No.007 ”進化するモビリティ”
Topics
交通インフラ・交通システム

需要に応じて運行を変更する、オンデマンド交通システム

都市郊外では、利用者が少ないために路線バス事業者が撤退してしまうことも少なくない。こうした地域では、自治体がコミュニティバスを運営して交通需要に対応することがあるが、ほとんどのコミュニティバスは赤字になってしまっている。

この問題に対応するため各地の自治体で導入が進められているのが、オンデマンドバスだ。利用者は必要に応じてバスの予約を行い、事業者側で似たような利用者を一括で輸送する乗り合い形式である。東京大学では、利用者の要望に応じて最適なルートを算出できる運営システムを開発。個人の乗車履歴を蓄積することで乗車のニーズを推定し、利用客に乗車を勧めることで乗り合い率を向上させ、収益を増やすことに成功した。現在、このシステムを利用したオンデマンドバスは、全国30の自治体に導入されている。

また、富士通研究所とMITは、需要に応じてダイナミックに運行方式を変えられるオンデマンド交通システムを開発中だ。このシステムでは、まず運行事業者がミニバンやタクシー型の車両を、路線バスと同じように決まった路線に走らせておく。利用者は出発地、目的地、希望到着時刻のリクエストをスマートフォンを使って運行事業者に送信。運行事業者のサーバーで計算を行い、乗車便の選択肢を利用者に返信する。料金は高いがすぐにやって来て目的地に直行するタクシーモード、同じ目的地に行く人が近くにいるなら乗り合いモード、あまり急いでいないのであれば固定路線モード、といった具合である。車両リソースを無駄なく活用できるため、ある程度利用者の見込める大都市近郊であれば、タクシー運用のみの場合に比べて事業者の収益を最大1.82倍にまで高められるというシミュレーション結果が出たという。

かつて未来の都市交通システムといえば、自動運転の新交通システムや動く歩道といった大型インフラが想起されたものだった。だが、少子高齢化、また2000年代以降の景気低迷により、大型の都市交通インフラが有効なケースは減少している。その一方、クラウドコンピューティングやスマートデバイスが発達したことで、カーシェアリングのような事業が現実になった。今後は、カーシェアリング、オンデマンド交通、自転車シェアリングなどのサービスが既存の公共交通ともシームレスに結びついて、都市交通網を形作っていくことになるだろう。

Writer

山路 達也(やまじ たつや)

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『Googleの72時間』(共著)、『新しい超電導入門』、『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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