No.007 ”進化するモビリティ”
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交通インフラ・交通システム

都市交通の新展開

 

  • 2014.10.14
  • 文/山路 達也

都市の交通需要に対応するためのソリューションとしては、これまでLRT(次世代型路面電車)やモノレールなどが提案されてきた。しかし、少子高齢化で人口が減少する中、こうした大型の都市交通インフラを導入・整備することは、以前に増して難しくなってきている。そうした中で、いま、注目を集めているのがITによる交通リソースの有効活用だ。国内外の事例をもとに、ITを活用した最新の交通サービス・システムを紹介する。

従来型鉄道よりも低コストに建設できるLRT

日本の都市交通の形が今、大きく変わりつつある。鉄道網、バス網の発達した都市部と、自動車中心の都市郊外、地方という構造がこれまでの交通のあり方だったが、少子高齢化によって見直しを迫られている。人口増加と経済発展によって宅地需要が旺盛だった高度経済成長期に拡大・発展した都市は、人口減の時代に重荷になってしまうのだ。例えば、郊外で1人暮らししている高齢者は、自分で自動車を運転して買い物や通院するのが困難だが、かといって利用者が減っていく地域で鉄道網やバス網を維持するのはコスト的に厳しい。

こうした状況を受けて、2000年頃からコンパクトシティに関する議論が盛んになってきた。病院を始めとするサービス施設を特定の地域に集約して、公共交通で行き来しやすくする、空洞化している中心市街地を活性化させる、といったことがコンパクトシティの大まかな方向性と考えられている。

コンパクトシティにおける公共交通で大きな注目を集めたのは、2006年に開業した富山市のLRT事業、富山ライトレールだ。LRTとはLight Rail Transitの略で、日本の場合は次世代型の路面電車を指す(欧米などでは、路面電車に限らず、従来型鉄道よりも輸送力が軽量級の都市鉄道を意味することが多い)。高齢者も乗り降りしやすいよう、車両が低床型で、停留所もバリアフリー化されており、揺れを抑える軌道が採用されている。富山市の場合は、利用者が激減していたJR富山港線を富山市が引き受ける形で、LRTを導入。公設民営化なので富山市から補助金が投入されており、利用者も順調に増加している。富山市は自動車保有台数が全国第2位という車社会だが、公共交通の利便性を高めることでコンパクトシティ化が比較的うまく進んでいるといえそうだ。ただ、富山市のLRT事業が順調なのは、北陸新幹線の富山乗り入れといった状況によるところも大きい。多くの自治体でLRT導入が検討されているが、実際の導入事例は富山市くらいしかないのが現状だ。堺市や宇都宮市などでもLRT導入計画はあるものの、反対の声も根強い。LRTの建設費は1km当たり20億円程度とモノレールや新交通システム(ゆりかもめなど)の1/5程度だが、10km以上の路線を敷くのであれば数百億円にはなるため、地方自治体にとっては負担が大きい。

その他の低コストの交通システムとしては、東京大学生産技術研究所と泉陽興業が研究を進めているエコライドがある。エコライドは、いわば街中を走るジェットコースターといえるだろう。一般的な鉄道と異なり、エコライドのレールは(遊園地のジェットコースターほどではないが)高低差がある。レールに張られたワイヤーロープを車両のフックに引っかけて、レール側の巻き上げ機で車両を高い位置に引き上げ、あとは車両が重力にしたがってレールを下っていく。この繰り返しで、運行する仕組みだ。車両側にエンジンやブレーキを搭載する必要がないため軽量化でき、レールなどの負担を減らすことができる。1kmあたりの建設コストはLRTとほぼ同等だが、道路の中央分離帯や歩道上に敷設でき、建設用地を新たに確保したり、既存道路を広げたりする必要がないのが利点だ。

その他、2020年の東京オリンピックに向けては、臨海地域と都心部を結ぶ公共交通機関として、BRT(バス・ラピッド・トランジット)と呼ばれる、専用バスレーンに連節バスを走らせるシステムが鉄道に代わって提案されている。

エコライドの車両の写真
[写真] エコライドの車両は動力源を持たず、極めて軽量にできている。車体の引き上げやブレーキングもレール側が行う。

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