だ。

その端的な例が、複数人で自動車を共有するカーシェアリング。営業所で貸し出し手続きを行うレンタカーと異なり、カーシェアリングは基本的に無人のカーステーションで365日24時間の貸し出し手続きが可能、分単位で利用したい時間だけ使える。有料駐車場の事業者やマンション管理組合などが運営しているパターンが多い。

カーシェアリングの先駆けとなったZipcarは、スマートフォンアプリから周辺にあるカーステーションを検索・予約するなど、徹底的なIT活用によってサービスの無人化、低コスト化を実現し世界的にブレークした。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の調査によると、2014年1月時点でカーステーションの数は7,568カ所(前年比34%増)、車両台数は12,373台(同40%増)、会員数は465,280人(同61%増)と、日本国内でもカーシェアリング市場は急速な勢いで伸びている。

さらに2014年9月からは、ワンウェイ方式、いわゆる乗り捨て可能なカーシェアリングサービスがオリックス自動車などによって開始された。もちろん「乗り捨て」とはいっても事業者のカーステーションを使うわけだが、行きは自動車、帰りは電車といった利用方法が可能になる。

カーシェアリングは専用のカーステーションを使うため、EV(電気自動車)との相性もよい。EVの充電機能をカーステーションに持たせることができるからだ。日産はマンション向けにEVを使ったカーシェアリング事業を拡大しており、オリックス自動車のワンウェイ方式カーシェアリングはベンツのEVを採用している。他にも、カーシェアリングを前提とした小型EVの開発も進んでいる。日産が横浜で行っている「チョイモビ ヨコハマ」は、1〜2人乗りのEVを使ったカーシェアリングの実証実験だ。横浜市内には55箇所のカーステーションがあり、これらのステーションでは自由に乗り捨てすることが可能だ。

トヨタ自動車が愛知県豊田市が実証実験中の都市交通システム「Ha:mo(ハーモ)」でも、小型EVのカーシェアリングサービス「Ha:mo RIDE(ハーモ・ライド)」が大きな役割を果たしている。Ha:moで実験中のスマートフォン用アプリで、経路探索結果のルート上にカーステーションがあると、Ha:mo RIDEの予約ができる仕組みになっている。

海外では、自転車シェアリングの成功事例も増えてきた。代表例としてはパリの「Velib」、ニューヨークの「CitiBike」、台湾の「YouBike」などがあり、いずれも任意のステーションに返却できるワンウェイ方式だ。これらのサービスではクレジットカードによる個人認証を導入することでステーションの無人化を実現している。日本でも、ドコモが札幌や横浜で、GPSや通信モジュールを活用した自転車シェアリングを実験中である。ただ、自転車シェアリングはカーシェアリングよりも事業化は難しい。利用料金をあまり高く設定できない一方で、利便性を高めるためにステーションを増やそうとすると投資がかさむ。また、駅前など利用客の多いステーションと少ないステーションの間でニーズをうまく調整する必要もある。

そのため、自転車シェアリングを成功させるためには、自治体や企業の垣根を越えて大規模に展開する必要があるといわれている。東京都では2020年の東京オリンピックに向けて、駐輪場の整備や自転車レーンの設置、自転車シェアリングを促進するための規制緩和を打ち出しており、今後の展開に期待がかかる。

トヨタの「Ha:mo RIDE」で利用される1人乗りEVの「TOYOTA i-ROAD」コンセプトモデルの写真
[写真] トヨタの「Ha:mo RIDE」で利用される1人乗りEVの「TOYOTA i-ROAD」コンセプトモデル。

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